CROSS REVIEW 1 『RUBY POP』
居心地の悪さをアイナは解放して、過去も抱きしめて肯定してくれた
Text by 西澤裕郎
日本を代表するアーティスト。彼女のことをそう評するのに相応しい作品の誕生だ。
アイナ・ジ・エンドの3rdアルバム『RUBY POP』は17曲入り。タイアップ曲も多数収録されていることもあり、楽曲の種類は多彩。ポップソングから、ポスト・プログレッシブロック的なもの、今っぽいビートのトラックまで、バラエティに富んでいる。
どれも強烈な個性を持っているのに、統一感がある。それをまとめ上げているのは、アイナの歌声。いや、より正確に言えば、その歌声を最大限に発揮した表現力だ。
アイナが2015年から所属していた「楽器を持たないパンクバンド」BiSH。同グループもまた、バラバラな6人の個性の集まりだった。それぞれ違うベクトルの強みを持っていたが、そのメンバーの個性をまとめあげていたのも、彼女の歌であり、彼女の作るダンスでもあった。本アルバムを聴いていると、そう思わずにいられない。

アイナ・ジ・エンドは、本質を損なわずに、それを最大限活かしひとつにまとめあげる力を持っている。それを顕著に感じたのが、2024年9月11日に東京・日本武道館で開催された、ワンマンライブ「ENDROLL」だ。アイナ初の日本武道館公演は、大きなステージで堂々と、歌とダンス、そして彼女の信頼する仲間たちとの演出で満員の観客たちを魅せた。
その中でも特に印象的だったのが、BiSHのファンである清掃員について触れたMCでのこと。「8年間BiSHというグループをやっていました。ずっとその頃から武道館に立つのが夢でした。ここにもいるかな、清掃員?」と語るアイナ。清掃員たちのレスポンスに対し、「もっといるでしょ?」と笑顔で伝え、より大きな歓声が沸き起こった。その瞬間、会場の雰囲気は、よりひとつになった。
BiSH解散以降、6人のメンバーはそれぞれの個性を活かしながら邁進している。個として活動していくにあたり、BiSHという言葉からの脱却を目指しているのではないか。実際はわからないが、そのように感じている清掃員も少なくなかったと思う。結成当初から関わっていた筆者も、BiSHのことはあまり触れてはいけないのかと勝手に思っていた。そんな一方的な居心地の悪さをアイナは解放して、過去も抱きしめて肯定してくれた。
「私、アイナ・ジ・エンドになったのBiSHだから。BiSHを応援してくれてた人もここに来てくれて本当に本当にありがとう。BiSHじゃなく私を知ってくれた人も、本当に本当にありがとう。出会ってくれてありがとうございます」 アイナという存在の大きさを身をもって知った瞬間だった。「愛」。という言葉で言っていいのかわからないけれど、彼女の最大の魅力を語る上で、僕は、それ以外の言葉を持たない。
そんなアイナの3rdアルバム『RUBY POP』は、彼女のさまざまな愛の結晶のような作品だと思う。「宝者」ではナチュラルで伸びのある歌声を壮大に聴かせる。TK (凛として時雨) がプロデュースを手掛けた超個性的な「Red:birthmark」「Love Sick」ではエッジのある歌声を全開に解放する。インディ調のギターロック曲「関係ない」では少しぶっきらぼうで突っ張ったヴォーカルを魅せる。ビート中心の「帆」ではトラックの上でコンテンポラリーダンスをしているかのように自由に歌を駆け抜けていく。アルバムラストの「はじめての友達」ではミニマムなギターサウンドの上で、大切な人にささやくように歌う。
それぞれの楽曲の持つ個性を損なうことなく、それどころか最大限活かすように化学反応を起こしている。その根底にあるのも、やはり彼女の愛であり、本作に関わっているクリエイターたちへのリスペクトだろう。それでいて、アルバムを聴いて思うのは、アイナ・ジ・エンドという存在の大きさだ。アイナ自身が持つ歌声と多彩な表現力。本作は、そうした彼女の魅力を存分に堪能することができる、宝石のようなアルバムだ。
