H ZETTRIO インタヴュー――3人の人間力が表出した“奇跡的なアルバム”

リオデジャネイロ・オリンピック閉会式で行われたリオから東京への引継ぎ式で披露された映像で、スーパーマリオに変身した安倍首相が土管を通ってリオへと向かうシーンに前作『Beautiful Flight』収録曲「Neo Japanesque」「Get Happy! (Beautiful Mix)」が使用されたことも話題のH ZETTRIO。待望のリリースとなる3rdアルバム『PIANO CRAZE』(OTOTOYからは“EXCITING FLIGHT盤”を配信)は不思議な作品だ。
2016年2月の「Wonderful Flight」から6月の「PIANO CRAZE」まで、ツアーを行いながら生まれた曲たちを次々とレコーディングしては配信してきた8曲に「Next Step」「Passion」「Memory」「夢と希望のパレード」ボーナストラックの「炎のランニング」を加えた13曲を通して聴くと、アルバム制作を念頭に置いて作った曲たちではないにも関わらず、間違いなく1枚の作品としての流れを感じることができるからだ。野性的で情熱的な前半からセンチメンタルで多幸感溢れる後半へ。彼らの超絶的な演奏テクニックよりも、むしろ人間力が如実に表れたこのアルバム。彼らはこの作品を称して“奇跡的なアルバム”と言った。
OTOTOYでメンバー3人にがっつり話を訊くのは今回が初めてということもあり、そのビジュアルからはあまり伺い知ることができない3人の素の部分にも迫ってみた。それぞれのパーソナリティーが音楽を通して表れる瞬間を想像しながら読んでみてほしい。
インタヴュー&文 : 岡本貴之
ボーナストラック含む全13曲入の"EXCITING FLIGHT"盤をハイレゾで!
H ZETTRIO / PIANO CRAZE“EXCITING FLIGHT”
【配信形態 / 価格】
ALAC / FLAC / WAV / AAC
価格 まとめ購入 3,930円(税込)/ 単曲 432円(税込)
【トラック・リスト】
1. PIANO CRAZE (Beautiful MIX)
2. Next Step
3. Dancing in the mood
4. 晴天 - Hale Sola -
5. Passion
6. Den-en (Beautiful MIX)
7. Another Sky (Beautiful MIX)
8. ダイナミックにとろけて
9. MESHI - episode 2 -
10. Memory
11. 夢と希望のパレード (Beautiful MIX)
12. Wonderful Flight
13. 炎のランニング(Bonus Track)
H ZETTRIO - PIANO CRAZE (3rd Album 30" Trailer)H ZETTRIO - PIANO CRAZE (3rd Album 30" Trailer)
去年、連続配信をやってみてすごく良い感触があったので今年もそれで行こうと(NIRE)

――昨年の8作品配信に続いて今年の2月から6月にも8作品を配信リリースしました。この1年間の活動にはすごく充実感があるんじゃないですか?
H ZETT M(Pf・以下H) : 色んな曲ができてたくさんライヴもやりましたので、どんどんスイッチが入る感じ、バンドが回り出している感じがありますね。
H ZETT NIRE(Ba・以下NIRE) : どんどんスピードアップしてくる感じの1年でした。配信、ライヴ、配信というサイクルが早まって行くに従って気持ちも高まってきて、今は絶好調ですね。
H ZETT KOU(Dr・以下KOU) : 今年に入って軍配が返ったなと。待ったなしというか(※KOUは好角家)、バンドの集中力がさらに増したというか。去年の年末に大好きなPE'Zというバンドが(笑)終わったので、さらに今年は頑張るぞという感じです。
――今回はそのPE'Zの曲「晴天 – Hale Sola」をセルフカヴァーしていますね。
KOU : そうです、これは“愛のオマージュ”です。
――配信で一曲ずつリリースするのではなくて、曲を溜めておいてアルバムとして一気にドーンと出そうという考えはなかったですか。
H : いや、そういうことは考えなかったです。今回は曲を出したらどんどん配信してしまおうということで、発表するスピード感が心地よかったんです。
NIRE : 去年、連続配信をやってみてすごく良い感触があったので今年もそれで行こうと。3月からずっと51公演のツアーをやっていたので、ライヴと配信の相乗効果でどっちも良くなるというか。すぐにお客さんの反応も見れて曲も鍛えられるので、非常に良いサイクルだと思いました。
――前回のインタヴューで、〈H ZETTRIOのメンバーは人を楽しませることが好き〉というお話がありましたが、3人が共有している楽しいことって音楽以外ではどんなことがありますか?
KOU : 意外とそういうのバラバラかもしれないですね。僕は大相撲で、琴奨菊が優勝した直後にレコーディングがあったんですけど、やっぱりすごくテンションが上がるんですよね。個人的にはそういう音楽への影響はあるんですけど、みんなに「大相撲って楽しいんだよ」って言っても「ああ~」っていう感じで(笑)。
NIRE : でも、話を聞いて影響を受けていることはお互いどこかにあるとは思いますよ。僕はジョギングが趣味で。最初は「他の人に比べて体力がないんじゃないか」って義務感でやっていたんですけど、ツアーで全国の色んなところに行くので、そういうところで走ると家の周りと全然違って観光にもなるし楽しいんですよね。ただ、メンバーに「走ろうぜ!」って勧めるのもなんなので(笑)。
H : 僕はサッカーが好きなんです。最近はバルセロナのインスタグラムがメッシのちょっとした技を7秒くらいで載せているんですけど、そういうのを見てますね。他にも、バルセロナだけじゃなくサッカーのすごい技がネット上にいっぱいあるので、それをひたすらずっと見てます(笑)。力の入れ具体とかは結構、ステージとか立ち振る舞いにも影響しているのかなと思います。

