音楽を通して寄り添える関係になれたら──野田愛実が「普通」のまま贈る言葉と歌について

聴く人を励まし、共に未来を願うことを信条とするアーティスト、野田愛実によるニューシングル「衝動」がリリースされた。アニメ『神統記(テオゴニア)』の主題歌として書き下ろされた本楽曲には、理想を描き動き出すことで未来を切り開く、そんな姿を後押しするような詩が綴られている。
2022年のメジャー・デビュー以来、多くのタイアップ曲を制作するなかで、そこへの姿勢が変化してきたという彼女。そんな、制作への取り組みの変化から、昨年行われた初めてのツアー、そして活動のテーマにもなっている「寄り添う」ことへの思いについて、話してもらった。
アニメ『神統記(テオゴニア)』主題歌
野田愛実 - 衝動 (Official Music Video)野田愛実 - 衝動 (Official Music Video)
INTERVIEW : 野田愛実

“寄り添う”という言葉を目にしたとき、あなたはどのようなイメージを持つだろうか。
自分よりも相手を優先すること、ただ黙って一緒にいること、ひたすら共感すること、全部を肯定すること。きっと様々な答えが、浮かんでくるだろう。
“寄り添い人”である野田愛実は、前述したいずれとも異なるアーティストだ。人に寄り添うときも、作品に寄り添うときも、けっして自分をないがしろにはしない。これまで積み上げてきた経験や磨き上げてきた感性と共に、自然体な姿で傍にいてくれる。
これこそ本質的な“寄り添い”であり、いまの社会に必要とされているマインドなのではないだろうか。
本稿では、初ツアー〈Noda Emi 1st Asia Tour “time”〉の振り返りや“寄り添い”の美学、新曲「衝動」についてなど、幅広く話を伺った。
インタヴュー&文 : 坂井彩花
撮影 : 星野耕作
「どういうふうに私のことを観てくれているのかな」と考えられるようになった

──まずは、初ツアー〈Noda Emi 1st Asia Tour “time”〉の振り返りから、お伺いできますか。
野田愛実(以下、野田):いままで単発ライヴしかやったことがなくて、同じセットリストで多くの会場を回ることが初めてだったので新鮮でした。なおかつ、パフォーマンスと向き合い、見つめ直す機会になったようにも感じていて。中国公演は全曲撮影OKだったので、最初から最後まで、みんなからスマホを向けられた状態でライヴをしたんです。それで、自分がどういうふうに見られているか、よりわかりやすく理解できたというか。みんなスマホで撮ったものを、すぐInstagramなどのSNSにあげるじゃないですか。だから、今日やった記憶があるうちに、映像を観ることができたんです。しかも、お客さん目線で観られる。それを活かして、「次はこういう表情をしてみよう」とか「こういう魅せかたをしてみよう」というふうに、どんどん公演を重ねるなかでブラッシュアップできました。「どういうふうに私のことを観てくれているのかな」と考えられるようになったツアーでした。
──リアルタイムで現実の自分と想像上の自分のズレを埋められたからこそ、着実に改善していけたと。
野田:「意外と表情が硬いな」とか「けっこう険しい顔してるな」というのも、すぐにわかるので。中国でライヴが出来た経験も大きかったですね。日本だと感情移入しながらしっとりとバラードを聴くかたが多いのですが、中国だと同じバラードでもイントロが流れたときに「知ってる曲が流れた!フーッ!」といった感じで盛り上がるし、手も伸ばしてくれて。その反応を頼りに「どうやって表現したら、より楽しんでくれるか」を学んでいきました。日本でも取り入れてみたら、日本のファンの方も盛り上がってくれたので、こうやって一緒に作り上げていくんだなと感じました。記憶が新しいうちに、すぐ次の公演があったのもよかったなと思います。
──日本と中国で反応が違ったということですが、パフォーマンスにおける野田さん自身のマインドにも違いはありましたか。
野田:日本と海外の一番の差は、言語の通じなさだと思っています。だからこそ中国公演では、言葉がなくても伝わる表情や声色などを意識しました。海外公演を経て、歌詞の意味がわからなくても、どういう曲かわかってもらえるような寄り添いかたを学んだというか。きっとそれが、日本公演でも表現方法のひとつとして使えるようになっていくんだと思っています。いろいろな寄り添いかたを学ぶことで、いろんな場所で使えるようになるんじゃないかなって。結果的に日本でも海外でも、寄り添いかたは変わらなくなっていくような気がしています。甘えといっちゃなんですが、同じ言語で話していると「わかってくれる」みたいに思ってしまうじゃないですか。でも、どれだけ細部にこだわっていても、意外と伝わっていないことも多くて。「MCで説明して初めて伝わるんだな」と痛感したので、今年のライヴでは「どうやったら自分の伝えたいことが、より伝わるか」ということを考えていきたいですね。