光を追い求めていく道中で触れた、常しえの憧れ──日置逸人(EASTOKLAB)× 荒木正比呂対談

シューゲイズ、ドリームポップ、エレクトロ。これまでの作品を通してさまざまな音楽性を提示してきた、名古屋のバンド、EASTOKLAB。満を持してリリースされたこのファースト・フル・アルバムは、フロントマンの日置逸人にとってこれまで以上に大切な作品になっただろう。その理由はとてもシンプルなもので、荒木正比呂(レミ街)がアレンジャーとして参加しているからである。「出会わなかったら、いまの自分は存在しない」というほど影響を受けた荒木とともに制作をし、その楽曲について本人のスタジオで語らう。言うまでもなく、これは重要で意義深い対談である。
待望のファースト・フル・アルバムがついに完成!
対談 : 日置逸人(EASTOKLAB)× 荒木正比呂

バンドが外部の人の脳を欲するタイミングは自分たちの音楽に自信があるか、もしくは手詰まりを感じているタームだと思う。EASTOKLABが満を辞してリリースするファースト・フル・アルバム『泡のような光たち』の収録曲2曲("Dawn for Lovers" / "Lights Out")で、荒木正比呂をアレンジャーとして迎えた理由は明らかに前者だった。彼は地元名古屋のライヴ・シーンにおいて、いい違和感とそれゆえの自由を発散していたtigerMos(イケダユウスケとのユニット)のリーダーであり、現在はレミ街でキーボードを担当するほか、UAや中村佳穂、ドレスコーズなどのアレンジやプロデュースを手がけている。エレクトロやシューゲイズ、ドリーム・ポップ、ミニマル・ミュージック、オルタナティヴ、ロックなど、現行のインディーズ・バンドが包摂するさまざまなサウンドを曲として強度を増す手法はどんなものだったのか──作業はリモートで行っていた両者はこのインタヴューではじめてリアルに顔を合わせることになった。
取材・文 : 石角友香
写真:岡大樹
「こんなに自由なことやってんだ」
──日置さんがはじめて荒木さんの音楽に触れたのはtigerMosなんですか?
日置:そうですね。まだ20歳ぐらいの時に名古屋のライヴハウス、CLUB ROCK'N'ROLLで僕が当時やってたバンドとtigerMosが一緒にやる機会があって。その時の僕は同じ世代のいわゆるギター・ロックみたいなシーンのなかでやってたんで、tigerMosみたいな音楽を生で見たのがはじめてで、衝撃的でした。
──具体的にはどういうところに惹かれたんですか。
日置:当時自分がやってた音楽はある程度フォーマットや型が決まっていて、ドラムってこうだよね、ベースはこうでっていう、勝手に自分たちのなかで枠を決めていたと思うんです。でもtigerMosを聴いた時は「こんなに自由なことやってんだ」みたいな。その時の僕にはそういう発想がなくて。そのなかにも色々な感情が詰まっているんですけど、パッと見た時に全員がすごく自由なアレンジで自由な展開で演奏していたところが自分にとっては衝撃だったという感じです。
──荒木さんのアレンジャー、プロデューサーとしての仕事で惹かれた作品はありますか?
日置:仕事というより、僕は荒木さんがソロでやられてるfredricsonの曲をSoundCloudで聴いて、そのままCDもずっと聴いてました。なので、電子音楽もそういうところからどんどん入っていた感じはあったかもしれない。
──それが約10年前。でも、アレンジを共作するのは今回はじめてだったわけですね。
日置:外の人に少し力を借りたらもっと自分たちの音も広がるんじゃないかみたいなアイディアがはじめて出たので。自分のバンドは4人でやっている感覚が強いので、これまであんまりそういうことを考えたこともなかったんですよね。でもそのアイディアが出た時に、荒木さんにお願いできるならやりたいなって。
──荒木さんはオファーに対してどう思いましたか?
荒木:なにかできそうだなと思いました。声がいいと思うし、センスもあるし、電子音が散りばめられてて、かといってこむずかしくないというか。安っぽい言葉かもしれないけどエモーショナルでもあるし。そういうとこでなんかお力になれそうだなと思いました。いまはわかんないですけど、当時の名古屋は良くも悪くもひねくれてる人が多くて。で、排他的でもあるし、ちょっと同族嫌悪というか、同じ名古屋の人をちょっとひねくれて見ちゃうようなところもあったと思うんですけど、ずっと僕のことを気にしてもらってオファーいただけたのは嬉しかったですね。
──荒木さんがアレンジを共作される際の基準みたいなものはあるんですか?
荒木:いろんな共作やらプロデュースやらをやってきたんですけど、その作品ってどっからどこまでが僕の仕事かっていうのは聴いただけではわからないところがあります。ただいちばん人に届くのは、いちばんポップな部分だと思うんですね。かといって思いっきりこの日本のど真ん中のJ-POP──嫌いではないんですけど──そのあまりにもど真ん中な音楽性を求めてきているなぁっていう案件に関しては一応「専門ではないです」とお伝えしています。場合によってよろしければもっと電子音楽的なものとか、もうちょっと外れたもの、いつもと違うチャレンジをされる時にオファー頂けたらっていうことを促すことはあります。断ったりしない。
──今回の制作では事前にどんな話しをしたんですか?
日置:打ち合わせでしたっけ? ある一定のところまでバンドで仕上げた状態のものがすでにあったので、自分たちでこの2曲("Dawn for Lovers" / "Lights Out")を選んでお願いしました。「もうちょっとこうなったらカッコいいかも」みたいな漠然としたイメージはありつつ、いまの自分たちがやってきたプロセスだとそこにたどり着けない感じもあったりして。今回アレンジをしてもらった2曲は、自分達にとってもいままでよりちょっとチャレンジしようという曲だったのもあって、荒木さんにお任せしました。