――ライヴでのアクションにサッカーの動きが影響を及ぼしている?
H : そうです。その柔らかさといいますか、ジダンとかも、ポーンと上げたのをこうスポッと…。
KOU : ははははは。トラップがね、尋常じゃない。
NIRE : 魔法のような動きだからね。
H : あの柔らかさを、生活に取り入れたいです。それに、ボールに対する柔らかさと鍵盤に対する柔らかさはちょっと似ているところがあるんですよ。
――アルバムは「PIANO CRAZE」から始まり打楽器的な演奏の「Next Step」と、柔らかいタッチとは対照的な激しい曲で始まりますが、鍵盤へのタッチというのは一曲ごとに全く違うものですか?
H : やはり曲のキャラクターというものがありますから、それに応じた弾き方をしているつもりです。
――リズム隊のお2人からするとピアノを打楽器的に捉えることもあるのでしょうか。
KOU : 打楽器的な要素は確かにありますね。ピアノの音が出るところは打楽器みたいだし。ギターとかより粒が出てリズムが出てくるんだと思います。
NIRE : (ピアノが)ドラム寄りの立ち位置に行っている感じがするな、というときはあります。打楽器が2人で自分が弦楽器で支える自由さみたいなものはあって。逆にベースがパーカッシブな方に行って、ピアノが支えることもあったり、ポジションチェンジができるような自由さがこのバンドにはあるんですよね。全員どのポジションにも行けるという、サッカー的な(笑)。
一同 : (笑)。
NIRE : 割と3人で自由な立ち位置に行けるんです。守っても良いし攻めても良いし。ライヴではそういうのが楽しいですね。すごく覚えていることがあって、2013年に初めて横浜でライヴをやったんですけど、ベース・ソロのときに目を閉じて弾いていたんです。そしたら2人の音が消えて。「どうしたんだろう!?」と思って目を開けたら2人が前に出て踊っていたんですよ、楽器を演奏しているはずの2人が(笑)。そのときに「あ、自由なんだな!」って思いました。楽器弾くのを止めて前に行っちゃっても良いんだな、と。何でもありだなって。

できたらすぐ配信する〈録って出し〉の流れでアルバムができた(H)

――今回の曲でそうした自由さを一番発揮できた曲を挙げてもらえますか?
KOU : ドラム的に言うと激しくて自由にやっているという意味では「PIANO CRAZE (Beautiful Mix)」ですね。所謂リズム・キープというところに全くいないというか、ずっとソロをやっている感じで進んで行くので。2人がキープしている感じで、すごく新鮮でした。
――「炎のランニング(Bonus Track)」はものすごい速弾きの演奏ですが、曲の最後に笑い声が入っていますよね。
NIRE : これは私の声ですね。最後のメロディがあってその後にかなりハードなドラム・ソロがあって(KOUが)レコーディングの最中に激しく叩いている姿がブース越しに見えてたんです。そしたら演奏中にKOUさんの頭からヘッドフォンが〈スポーン!〉って綺麗に飛んだんですよ。そんなの初めて見たので「なんだ!?」ってその場で笑いそうになったんですけど、まだ録っている最中なので堪えて。終わった後に笑っちゃったんです(笑)。
KOU : 激しくてヘッドフォンが邪魔になってきちゃったので自分から取ったんですよ。
NIRE : それを叩きながらやったから、ものすごい動きに見えたんですよ。それで笑っちゃったんですよね。一生懸命作ったアルバムの最後が私の笑い声で終わっているという。
H : この曲はピアノのフレーズが結構速くてですね、余裕こいて弾けると思っていたら、本番になって弾けなくて。「15分時間ください」って言って、練習してからレコーディングしました。
――もはや弾けないようなことってないのかと思いましたけど、この曲はご自分で作っていながら苦労したんですか。
H : ちょっと弾いてみてから聴いてみると、どんどんジャッジがシビアになっていくというか。「ここをもっとこう弾きたい」という欲が出てくるんですよ。この曲はずっとライヴでやっているんですけど、今回ボーナストラックとして展開を変えたんです。ジャズのインプロビゼーション的なところもありつつ、若干クラシックかなというところもある、いつものライヴでやっているのとは違うなかなか変わった曲になったのでライヴで聴いていたファンの方も改めて聴いてほしいです。

