REVIEWS : 096 ヒップホップ (2025年5月)──アボかど

"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手がここ3ヶ月の新譜からエッセンシャルな9枚を選びレヴューする本コーナー。自身のnoteを中心に、その他、各音楽メディアなどでヒップホップ〜R&Bについて執筆中、Lil'Yukichiとの共監修本『サウス・ヒップホップ・ディスクガイド トラップ・ミュージックを生んだ南部のラップ史』も刊行間近なアボかど。本コーナーではR&B Lovers Clubの一員としてR&Bの新譜に関しても書いてもらっていますが、今回はもちろんヒップホップの、ここ3ヶ月のエッセンシャルな新譜を9枚レヴューしてもらいました。
OTOTOY REVIEWS 096
『ヒップホップ(2025年5月)』
文 : アボかど
Allan Kingdom 『KYARIGA』
太い声でラップと歌を織り交ぜ、レゲエっぽいフレイバーも取り入れたアプローチを聴かせるミネソタのアラン・キングダム。エレクトロニカやフューチャーベースに接近するようなサウンドも好むオルタナティヴなラッパーで、タイトルに本名を冠した本作では父親の故郷である南アフリカ周辺にも視線を向けている。ドラムの手数を絞ったビートがフックでトラップ化する「Path」、穏やかなシンセが効いた「10,000」と序盤からアマピアノのトレードマークであるログドラムを使用。アマピアノと隣接するアフロビーツの要素も散見される。それでいて全体のトーンとしては、あくまでもアメリカのオルタナティヴ・ヒップホップなのが面白い。
Cut Beetlz, THEFOODLORD, Lord Karu Villain『LORDLOVESTERROR』
フィンランドのプロダクションデュオのカット・ビートルズが、アトランタのラッパーふたりと組んだブーンバップ作品。ターンテーブリズムの要素を含む捻じれたサウンドは、1990年代直系でも現行ブーンバップ内トレンドでもない癖の強い味わいだ。そこに乗るふたりのヘロヘロとしたラップは、ときおりヤング・サグ風の歯切れ良いフロウも交えて仄かにサウスのフレイバーを加えている。中盤のノイジーな「31ST」あたりから奇怪なビートが増加し、スクラッチの上で声のピッチをいじりながらラップする「TAPPINO」や金属的なドラムが効いた「LYING TO THE PUBLIC」など怪曲が並ぶ。アイデアが詰まったユニークな1枚だ。
Doodlebug, 80 Empire 『A Galactic Love Supreme』
アートワークに『ミュージック・マガジン』誌風に書かれた「【特集】ジョン・コルトレーン」が目を引くが、別にジャズ色が強いわけではない。ベテラン・ラッパーのドゥードゥルバグとトロントのデュオの80・エンパイアが組んだ本作は、ブーンバップを軸にしたカラフルな作品だ。ブラスバンドを迎えたファンクあり、スムースなメロウあり、もちろん貫禄のブーンバップあり……と多彩なアプローチに挑んでいる。ハイライトは「Amore」で、「アモーレ~、アイラブユー!」とわかりやすいフレーズを繰り返す歌フックが実に楽しい。「Delivelies」にはかつてドゥードゥルバグと共に活動していたシャバズ・パレセズが友情出演。