
玉屋2060% INTERVIEW

——今日メンバー全員にインタビューさせていただいて、共通してあがった話題が、玉屋さんの才能をサポートしたいってことだったんですね。Wiennersを結成するにあたって、実力のある人たちとバンドを組む方法もあったと思うんですけど、今のメンバーを誘ったのはなぜだったんでしょう?
玉屋2060%(以下、玉屋) : やりたいことをやる時に一番大事なのは、技術よりも、相手のことをわかっているってことだと思っていて。技術って、練習しちゃえば誰でも出来るので、相手をわかってるってことの方が大事だと思うんです。
——玉屋さんって、リーダーであることに対して、すごく責任感を持っていますよね。俺が引っ張っていくんだ、俺が食わせるんだって。そういう気持ちって、前のバンドの時から持っていたものなんですか。
玉屋 : 他の人の責任も負おうと思ったのは、Wiennersになってからですね。それくらい責任を負わないと先に行けないというか、強い音は出せない。「俺はこういう気持ちでやるから、違うと思ったら辞めていいから」ってことを最初に言って始めたくらいで。それだけ3人の責任を背負ってるつもりなんで、そのためにやらなきゃいけないこととか努力しなきゃいけないことはメンバーそれぞれにあると思うんですよね。
——玉屋さんが強く求めるものに対して、納得するくらいのものは返ってきますか?
玉屋 : 返してくれる所もあるし、まだまだそんなんじゃないよと思うことも、ぶっちゃけありますね。それはたぶん一生なくならないと思うんですよ。自分が曲を作っているし、バンド内で一番上になっちゃっているんで。でも、その差を減らしていくことは、まだまだできると思いますね。
——MAXさんが曲を書くようになったのも、その一つだと思うんですけど。
玉屋 : まさにそうですね。
——具体的にこういう所が変わってほしいってことは、玉屋さんの中で見えているんですか?
玉屋 : 細かいことはあるんですけど、3人に共通して言えることは、自分のやりたいことなんだから、どんどんやればいいってことで。うちのバンドは一番上に俺がいるんで、その下という構造になりがちなんです。だけど、もっと自分を出していけば食えるチャンスに繋がるし、もっともっとやっていったらいいなって。そういう所って、自分の中で気が付き始めて、「あ、ここが足りなかった」ってなると思うんですよ。

——それぞれが、もっと自分を出していってもいいんじゃないかという部分で、玉屋さんはもっと強く来て欲しいと思いますか?
玉屋 : 全然来て欲しいですね。むしろ「好きだったら来るっしょ!? 」と思う。ははは。でも、ぶっちゃけ今のメンバーのバランスもすげーいいんですよ。ちょうどいい感じで成り立ってるので、今より更によくする為に、もっとガツガツ来たらいいでしょって。バンドがというよりは、それぞれが成長するために、食うために、もっと来た方がいいよって気分はありますね。出来る限りの手助けをしたいし、それこそマチコが「トワイライト」を作って来た時にしっかりアレンジしてやろうとか、アルバムでいい場所に入れてあげようとか。それで「あの人曲作れるんだ、じゃあ頼んでみようかな」となるかもしれないじゃないですか。
——バンドのリーダーでありながら、会社の社長みたいですね(笑)。
玉屋 : あははは。責任感がないまま社長をやっている感じですね。
——今の玉屋さんを見ていると、曲が書けなくなったというのは、よっぽどの事件だったんだなって改めて思います。
玉屋 : たぶん、気持ちがうわーっとなりすぎて、どんどん狭くなっちゃったんですよ。出来なくて焦って、最終的に何も出来なくなって言葉も出なくなってしまった。本当に、矢吹丈の最後(あしたのジョーのラスト シーン)みたいな感じでしたね。メンバーにも言えなかったし。
——そこは言えなかったんですね。
玉屋 : その状態で言ったら、みんな困惑して、余計にグラグラしちゃうと思ったから。でも、落ち込むことも大事なんだなって学びましたね。それ以降は、ちゃんとへこんでいる日もあるし、楽しい日もある。へこむ時ってすごく考えるんで、「立ち直るためにどうすればいいんだ」というふうに頭を回転させるようになって。立ち直った時に、今までよりちょっと上にいけるというか。
——玉屋さんが悩んだことが、メンバーにとっても一つの大きなきっかけというか、転機になったと思うんですよね。
玉屋 : それはそうだと思います。「午前6時」を作っていった時も、言葉で伝えずに持っていったんです。なんでそういう形で持っていったかといえば、それぞれに考えて欲しかったというか。説明するのではなくて、そっから気持ちを汲み取って自分で考えて欲しかったから曲にしたんです。そこで何も感じてくれなかったら、終わりだなとは思っていたんで。でも、みんな、それに応えてくれて。
——そこまで考えていたんですね。
玉屋 : 考えていましたね。本当に、一か八かで持っていった曲ではありますね。
——『UTOPIA』は、それを乗り越えた上での作品ですが、どういう風に着手されたんでしょう。
玉屋 : 『W』が、静と動だったり、激しいものと壮大な面が両極端に出ていた作品だったので、それをまとめようっていうコンセプトで最初は作っていたんですよ。アルバム制作と同時進行で、andymoriと韓国にライヴをしに行ったり、初めてのワンマン・ツアーをしたり、でんぱ組.incというアイドルに曲を提供したり、いろんなことがあって。ハードルが沢山あるから、一個一個確実に乗り切っていこうって決めていて。一つも遠回りせずレコーディングを進めていった結果、「これ、もしかしたらWiennersは、まだのびしろがあるから、先にそっちの可能性を探った方がいいかな」って思うようになってきて。なので、アルバムを作り始めた頃から、半分くらい内容が変わっていて、本当に6月末ぎりぎりまで作っていました。それを乗り越えながら成長していった過程が、アルバムに詰められたと思っていて。だから今回、最初にまとめようと思っていたものは一回やめて、可能性がある部分を一回伸ばしてみようって感じで作りましたね。