――Mixは違うにせよ、1曲ずつ配信してきたものがアルバムの大半を占めているわけですが、アルバムとしてはどういう1枚にしようと思っていたのでしょうか。
H : できたらすぐ配信するという〈録って出し〉だったので、その流れでアルバムができたという「奇跡の一枚」ですね。
NIRE : 確かに奇跡的なんじゃないですかね。ツアーをやりながら録音して配信して行って、アルバムをマスタリングしてから頭から通して聴いてみたら、ちゃんと流れを感じるというか。あたかもそういう流れがあって作ったかのように感じたんですよね。すごく良いアルバムができたと思いますし、思い入れのある作品になりました。
本当に奇跡的な曲の並びなんじゃないですかね(KOU)

――野性的で激しい前半から静かなバラード「Memory」、賑やかな「夢と希望のパレード (Beautiful Mix)」という風に、確かにアルバムとしての流れが感じられます。
NIRE : 最初からアルバムを作るために曲を作ったような、そのためにツアーもやってきたかのような感じですよね。だから聴いてみてグッとくるものがありました。アルバムが完成するとどうしてもチェックする耳で聴いてしまうので、客観的に聴けるのはだいぶ経ってからなんですよ。でもこのアルバムはすぐにリスナーとして聴いてグッとくるものがありました。
KOU : 本当に奇跡的な曲の並びなんじゃないですかね。野性的とおっしゃって頂きましたけど、そういう意味で言うと「MESHI – episode 2 –」なんかはまさに〈食べる〉という野性的なテーマで。これがまた良い出来で、NIREさんの語りも入っていて。「MESHI」の続編なんですけど、前回お客さんにすごく好評だったのでさらに楽しんでもらおうと思いまして。
NIRE : 「MESHI – episode 2 –」もライヴでは既にやっているんですけど、すごく盛り上がるんですよね。KOUさんが曲に合わせてお箸を持つ感じでスティックを持って叩いたりしてお客さんが笑ってくれています。
――〈愛のオマージュ〉とおっしゃったPE'Zの「晴天 – Hale Sola 」を選んだのはなぜですか?
H : 好きだと言ってくれる方が多い曲なので、このタイミングでやっておこうと思ったんです。思い入れのある曲でもあります。14年前の曲ですが、変わったものと変わらないものが共存しているというか、良い意味で大人になっている気がしています。激しさの中に優しさもあるプレイというか。昔は勢いだけというのもありましたから、視野が広がっていると思います。
――「Den-en (Beautiful Mix)」もカヴァーで、1stソロ・アルバムに収録された「田園」のリメイクですね。
H : これも非常に大人になったという感慨深いものを表現できているなと思っています。単純だったものから〈複雑を含んだ単純〉を知ったというか、昔は思考が単純だったので思いつかなかったところが、色んな生活の中から「こういう考え方もあるんだな」というものを経て新しいフレーズが生まれているんだと思います。

