REVIEW #1 理想を追い求めていく、健やかな覚悟
Text by 沖さやこ
メンバー全員がソングライティングに参加している1曲目“PLAYER 1”から逆境を笑顔で跳ね返すような無敵感で聴く者を圧倒する。アーティストとして飛躍した2022年リリースの『Actor』でバンドの多面性を表現し、新たな要素を多く詰め込んだ『pink blue』で殻を破った緑黄色社会は、今作『Channel U』で格段に表現者としてのパワーを上げた。ソングライティング、ボーカル、演奏のすべてから、アルバムのテーマである「誰もが無限の可能性を持っている」という信念がほとばしっている。
ドラマ、アニメ、映画の主題歌、CM曲、合唱曲と多種多様なタイアップソング9曲をつなぎとめているのが、6つの新曲とふたつのインタールードである。この8曲はクッションの役割を果たしながら、タイアップ曲ではなかなかお目に掛かれない好奇心に富んだギミックが随所に織り込まれているのも興味深い。冒頭で触れた“PLAYER 1”はどこを切り取っても「強さ」と「ポジティブ」が漲っており、自由奔放を体現する長屋晴子(Vo/Gt)のボーカルも鮮烈だ。この歌詞に共鳴できるリスナーならばシンセの効いた華やかで力強いポップなサウンドとキャッチーなソングライティングにいざなわれ、一気に高揚感に包まれるだろう。
ならば自分に自信が持てない、及び腰のリスナーがアルバム1曲目から置いていかれるのかというと、そうではない。ただただ懸命に前向きに生きる人間の姿と哲学が描かれているため、嫌味が一切ない眩しいほどのスーパースターを目の当たりにするような感覚に陥るだろう。それと同時に「なぜ背水の陣でもこのような強靭なメンタルを持てるのか?」と純粋な疑問も生まれてくる。すると不思議なことに、2曲目以降の楽曲は“PLAYER 1”の主人公がこれまで歩んできた人生や、過去に抱えてきた葛藤として響いてくるのだ。ひとりの人間をフィーチャーしたジャケットのアートワークも、無意識下で受け取り方に影響しているかもしれない。映画を観ているときの没入感にも似ている。
アルバムを聴き進めると、穴見真吾(Ba)のベースが効いたファンクテイストのダンスナンバー“Monkey Dance”の後にインタールードの“∩”を挟んでミドルテンポのセンチメンタルナンバー“マジックアワー”や強いメッセージが込められたバラード“僕らはいきものだから”でじっくりと内観的なムードに包み込み、続いてTVを観る際のザッピングを音で表現した“Channel Me”へとなだれ込む。アイデアフルでチャレンジングな同曲はそれだけ緑黄色社会が様々な魅力を放てるバンドであることを実感できると同時に、チャンネルを変えるように自由に生きていいというメッセージのようにも受け取れる。
以降はジャズのテイストが盛り込まれた大人っぽいナンバー“Each Ring”からラブソングが続き、インタールード“U”を挟んでアニメタイアップ曲の“Party!!”、“花になって”とさらにスケールを大きくしていくと、大地の広さや夜空のきらめきを彷彿とさせる壮大なサウンドデザインの“オーロラを探しに”でエンドロールを飾る。歌詞にある《1995》は作詞者である長屋の生まれ年。小林壱誓(Gt)とpeppe(Key)も彼女と同い年だ。現地にたどり着くこと自体も非常に労力と時間を要するだけでなく、絶対に見られる確証がないオーロラは、人生における夢や目標と似ている。穏やかに締めくくられる同曲には、4人が20代という青春を越えてさらにアーティストとして理想を追い求めていく健やかな覚悟も感じられた。
聴き手の思い出や心情、タイアップ作品と共に歩みながら、自分自身の信念や美しい景色を楽曲へと落とし込み続けてきた緑黄色社会。『Channel U』はこれまでに4人が丁寧に積み上げてきた表現者としてのポリシーを遺憾なく発揮したと言っていいだろう。バンドマンとしての4人の姿が映し出されたであろう“PLAYER 1”と“オーロラを探しに”でプロローグとエピローグを飾るのも、音楽に懸ける熱い思いがストレートに伝わってくる。上昇志向を持って自身の音楽を追求し続ける4人は、どんな困難も力に変えていくだろう。そんな無邪気な凛々しさが、多くの人々の心を動かすのだ。