曲のなかに正解があって、それを見つけていく
──BMSJのスタートはThe Taupeの楽曲のリアレンジだったと。航星さんとふかいさんはThe Taupeに加入したかったおふたりなので、BMSJはある意味The Taupeと地続きでもあるのかもしれないですね。
かわもト : たしかに。そうですね。今回のアルバムは「夢」がテーマなんですけど、“ビバリーヒルズシネマ倶楽部”は妄想で作った曲なんです。夢と妄想はすごく似ていると思うので、それもあって今回のアルバム『MUNYA MUNYA』にも“ビバリーヒルズシネマ倶楽部”のBMSJヴァージョンを収録したんですよね。
──The TaupeとBMSJの境目がしっかり分かれていないところも、夢のなかのようなニュアンスがあるなとお話を聞いていて思いました。航星さんとふかいさんは、実際にかわもトさんとバンド活動をしてみていかがでしょうか?
航星 : 一緒にバンドをやる前は、ゆうくんのことをマジの天才だと思っていたし、天才なんですけど、思ってたよりバカでした(笑)。おちゃめなところが多くて、こんなにポップで親しみやすい人なんだといい意外性がありましたね。一緒にいて楽しいし、一緒に音楽を作っていて楽しいです。「4人で一緒に作ってる」という感覚があります。
ふかい : 音楽的な知識で音楽をやっているというよりは、自分のなかから湧き出てくるものを感覚的に音楽にしているんだろうなと、デモを聴いていて思いました。「ここに自分の色を乗せてもいいんだ」とわくわくするデモをくれるんです。
航星 : ゆうくんのデモはベースが入っていなくて、ドラムも簡単なリズムのループなんです。全部委ねられているような感覚もあるし、それでも「かわもトゆうきが作っている曲」という表現の軸があるんですよね。だからすごく不思議だなあって。
──かわもトさんは言語センスも感覚的な印象があります。
かわもト : 頭に思い浮かんだメロディからまず最初に出てきた言葉が正解、という書き方をしていて。たとえば“TIME TIME TIME”ならまず《night on day》というフレーズが出てきたので、「この言葉から歌詞を広げるならタイムリープだろう」と決めて書いていっているんです。だから曲のなかに正解があって、それを見つけていくような感覚なんですよね。“オールド帝国”は戦争が起こっていた時代のことを書いたりはしているんですけど……歌詞のなかで答えはあんまり出したくないので、聴いてくれる人たちそれぞれで自由に感じてもらえれば。
──“オールド帝国”然り、“TIME TIME TIME”や“GOODBYE”然り、“NEO EDO”や“ナイトサハラ”然り、歌詞やタイトルには時間を表す言葉が多い気がしました。
かわもト : 過去だったり未来だったり、夜だったり……もともとそういう夢を見ることが多かったり、それが印象に残ってたりもするから、それが影響しているのかもしれないです。The Taupeの頃はとにかく攻撃してやろうと思っていたから(笑)、そういうものを曲にしようという発想にも至らなくて。でも僕はずっと思い付きで音楽をやってるので、このバンドでも頭に思い浮かんだものをすぐに音楽にしてます。それは今も昔も変わらないですね。
──2020年2月にBMSJの始動が発表され、“GOODBYE”と“TIME TIME TIME”が2週連続でデジタルリリース。航星さんは「“TIME TIME TIME”は『2001年宇宙の旅』のラストシーンをイメージした」とツイートしてらっしゃいました。
航星 : わたしのなかのタイムリープのイメージが、『2001年宇宙の旅』のラストシーンなんですよね。すっごい深いところから迫ってくるような、もともとそこにその時代があったかのような存在感でだんだん近づいて、それが音像となってだんだん通り過ぎていく……そのイメージを“TIME TIME TIME”に投影したかったんですよね。自分がBMSJのなかで出来ることを注げたかなと思っています。
──シンセの描く空気感が効果的な楽曲です。でもシンセも弾ける方だったとは。
航星 : 自分のなかのギタリスト像に近づきたくても近づけないジレンマみたいなものが生まれた結果、「ギタリストと呼ばれたくないな」と思って……(笑)。BATROICAに入ったくらいのころにシンセもやり始めたんです。特定の何かをしている人ではなく、ふわっとした存在でいたいというか。“TIME TIME TIME”はシンセ始めたてのころに録ってるから、めちゃくちゃ録り直したいです(笑)。

──かれこれ2年前の音源ですものね。結成の発表をしてすぐにコロナ禍に入ってしまいましたから。
かわもト : 2020年はカナダツアーも中止になって、ライヴができない時期が続いたので、やれることがないぶんひたすら曲を作ってました。曲作りの合宿も行って。
ふかい : 合宿所が南房総の一軒家のすごくいいところで、ずっとみんなで何かしら食べてたよね(笑)。
航星 : 親睦会だったね(笑)。そのときに作った曲も、今回のアルバムに収録されています。
かわもト : ずっと曲作りを続けて、そのなかで生まれた曲のなかから「夢」に沿った曲を集めたのが、今回のアルバムって感じなんですよね。
航星 : たくさん曲を作ったので、入れたい曲が多くて(笑)。ある曲を全部書き出して、スタジオでみんなで話していくうちにだんだんアルバム像が見えてきて。さっきゆうくんが歌詞について「正解を探していく」と言っていたけど、どの曲も曲の行きたい方向に向かって作っていきました。
──様々な時代を行き来するような感覚は、サウンドにも表れている気がしました。たとえば“パンダパンダパンダ”は2010年代初頭のインディーロック感が、“POLICE”はほのかにDavid Bowie感があって。
かわもト : そのあたりは松っちゃん(松田)の出してくるベースフレーズも影響してるのかな。いろんな引き出しからフレーズを考えてくれるから。
航星 : スタジオに入る前に、デモにベースを入れたものを送ってくれるんです。曲によっては何パターンか送ってくれるときもあるし、そこでコード進行が決まるから、それが曲の雰囲気を左右してるところはあるかも。
かわもト : 僕がコード進行にあんまり詳しくないので(笑)。
航星 : デモにまともなコード進行もドラムもベースも入ってないって、なかなかのソングライターですよね(笑)。
──さっきはデモについて「委ねられてる」とオブラートに包んでらっしゃったのに(笑)。
航星 : ゆうくんから届くデモは、ほとんど歌とギターの1コード、2コードだけなので(笑)。
かわもト : ほんと助けていただいてます(笑)。だからレコーディングもすごく楽しかったんですよ。みんなアプローチが多彩だから、みんなが「こここんなふうにしてみたらいいんじゃない?」と提案し合うし、それでいろんなものが出てくる。そういうレコーディングはこれまでに経験したことがなかったから、テンション上がりましたね。
ふかい : これまでいちからドラムフレーズを考えることはあんまりしてこなかったので、BMSJでの制作は難しいところもあるんですけど、自分磨きになっています(笑)。このバンドに入ったことでドラマーとして努力しなければいけないことが新しく生まれたので、楽しいですね。曲によっていろんな音で録れました。