Hi-yunkが初のソロアルバムをリリース──「混沌」とした音楽性とパーソナリティが凝縮されたオリジナル・スタイル

BACK-ONのフロントマン・KENJI03のソロ名義でのプロジェクト、Hi-yunk。これまでの先行曲を含めた、ソロ名義初のフルアルバム『MUSIC FROM CHAOS』が5月29日にリリースされた。「飽き性」な性格のせいか、音楽にとどまらずあらゆる領域のカルチャーを縦横無尽に吸収し自身の音楽に落とし込むHi-yunk。そうして出来上がった楽曲は、まさに「混沌」そのものであり、その「混沌」は必然的に彼の唯一無二の音楽性につながっていく。今回は、以前のインタビュー時点では公開されていなかった収録曲にまつわる裏話や選定理由、そしてギタリストとしてのポリシーやHi-yunk名義での展望についても語ってもらった。
ボーダーレスな音楽性を宿したソロ名義初アルバム
インタヴュー第3弾
インタヴュー第2弾
インタヴュー第1弾
INTERVIEW : Hi-yunk

Hi-yunkの初ソロアルバムのタイトルは、『MUSIC FROM CHAOS』(ミュージック・フロム・ケイオス)。ミクスチャーロック好きやプロレスファンなら、ピンとくるオマージュを込めたタイトルであると同時に、幼少期から様々なカルチャーに触れ、時代もジャンルも横断してまさにCHAOS=混沌としたバックボーンを持ったHi-yunkの音楽性とパーソナリティそのものを表している。思いっきり人間味に溢れた11曲が並ぶこのアルバムを聴けば、きっとそれがよくわかるはず。これまでの3回にわたる取材で語ってもらった既発曲を除くアルバム全曲について、話を訊いた。
インタヴュー&文 : 岡本貴之
写真 : 宇佐美亮
ギターを始めたときのあの気持ちを忘れないようにしたい
――『MUSIC FROM CHAOS』というタイトルはどんな意味でつけたんですか?
Hi-yunk:アルバムを作ってるときに、「CHAOS」っていう言葉が頭に浮かんできて、マルコム・マクラーレンのワードで「CASH FROM CHAOS」 (映画『GREAT ROCK'N'ROLL SWINDLE』で着ているTシャツで有名)っていう、 “混沌の中の金”みたいなちょっと皮肉った感じのメッセージがすごくかっこいいなって思ったんです。それを自分の中でどう昇華するか考えたときに、幼少期から今にかけて、幅広い音楽を聴いてきた自分の頭の中と、「CHAOS」っていう言葉が一致したので、こういうタイトルにしました。
――新曲6曲、セルフカバーが5曲収録されていますが、選曲は何を基準に考えたのでしょう。
Hi-yunk:自分が影響を受けた音楽を満遍なく、過去から今、未来みたいな感じの表現ができるように、ジャンルやスピード感はあまりかぶらないように棲み分けしました。それは今回のアルバムで結構キーポイントになったと思ってます。選曲は悩みましたけど、今日良いと思っても明日違うなって思うこともあるし、考えるときりがないので、あんまり考えずに選んだら良い感じのCHAOS感、ミクスチャー感が出たんです。狙ってるわけじゃないんですけど、色んなことが繋がっているというか、プロレスも好きだし、自分が聴いてきた音楽もカルチャーもやっぱり全部がどっかで合流するというか、「この表現は自分にしかできないだろうな」っていうアルバムになったと思います。


