小さな火を灯すことを大切にしていきたい

──「メッセージを作品から感じ取る」というのも“寄り添い”のひとつだと思うのですが、作品に寄り添う際には、どのようなことを意識していますか。
野田:しっかりと作品の核になる部分を見つけ出そうとすることが、大事なのではないかなと思っています。たとえ情報が少なくとも、「何度もこの言葉を使っているから、これが伝えたいことなんだろうな」といったように感じ取る。作品が一番伝えたいことを抜き取るのは、もともと得意なほうではあったけれど、毎回怖さはあります(笑)。主題歌を書くときは、作品が途中までしか出来上がっていないことも多いから。ちゃんと芯を食っているのか、心配になります。的外れかどうかは視聴者の皆さんの反応を見ているとわかるし、実は毎回ドキドキです。
──今作の「衝動」はアニメ『神統記(テオゴニア)』のどういった点から、インスピレーションを受けましたか。
野田:『神統記(テオゴニア)』は、前世の記憶を持つカイという少年が、文明が発展した世界の記憶を頼りに、村を襲う亜人種との闘いに挑んでいくという物語。主人公の「守りたいもののために強くなる」という想いに共感したので、今回はそこを広げていきました。正直にいうと、いいことよりも辛いことのほうが多いように感じる日常をおくっている人のほうが多いと思っています。それでもみんな、大きな夢を追いかけたり、ささやかな幸せを願ったり、いまよりもよい現実を思い描きながら生きている。“「変わりたい」と思うだけで/一瞬で「変わっていく」なんて/想像もできなかっただろう”という2番のAメロのように、新しい自分になるために何かを始めようと意気込むことで、自分が突き動かされて新たな自分に変われることだってある。そんなふうに小さな火を灯すことを大切にしていきたいと思い、「衝動」というタイトルにしました。自分の掲げた目標や理想とする未来のために、心を熱くしてガムシャラに生きていく姿を、応援できる楽曲になったらいいなと思っています。
──ドラマ主題歌の在りかたについて「『最初のひと声で、いかに心を掴めるか』が大事」とお話しされていましたが、アニメ主題歌に関しても同様の美学があるのでしょうか。
野田:今回はオープニングテーマということで、見ている人がちゃんと高揚するように作っていきました。ドラマ主題歌は、物語がハッとする瞬間に流れてくることが多いので、ちょっとギュッとなるような声の出しかたやメロディーラインを意識するのですが、アニメの場合は、どちらかというと最初に曲が流れることになるので、とにかく疾走感があって作品に入りこめる曲のほうがいいかなと。いままで培ってきた野田愛実の切なさを冒頭のピアノで表しながらも、すこしテンポを上げていくようにして、“掴みたいものがあるから”というメロディーが持つ速さを活かしました。自分の楽曲でアニメのオープニングを担当するのは初めての経験だったので、「アーティスト野田愛実が歌うアニソンを表現したい」という思いもありましたね。
──「野田愛実が歌うアニソン」のテーマは、なんでしょうか。
野田:今回は1曲目ということもあり、自分が思うアニソンの理想を詰めこんだ形になっています。いままで聴いてきたアニソンを総合的に取り入れてみたというか。「言葉数が多くてメロディーラインが上下に激しく動くものがアニソンっぽい」というイメージが私のなかにあったので、そういった部分を取り入れてみました。

──これからタイアップに挑戦してみたい作品はありますか。
野田:具体的にいってもいいですか?(笑)。私、『SPY×FAMILY』が、とっても好きなんです。マンガも全部読んでいるし、勝手に『SPY×FAMILY』を題材にした曲も作ったくらいです。なかでも、ヨルさんが大好きで。戦っている姿の可憐さとか、すこし抜けているところなど、キャラクターとして魅力的で本当に大好きなので、いつか『SPY×FAMILY』でタイアップをしたいです。
──タイアップの難しさや面白さは、どのようなところでしょうか。
野田:難しさは、作品を見ていない人にも、しっかりとその楽曲が届くような作りかたにしなければいけないところです。作品に寄り添うことは大切ですが、作品が終わったあとも自分の楽曲として、歌っていかなければならないので。作品を見ていなければわからない曲にはならないように、気をつけています。面白さは「こういったシーンのあとに、このAメロが流れたらグッとくる」みたいな流れを考えること。狙い通りになると「やった!」となりますし、私の書いた曲が作品に溶けこんでいるのを見ると、すごく嬉しいですね。作品に自分の楽曲が使われるのは、昔からの夢でもありました。
──主題歌を担当する際、題材になる作品と自分のカラーは、どれくらいの比率で配合するのでしょうか。
野田:難しいですね……。どちらかというと、100:100なんです、私のなかで。主題歌としても100だし、自分の作品としても100。作品を見ている人には、しっかりと「この人の心情になる」と聴こえてほしいし、見ていない人には自分が経験したことと重なるように聴こえてほしい。作品のために書いている気持ちは100%あるのですが、作品に限定されない見方もできるように作りたいので、比率として分けられないと思っています。しっかりと両方で100に聴こえるようにする按配は、毎回難しいですね。どのように作っていくか、いつもかなり考えています。
──どちらでも100にするためには、どのようなことを意識いているのですか。
野田:作品のなかで自分に合わないものを楽曲にいれないことが、一番大切なのかなと思っています。共感できるものを、いかに持ってくるか。作品の大切なところと自分の大切なものをしっかりとリンクさせて、最初の抽出の部分でハマれば、どのように作っていっても、どちらにも寄り添えるのだろうなといまは思っています。
──“寄り添う”という言葉をイメージすると、自分よりも相手を優先する感じがしちゃいますけど、野田さんの“寄り添い”はそういうイメージではないですよね。
野田:そうですね。ただ誰かに寄り添うというより、自分の経験と共に寄り添うという感覚のほうが近いです。だからこそ、寄り添っている私自身も寄り添われているような気持ちになるというか。自分の経験はきっと誰かの経験したことだと思うから、そういった部分を一緒に共有できる寄り添いかたをしたいですね。
──では、最後に。6月1日には、お誕生日を迎えると思いますが、32歳はどのような1年にしたいですか。
野田:〈Noda Emi 1st Asia Tour “time”〉をやらせていただいて、自分のなかで階段をひとつ上がれた感覚があったので、今年のツアーではもっといろいろな挑戦ができると思っています。自分が伝えたいことをよりしっかりと伝えられるように、届けられるように。いろいろなことに試行錯誤できる32歳になればいいなと思います。

編集 : 津田結衣
ディスコグラフィー
PROFILE:野田愛実

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