物語を感じるものにしようと考えてました
──アルバムには、収録されていませんが、昨年リリースされたアフロさん(MOROHA)とのコラボ・シングル“日々”のMVも同じく風景が写っていますよね。
“日々”の風景は人がメインなんです。人々の日々、スナップショット。いろんな人がいろんなふうにいろんな感じで揉めながらも共感しながら、なんだかんだ生きている。その中を颯爽と小学生がチャリンコ立ち漕ぎで駆け抜けていく。だから”東京”は真逆ですよ。人はほとんど映ってませんから。人が居なくなった街がメイン。僕らはどういう土地で生きているのか。街の地面、つまりアスファルトの下には確実に土があるんだと。土、あまり見ないんで、道路の下に土があるってこと忘れてるんですね。そんな東京かな。
──“日々”でアフロさんとコラボしたのは、どういう経緯だったんですか?
あるとき、アフロ君から「ヒプノシスマイクの曲を作ることになったんですけど、池永さん、トラック作ってくれませんか?」って電話があったんです。ちょうど同じタイミングで僕も”日”って曲でアフロ君に歌ってほしくて連絡しようと思ってたんです。だからびっくりしました。「ちょうど僕も連絡しようと思っててん」って。縁ですよね。ほんとそういうのは大切にしたいです。 “日々”はアフロ君がむちゃくちゃ良い歌詞を書いてくれました。歌もむちゃくちゃ良かったし。あの当時のあの瞬間を確実に捉えていると思います。
──“日々”は池永さん的にも手ごたえがあったんですね。
とても良いのができたと思っています。歌も演奏もガッツリハマってました。いつかライヴで一緒に演奏したいです。この前久しぶりに“日々”のMVを見たら、当時よりもいまの方がさらにグッときて、「うん、生きてるよ」って思いました。
──“日々”や“東京”のような、池永さん自身のリアルさみたいなものは、音楽のなかに自然と入れている感じなんでしょうか?
なんかカッコつけてるなとか、嘘くさいな、と思ったら自分のリアルさ、肌感に合うまでやり直します。だから”東京”はむちゃくちゃ時間かかりました。

──なるほど。今作は、作家・シンテツさんの小説も、作品におけるひとつの根幹になっていますが、実際はどういう作り方をしていったんですか?
楽曲を聴いてもらって、基本的にはお任せです。上がってきた内容に対して、話し合ったりはさせてもらっていたんですけど、好きなように書いてもらいました。
──どういう部分を擦り合わせていったんですか?
主役のスズちゃんの行動理由をもう少し付けたいと思ったんですよね。スズちゃんの背景っていうか、これも景色ですよね。行動に違和感がないくらいに背景をしっかり作り込めれば良いなと思って話し合いました。
──今回の小説に対して、音楽と共鳴してくれたなと思う部分はどういうところですか?
火花のラスト、「ブレーキパッドが、新たな誕生を祝福する如く、盛大な火花を散らした」の部分ですね。ものすごく楽曲の”火花”と共振する音楽的な描写だと思います。
──楽曲についても聞いていきますが、今作はあら恋のバンドメンバーとどうやって作っていったんですか?
まず僕がデモを作ってみんなに送ります。そこから録音です。
──メンバーみんなにデモを渡したあと、それを演奏してもらったデータを戻してもらう感じなんですか?
メンバーと共に録音します。直に会ってあれこれ言いながら録音した方が人同士としても深まりますし、人同士が深まれば曲も深まります。実際会ってワイワイ言いながら録音した方が楽しいですしね。そこから録音したものを聴きながら構成し直したりアレンジします。思ったよりパワフルなフレーズが録音されてたりすると曲が長くなっていったり。あと今回はミックス・マスタリングも初めて自分でやっています。オータケ君(ギター)と一緒にカセットMTRに音を通して柔らかくしたりもしました。
──なるほど。「ライヴでやるの難しすぎますよ」って言われたりしませんか(笑)?
あんまり言われないかな。「うおー! これ難しいっすね」って言いながらやってくれますね。ライヴ、楽しいですよ。
──“東京”という楽曲自体はどうやって作っていったんでしょう。
コロナ禍でライヴがなかったので、ライヴで演奏する事は考えずに作りました。だからより映像的というか、物語を感じるものにしようと考えてました。だから必然的に長くなっていきましたね。
──池永さんのなかで想像していた“東京”の映像は、MVと同じイメージですか?
同じです。編集も撮影もやってますから。完全にあのイメージです。美しい虚無みたいな。初めはそのイメージが強すぎて、曲がもっと静かだったんですよ。ギターの歪みも入ってこない。そんな曲、聴いててつまらないんです。絶望してるだけっていうか、眺めているだけっていうか。やっぱりドカーンと行ってしまいました。「もう行っちゃいましょうよ」ってオータケ君(ギター)の後押しもあり。すると曲が活き活きとしてきて、そのドカーンと行った振り幅の分、逆に落とせるし。やっぱこっちなんですね、あら恋って。