――今回のレコーディングで新たに試みたことはありましたか?
H : いや、昨年からレコーディングとライヴを続けてきたので、引き続きという感じですね。マイクの立て方とかは色々やってはいましたけど。
NIRE : これまでもそうなんですけど、特にこのアルバムからは意思の疎通が早くなってきましたね。曲を録るまでの一連の流れがより短い時間でできるようになってきたと思います。3人の波長が「ここだ!」っていうところで集中して合うようなところがよくなってきているんじゃないかなと。
KOU : 去年からツアーをやりながらレコーディングする繰り返しだったので、個人個人のスキル、3人で作る三角形がより強固な三角形になった気がしますね。
――ライヴに足を運ぶお客さんには家族連れの方も増えているのではないと思うのですが、ライヴの見せ方で変わってきたところってありますか?
H : 小さい子から年配の方まで喜んで欲しいなと思うので、どうやったら喜んでもらえるかを考えつつ、音に真剣に向き合いたいなと。この前のツアーも舞台小屋的なところからジャズクラブ的なところでもやりましたし、ライヴハウス、野外の夏フェスとかどんなところでもできますよ、というバンドですので本当に色んな人に観てもらいたいですね。
KOU : 小さな男の子が前でずっと踊っているライヴもありましたからね。逆にこっちが刺激をもらっちゃいました。色んなところに行って“はじめまして”っていう感じでツアーもフェスもやりたいと思います。
NIRE : 前回のツアーではトリオで行くのは初めてという土地もいっぱいあって、幅広い世代のお客さんが来てくれていたのですごく嬉しかったですし、それがもっと広がっていけばいいなと思っています。今回、すごく良いアルバムができましたし、配信された曲も“Beautiful Mix”として音が変わっているのでそのあたりも聴き比べてみてください。
RECOMMEND
H ZETTRIO 『PIANO CRAZE(24bit/96kHz)』2016年
そのタイトル名の通り、打楽器を叩くかのように縦横無尽に弾きまくるピアノに、ウッドベースとドラムが加わりクレイジーさが増幅し続けるような楽曲。3人の高い演奏力とユーモアの詰まったハイテンションな演奏がかっこ良すぎる。
H ZETTRIO『Beautiful Flight“EXCITING FLIGHT”(ハイレゾ版)』2015年
H ZETTRIOの2ndアルバム。生楽器を使うことにこだわり、限られた楽器編成の中で最高のアンサンブルを高い演奏スキルによって実現した全12曲+ボーナストラック1曲を含む全13曲。
H ZETTRIO『★★★』2013年
ファースト・アルバム。聴くと思わず体を動かしたくなる「みんなのチカラ」、広い空を想像させる「パノラマビュー」など、高い演奏力と笑えるパフォーマンスは、聴いた途端に魅力にとりつかれるだろう。
LIVE INFORMATION
〈PIANO CRAZE Next step!〉
2016年10月2日(日) @ 渋谷CLUB QUATTRO ※SOLD OUT
開場 : 16:00/開演 : 17:00
問い合わせ : サンライズプロモーション東京(0570-00-3337)
2016年11月4日(金)@愛知 名古屋CLUB QUATTRO
開場 : 18:00/開演 : 19:00
問い合わせ : 名古屋CLUB QUATTRO (052-264-8211)
2016年11月5日(土)@大阪 梅田CLUB QUATTRO
開場 : 16:00/開演 : 17:00
問い合わせ : SMASH WEST(06-6535-5569)
2016年11月6日(日) @ 渋谷CLUB QUATTRO ※追加公演
開場 : 16:00/開演 : 17:00
問い合わせ : サンライズプロモーション東京(0570-00-3337)
2016年11月13日(日) @ 福岡 小倉LIVE SPOT WOW!
開場 : 16:00/開演 : 17:00
問い合わせ : BEA(092-712-4221)
2016年11月19日(土) @ 札幌Sound Lab mole ※SOLD OUT
開場 : 16:00/開演 : 17:00
問い合わせ : Mount Alive(011-623-5555)
2016年11月20日(日) @ 北海道 帯広MEGA STONE ※追加公演
開場 : 16:00/開演 : 17:00
問い合わせ : Mount Alive(011-623-5555)
PROFILE
2014年、スイスで開催されている世界3大ジャズ・フェスティバル「モントルー・ジャズ・フェスティバル」への出演をキッカケに、国内外の大型フェスに多数出演。ピアニストのH ZETT M(pf/青鼻)は、2015年に解散した”PE’Z”のヒイズミマサユ機、またもや椎名林檎が率いた“東京事変”第一期の鍵盤だった「H是都M」なのではないかという憶測が飛び交うも、本人はぼんやりと否定。
ユニーク且つ“無重力奏法”と形容されるテクニカルなピアノと、H ZETT NIRE(bass/赤鼻)、H ZETT KOU(dr/銀鼻)が支えるキレのあるリズムセクションを武器に、独自のアンサンブルを響かせる。この3人以外には作り出せない音楽とグルーヴを追求し続けている。
これまでに配信リリースしたシングル16曲全てがiTunesジャズランキングで首位を獲得、2015年11月に2ndアルバム『Beautiful Flight』をリリース、2016年9月には待望のNEWアルバム『PIANO CRAZE』のリリースが決定している。
>>H ZETTRIO オフィシャルサイト