今、ものすごく音楽活動が楽しくて。ワクワクが止まらないんです。
──「羽化」のラストの楽曲「カイコ-飛べない天使-」の最後の歌詞も「瞳の中」で締めくくられるんですよね。
丁 : そうなんです。でもこれも本当にたまたまで。「羽化」のリリースのお話を頂いたときに、このアルバムの最後の曲は絶対に「カイコ-飛べない天使-」だと直感的に思ったので、意図的なリンクではないんですよね。
──となると丁さんにとって「瞳」は重要なモチーフのひとつということでしょうか。
丁 : よく歌詞に使う単語のひとつですね。瞳は身体の中でも、感情を交換することができる部位だと思うんです。純粋に物事を映したり、受け取ることができる。「目は口程に物を言う」とも言いますし、目を見て話をすると相手の思っていることがより伝わってくることも多いなと思います。あと、アニメーションは目の表現が独特じゃないですか。
──確かに。そうですね。
丁 : 京都アニメーションさんの描く瞳の表現もすごく綺麗だなと思っていたので、それを歌詞に取り入れたかったんです。アニメーションでも実写でもお会いした人でも、どうしてもまず目を見てしまうのと、自分で絵を書くときも目にすごく気合いが入るんです。だからメジャーデビューのタイミングで自分が大事にしている「瞳」という言葉をタイトルに入れられたことがすごくうれしいですし、毎週『ツルネ』を観るたびに「なんていいタイトルなんだ、なんていい歌詞なんだ!すごく作品に合っている!」と自画自賛しています(笑)。
──殻を何重も破った初の書き下ろしでそんなふうに思えるのは、とても幸せなことですね。
丁 : ずっと願っていた「自分以外の誰かと曲を仕上げていく」が実現できたという意味でも、すごくうれしいですね。ここまでしっかりタッグを組んでの制作は本当に初めてだったので、わからないこともありながらでしたが、すごくいい経験になりました。サウンド面も華やかでアオハルが伝わるもの、『ツルネ』の登場人物やリスナーさんと同じ目線で前に進んでいけるようなイメージを追求していきました。
──夜の世界を丁寧に曲に落とし込んでいた丁さんは、朝を迎えてどのような心境でしょう?
丁 : とうとう朝を迎えてしまった!という感覚もありますね(笑)。「ヒトミナカ」を制作していくなかで、やっぱり自分は月の下が好きだったんだなと再確認をして。居心地のいい場所から出ていくのは、やっぱりすごく大変なことだとも思うんです。自分を鼓舞して、なんとか日の光の届くところに行かなきゃ……とがむしゃらになりながらの制作でしたね。
──EP「ヒトミナカ」は、全4曲で構成されています。2曲目「Whispering Lights」と3曲目「蟲森」は、丁さんがこれまで育んできた夜の旨味成分がぎゅっと出た楽曲ではないでしょうか。
丁 : 今回このEPを作るに当たって、4曲続けて聴いてもらえる作品になったらいいなと思って。だからこのEPは4曲でひとつの交響曲をイメージしてるんです。
──なるほど。交響曲は三ないし四楽章で作られますものね。
丁 : 第一楽章が「ヒトミナカ」、第二楽章が「Whispering Lights」、第三楽章が「蟲森」、それで最後に盛り上がりを迎える、パッションの強い第四楽章が「必」というイメージです。「Whispering Lights」と「蟲森」は両方とも星がテーマになっています。「星」も「瞳」と同じく自分にとって重要なテーマのひとつで、ファンネームも「丁星」と言うんです。だから今まで自分を好きでいてくださったファンの方に寄り添える曲になればという思いも込めた楽曲なんですよね。ちょっと暗い曲ではあるんですけど(笑)。
──「蟲森」はリスナーさんとのこれからも末永く続いていく関係を観念的な表現に着地させてらっしゃるのかなとも感じました。
丁 : ああ、なるほど。この曲は輪廻転生をイメージしていて。亡くなってしまった人の魂は、天の川のような星になって空で輝いているんだと、自分を安心させるためのような曲なんです。生きていると大変なことや苦しいこともあるけれど、いつか死んでしまったとき、その魂は森が連れていってくれて、さらに森でその魂が光輝いて、森の上にはその魂が流れゆく川ができていて……。自分の見えないところにも、そういう大きな思いが存在しているんだと感じられる曲にしたかったんですよね。私には私から見えている世界があって、リスナーさん一人ひとりにもその人にしか見えていない世界があるので、それぞれに寄り添えるような曲になればいいなと願いながら書いていきました。
──「必」は打ち込みとトライバルなビート、コーラスが入ったトラックで、先ほども語っていただいたとおりエモーショナルな印象を与えます。
丁 : 今までは風属性、水属性のような曲が多かったと思うんですけど、土属性に成長してみたいというイメージで力強い楽曲を作った結果、「必」ができました。これからいちアーティストとしても成長していきたいですし、いろんな物語を作っていきたいという気持ちもあるので、土属性楽曲の第1歩のイメージでもありますね。そうやって新しい世界に挑戦できるのも、新しく仲間になってくださったチームの皆さんのおかげでもあるんです。
──ひとりでSNSの海に飛び出して、少しずつリスナーさんや仲間が増えていって、自分なりの音楽の指針や方向性を見つけて、メジャーデビューを機に一緒にしっかりとタッグを組んで制作できる環境が整って。長年の夢が叶ったということですね。
丁 : そうなんです。だから今、ものすごく音楽活動が楽しくて。ワクワクが止まらないんです。だから今はメジャーデビューを果たしたという達成感よりは、まだまだ世に出したい曲がいっぱいあるので、もっともっと!という気持ちのほうが大きいんですよね。今回の新しい挑戦としては夜を抜け出した「ヒトミナカ」と、土属性の「必」ができたので、もっと土属性にも挑戦したいですし、のちのちは火属性の曲も作りたい。自分が火属性の曲を作ったらどんな曲になるんだろう?と全然想像がつかないからすごく楽しみで。だから今後もとにかくたくさん曲作りをしていきたいですね。
──「音楽を続けること」が活動を開始したきっかけでもありますものね。
丁 : そうですね。続けることによって、だんだんフォロワーさんやコメントもだんだん増えていって。反響をもらえた瞬間に「音楽をやっていて良かった」とすごく思うんです。テクノロジーも発達して新しいものがどんどん出てきているので、いろんな挑戦もしつつ、勉強もしつつ、とにかく音楽を続けていきたいですね。

編集:西田健
メジャーデビューEP「ヒトミナカ」
PROFILE : 丁
シンガーソングライター。 ミニハープを弾き語り、中性的で透明感のある声が特徴。 ハープ以外にも多くの楽器を操るマルチプレイヤー。 活動のテーマは「優しく足元を照らす蝋燭の灯火となる、 暗闇の中の希望となる音楽を奏でる」こと。 主にSNS上で活動。 オリジナル、カバーを問わず多くの楽曲を投稿。 2023年2月時点で、TikTok22.1万・Instagram13.3万・YouTube1.62万のフォロワーを獲得。
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