「夜」の青を描いていた自分とは対極だなと感じたんですよね
──メジャーデビューが決定し、その直前の2022年12月にオリジナル曲を音源化した6曲入りデジタルアルバム「羽化」がリリースされました。収録曲の「おどりこ」は2019年頭に制作なさった曲だそうですね。
丁 : 「おどりこ」はヴァイオリン以外の楽器を演奏するようになって、いろいろ勉強を重ねて、少しずつ機材が揃ってきた頃に作った曲で、他の曲は全部2021年2月の活動以降、YouTubeの配信をしながら作ったものです。
──1曲目の「ヒノト」はご自身の自己紹介ソングで、公式コメントで丁さんは「聴き手の足元を照らし、前に進むための道しるべの光になれたら」という祈りが込められているともおっしゃっていました。そういう音楽を発信したいと思うようになったのは、どんなきっかけがあったのでしょうか。
丁 : 「丁」という活動名を決めた時ですね。「丁」は「ひのと」という読み方もあって、「火の弟」という意味のある、太陽と対になる月のような存在のことを指すらしいんです。太陽みたいに輝かしくギラギラできないけど、暗い夜を優しく、ちょっと明るくできるぐらいの音楽が届けられたらいいなとはその時点でぼんやり思っていました。それと同時に、コンスタントに投稿を重ねていきながら「自分の声にはどんな曲が合っているんだろう?」とテストをしていたんですよね。
──様々なタイプの楽曲のカヴァー動画をアップしていたのは、それが目的であったと。
丁 : そしたら激しい曲や、うんとテンポの速い曲だと数字があまり伸びず、スローテンポの曲だと数字が伸びていくようになったんです。自分ももともとミドルテンポやスローテンポのアコースティック系の楽曲は好きだし、ちょうど「丁」という名前の意味とも重なるし、ならこの路線でいこうと決めました。だからすべてが偶然重なったなという感覚なんですよね。頂いたコメントや感想に参考になるものも多かったので、それを全力で取り入れながら作っていったのが「丁」なんです。
──先ほどおっしゃっていた「誰かと一緒に音楽がしたい」というマインドにつながりますね。リスナーと一緒に「丁」だからできる音楽制作をしてきたとも言えるのではないでしょうか。
丁 : ああ、確かに。そうとも言えますね。自分ももともと根暗で(笑)、夜中に考え込む癖があったんですよね。そんな要素が出た楽曲をリスナーさんから気に入っていただけることも運命的ですし、ここまでの活動、本当に偶然が重なっているんです。頂いた初めてのアニメタイアップも、まさか弓を題材にしたアニメのエンディング主題歌を担当できるなんて思ってもみませんでした。
──そうですね。「ヒトミナカ」は弓道を題材にしたTVアニメ『ツルネ -つながりの一射-』エンディング主題歌の書き下ろし楽曲です。
丁 : ハープも弦を使いますし、私がやっている「丁+t(テイとイテ)」という一人二役のマジカルユニットの、黒髪の名前が“イテ”というんですよね。弓を打つ人のことを「射手(いて)」と言うので、「これは奇跡で運命だ、このアニメーションの曲は私が作らなきゃ!」くらいの思いでお話を受けました。とはいえ弓道の世界には疎いので、まずそこから勉強をして『ツルネ』も全シリーズおさらいしていきました。京都アニメーションらしい神々しさやキラキラ感に、すごく青春が詰まっているなと感じたので、それに寄り添った曲を書きたいと思ったんです。
──「ヒトミナカ」は今まで月明かりや優しい光をイメージさせる楽曲を多く作っていた丁さんには新機軸ですよね。ここまで朝日をイメージさせる曲は新鮮でした。
丁 : 本当にそうなんです(笑)。これまではほんっとに夜の暗い曲しか作ったことがなくて。『ツルネ』に描かれている青春は「昼」の青で、「夜」の青を描いていた自分とは対極だなと感じたんですよね。だから『ツルネ』を観て直感的に「あ、私は夜から抜け出さなきゃいけないんだな。殻を何枚も破らなきゃいけないな」と思いました。今いる暗い暗いところから抜け出して光を掴みにいくにはどうしたらいいんだろう……とすごく悩みながら、必死にデモを作っていきました。
──公式コメントで「皆が円となって丸く輪が広がっていきますようにと、願いがこもっている」と書いてらっしゃいましたが、そのようなイメージで制作をなさっていったのでしょうか。
丁 : そうです。最初に提出した曲は荘厳な印象だったようで、イメージに合わないという話になって、そこからもっと明るい曲、さらに明るい曲、その上を行く明るい曲と、最初に提出した曲からどんどん太陽を昇らせるようなイメージで4パターンくらい作りました。それで3番目に作った曲を選んでいただきましたね。最初に作った曲の歌詞に「ヒトミナカ」という言葉が入っていたので、タイトルはそこから引っ張ってきました。