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INTERVIEW : 谷口貴洋

シンガー・ソング・ライター、谷口貴洋がOTOTOYの特集に登場するのは今回で3回目だが、2度に渡るライター・真貝聡氏のインタビューでは、かなり人物像を掘り下げていた。そのため初対面にしてすっかり谷口貴洋という人を知っている気になっていた筆者は、できる限り楽曲制作過程やサウンドへのこだわりに焦点を当てようと考えた。その結果、周囲への観察眼やそれを曲に昇華するアーティストとしての感性を知ることができると同時に、そこにはやっぱり人柄がにじみ出ていた。曲ごとの主人公が紡ぐ、怒っていたり笑っていたり希望があったり挫折があったり哲学があったり、でも優しくて美しい人生。『Endless Beauty』という人間味溢れる作品について語ってもらった。
インタヴュー : 岡本貴之
写真:作永裕範
自分は果たしてなにが好きなのかっていうことを考えている
──以前の真貝聡さんのよるインタビューを拝見したところ、かなり人物像を掘り下げられてましたよね。
谷口貴洋(以下、谷口) :そうですね、2回目だったんですけど、根掘り葉掘りと(笑)。
──今回はアルバム『Endless Beauty』ということで、音楽面も根掘り葉掘り訊きたいと思います。6年振りのアルバムですけど、その間に配信リリースもされていました。アルバム1枚を作る上でどんなことを考えていたんでしょう。
谷口:最初は、配信で1曲ずつ出そうという感じで、これが全体としてどうまとまるかということはあんまり考えてなかったんです。でも、どうしても同じ時期に作ったものなので、結構考えていることは似てるところがあって。知らない間に書いていた曲がコンセプトとして集まってきたなという気持ちがあったので、後は足りないピースを作って最終的にこの13曲の並びになりました。
──考えていることが似ていたというのは?
谷口:あんまり視野を広げすぎずに、“1人の人間が生きているさま”みたいなところをこの時期は書いているなと思ったんです。社会的にどうだとか、世の中がどうだというよりは、13人の主人公がいて、色んな環境のなかで諦めてしまったり捨ててしまったりせずに、どこかでまだ「頑張ろう」って1人1人が懸命にみんなが生きている、というところで統一されていると思ったんです。
──自分自身だけを描いた13曲というわけではないんですね。
谷口:もちろん自分もいますけど、身近な人のこともありますよ。例えば1曲目の“キレカケ”は、「この前飲み会でこんな話があって」という人の話を聞いたりとか。どれかひとつについて書いているというよりは、周りの人の話が積み重なって行って、「じゃあこういう曲を書こう」と思ったんです。でも怒るというのは、一生懸命だから怒るわけだし、感情が出るわけで。それはある意味で美しさでもあるというところは、統一感があるかなと思います。
──“キレカケ”を昨年の配信リリース時に聴かせてもらって、とても共感したんです。でもそれってやっぱり、こういう華やかなアレンジ、ポップスだからこそ歌っていることが入ってきたと思うんですよ。そういう感情と曲の結び付け方についてどう考えてますか。
谷口:もともと、歌謡曲好きでメロディが好きな人間なので、やっぱりメロディは自分の琴線に触れる気持ちが良いもの、それで言葉はあんまり嘘をつかないものが混ざるとおもしろいなと思っています。“キレカケ”に関しては、90年代ポップスをイメージしていて、華やかにこの言葉を昇華させたいというのがあったので、アレンジャーの方に相談して作りました。
──あまりネガティブな感情をそのまま出さないようにしたいという気持ちがあるのでしょうか。
谷口:最終的には、救いがある方が僕的には好みなんですけど、どうしようもないときは暗い曲を書くときもありますよ。「今日は誰にも会いたくないな」っていう曲があってもいいと思うし。全部起承転結をつけて、「今日は会いたくないけど明日はきっと最高だぜ」みたいな、結果的にハッピーに持って行こうみたいな感じはないですね。ただ、“キレカケ”については、「感情が出ることは良いことでもある」っていう肯定があるし、ただただキレてグチャグチャになるのではなくて、綺麗に昇華させたい気持ちがありました。
──ここ最近は、どういうマインドで曲を作っているんですか?
谷口:最近はさらに個人的ですね。自分は果たしてなにが好きなのかっていうことを考えているというか。やっぱり外に出られない時間が多かったので、どうやったって自分を見つめる時間が長くなって。昔は、「売れたいな」「人気が出たらいいな」っていう気持ちがかなり入った状態で曲を書いていた時期もあったと思うんです。いまもその意識はどこかであるんですけど、そういうものをそぎ落として、自分のためになにかをやっているとか、そういうものを作品として残したいんです。その方が人と合わさったときによりすごいイリュージョンが起こると思っているんです。
──イリュージョンですか。
谷口:人と人との感情が重なり合うって、結構奇跡的だと思うんですよ。こっちはなにも意識していないのに、その言葉が届いたときに、思いもよりないところで誰かが励まされたりすることもあると思うんです。逆に怒りを買ってしまうこともあるかもしれないけど(笑)。日々、自分がやりたいこと、選ぶことをしっかり思いながらパッと出た発言、楽しいと思うものを自分のなかで昇華して歌うことがいまは多いと思います。

──メロディやアレンジ面ではどうですか? カラフルでポップな曲もあれば打ち込みでのヒップホップ要素があったり、サイケデリックな曲もあるのがおもしろいなと思ったんですけど、ご自分の趣味嗜好の変化ってありますか。
谷口:例えば配信サイトとかサブスクで最新のトップ10とかを興味本位で聴いたりするので、そういうときにおもしろいなと感じたものがあれば、「こういう曲を書いてみようかな」と思うこともありますね。ただ自分のなかに取り入れられないアレンジとか挑戦すると、ある程度学びはあるんですけど、出来上がってみるとカラーが違い過ぎて(笑)。せっかく良いジャンルの音楽があったとしても、それを消化しきれてない俺がやると中途半端になっちゃうと思うんですよ。
──取ってつけた感じになっちゃう?
谷口:そうそう(笑)。それは単純に俺の技術面が足りない部分もあるので、もっと音楽を学んでいつかできるときにやればいいかって考えます。サウンド面は、いま気楽に聴いてテンションが上がるもの、昔のものを聴いて「こういうバンドアレンジをいまガッツリやりたいな」とかなればそっちに気が向いていくし。昔から弾き語りで曲を作ってますけど、なんとなく入れたいフレーズは曲を書いている時点であるので、そういうイメージが枯渇しないように、色んな曲は聴いていようと思っているのもあります。でもどっちかというと、自分は「感覚派」ではないと思っていて。
──曲が降りてきた、という感覚じゃないということですか。
谷口:「曲が降りてきた」というものがあったとしても、それはその人が人生のなかでずっと準備してきたものがあると思うんですよ。そういう意味で、降りてこないということは俺は知識量や技術が足りてないんだろうなって思うんです。それだったら、楽しみながら曲を聴いたり、人様のライヴを観ることでそれを増やして、結果的に朝起きたら5分で曲ができたということは、たぶんそれまでの準備があるからなんですよね。自暴自棄になったりとか、日々色んなことがあると思うんですけど、それが蓄積されて、「曲が降りてくる」ことでいつかの自分が報われると思ってやっていればいいかなって。