――1曲目のリード曲 “One Thing”は書き下ろしですよね。
Hi-yunk:そうです。もともとリード曲として作ってたわけじゃなくて、去年の秋ぐらいから楽曲を作り出した中で、アルバムをギュッと締めるような曲が欲しいなと思っていたんです。たまたま、朝のルーティンのジム帰りに車の中でなんとなくこの曲のサビまでのワンコーラスのメロディーが思いついて、ボイスメモをとって家に帰ってアコギを乗っけてすぐに曲として完成した感じなんですけど、他の曲を先に作らなきゃいけなかったので、だいぶ寝かせていたんですよ。それを今回引っ張り出してきて形にしたら、僕はアルバムの7、8曲目的なポジションの楽曲だと思ってたんですけど、これをリードにして1曲目に持ってくることによって、アルバムの複雑さや面白さが出るかなと思って、1曲目でリード曲にしたんです。BACK-ONではなかなかやらないようなテイストの曲だし、ソロでしかできない世界観もあって、僕の中ではすごく気に入っている楽曲の一つですね。
――この曲のサビってものすごくキーが高いと思うんですけど、1曲目にしてボーカリストとしての個性と魅力が全開になっているように聴こえました。
Hi-yunk:ありがとうございます。デビュー当時、そこまでハイトーンが売りでもなくてそういう曲もなかったんですけど、それも音楽人生を歩んでいる中で身に付いた武器なんですよ。そういった意味では、今の自分のいちばんの武器であるハイトーンを生かした楽曲が、リード曲のサビの部分で使われるっていうのは、新しい自分が完成できたのかなと思ってます。
――この曲の歌詞には、ここに至るまでには挫折もあったんだなっていう感じも受けます。
Hi-yunk:そうですね。だからまさにこのアルバムの象徴というか、人生の中でいちばん自分を照らしてくれたのが音楽であって、最初にギターを始めたときのあの気持ちを忘れないようにしたいっていう決意もあって、アンセム的な歌詞にしました。でももしかしたら、1年後、2年後、10年後にはこういう思いじゃなくなるかもしれない。この歌詞って一見シンプルでありふれた言葉に見えるかもしれないですけど、自分が20歳のときにデビューしたときのアルバムの歌詞を見ても、そのときの心境が入ってるし、歌詞って本当に記録としてすごく大事なアーカイブだなっていうのは感じました。
――“One Thing”のMVでは、3ピースバンドを1人で演じている映像がありますよね。先日のテレビ番組でこの曲を歌ったときも、ベースのShunさん(TOTALFAT)、ドラムのNosukeさんと3ピースバンドで出演していました。元々そういう構成のバンドに憧れていたのでしょうか?
Hi-yunk:今でもそうなんですけど、3ピースがバンドのいちばんかっこいい形態だと思っているんです。影響を受けたバンド、グリーン・デイとかニルヴァーナもそうだし、最低限の人数で楽器を鳴らして沸かせているのがかっこいいなと思っていて。自分がもしも、BACK-ON以外のバンドを組むんだったら、絶対3ピースがいいなと思っているので、MVでもテレビでも3ピースでやったんです。


――SHOKICHIさん(EXILE)への提供曲のセルフカバー “Underdog” を選んだのはどうしてですか?
Hi-yunk:単純に気に入ってる曲でもあるんですけど、すごく印象的だったんですよね。(2018年の曲提供時)そのとき初めてSHOKICHI君と仕事をしたんですけど、メインストリームでダンス・ミュージックをやってる人が、こういうロックがルーツなんだと思って、意外性と新鮮さもあってこの楽曲が好きになったんです。すごくリスペクトするコンポーザーのUTA君とも一緒に作れたこともあって、いつかカバーしたいなと思っていたので、今回のプロジェクトの最初の段階で決めてました。でもやるんだったら汚したいというか、自分なりにいい尖り方をしてカバーしたいなと思って、こういうアレンジにしてカバーしましたね。原曲は割と普通のロックサウンドでSHOKICHI君が歌うことでプラスαのミクスチャー感が出ていたんですけど、自分がカバーするにあたっては最近のUSのビート感を出してヒップホップ寄りの“Underdog” を表現したかったんです。
――新曲 “Never look Back”はここまでのアルバムの流れの中ではポップで明るい印象です。
Hi-yunk:これも作ったのはもう10年ぐらい前で、元々違うアーティストさんに作った楽曲だったんですけど、ふとした瞬間にメロディーを思い出したりしていたので、やっぱりいい曲なのかなと思ったんです。あとは今回のアルバムを作るにあたって、自分の中でのポップの枠を置かなきゃいけないなと思ったときに、この曲がすごくバランス的にいいなと思って選びました。
――この曲、ドラムの音がすごくいいなと思います。
Hi-yunk:基本的に全部自分が打ち込んでるんですけど、ドラムは自分の中でメロディーと同じぐらいこだわってるんです。ドラムのビート1つ1つがちゃんとできたら、もうその時点で僕の中で8割方完成かなっていうぐらい重要視してる部分ですね。1つ1つのキックの入れ方とか、スネア、ハット、本当に少しずれただけでも、印象がいきなり変わるし、たかが8ビートですけど奥深いなっていうのは僕の中にあるんです。この曲も、結構こだわってビートメイクしました。