——その結果、今回も非常にバラエティに富んだ作品になっていますよね。表現力がさらにアップしていて、短い曲から長い曲、メロウな曲からハードコアな曲まで調和しながら混在している。
玉屋 : そうですね。今までとは違ったバラエティに富んでいると思います。一貫して、聴いている人にちゃんと届けようということを今まで以上に意識しましたね。それは、シンプルにするとか、サビをいっぱい作るとかそういうんじゃなくて、一つマニアックな曲があったとして、それをどうやって100人に説明すればいいかなみたいなことで。今までは何をするわけではなく、「分かれ、分かれ」って感じだったですけど、これをどう説明したら100人が1000人、1000人が10000人になるのかってことをすごく考えるようになりましたね。
——そう考えるようになったのは、前作を出して返ってきた反応が思ったよりも少なかったということですか?
玉屋 : むしろ逆で、パンク、ハード・コアだとしても、単純に良い曲が出来あがったら、1人でも多くの人に聴いてもらいたいと思うんですよね。それは、音楽をやっている人だったら、ほぼ全員そうだと思うんですよ。その気持ちに改めて気が付いたのと、「午前6時」をライヴでやるようになったら、お客さんの反応が全然違ったし、伝わるということがどういうことなのかを実感したんです。それにつれて段々お客さんの多いライヴをやる機会も増えて、全員がワッとなったら超気持ち良いなと思って。これが1年後には10000人になるには、やっぱり1人でも多くの人に聴いてもらわないとだし。それが100万人とかになった時に、自分の本当にマニアックなことを伝えたいこととかを、伝えていけばいいんじゃないかなと。今の状態じゃ、聴いてくれる人が限られているので。
——そこに到るには、他のメンバーの意識も高まらないと難しいですよね。
玉屋 : 難しい。俺だけじゃ無理だし、バンドなんで。全員が全員、全く同じ意識になるっていうのは無理だと思うんですけど、ある程度同じ気持ちや苦労を味わっていないと共有できないものもあるし、仲が悪いバンドはやっぱり見ててわかるんですよね。「こいつら、上手いけど、仲悪そう」とか。そうなっちゃったら魅力ってなくなると思うし。自分達がやりたいのはそういうことじゃないんで。今、みんな時間がない中で、すげー頑張ってるだろうし、自分に足りないものを日々葛藤して探しているのはすごく感じているから。それを乗り越えたら、バンドとして大きな変化があるんだろうなと思っています。今年中とか、ツアー中に乗り越えられれば一番いいなって。
——今言ってたことって、それぞれのメンバーがやっぱり思ってることで、どこかメンバー間で遠慮してるとか、もっと自分が積極的にやらなきゃいけないんじゃないかとか。もちろん、玉屋さんもそこに気が付いていると思うんですけど、実際、玉屋さんのエネルギーが、周りのミュージシャンと比べてもずば抜けて高いと思うんですよ。あと、すごく優しいと思うんですよ。
玉屋 : あははは。
——実はメンバー間へ向けられるエネルギーはちょっと遠慮してる部分もあるのかなって思ったんですけど、そこはいかがですか。
玉屋 : 俺に関しては遠慮はしていないし、むしろ言い過ぎてスタジオから帰った後に、「メンバーが混乱してるかな」とか思うことはありますね。他の人は遠慮してるなとは思います。今の悩みを乗り越えた時に、遠慮なく対等に闘えると思うんですよね。今ってそれぞれに引け目があるから、言いたいんだけど自信がなくて引っ込んでしまうというのを感じます。そこを敢えてこっち側から歩み寄って行く時もあるし、敢えてそのままにしておく時もあるし。それこそ、「今、自信がないから言えないんでしょ」とはっきりわからせないと、あやふやになってしまうんで。そこで「自信がなかったな、もっと頑張んなきゃな」となると思うんで。
「さよなら、ごめんね、ばいばい」をしてる人の成功
——この作品をリリースしてツアーへ行くというのは、Wiennersにとって大きなターニング・ポイントというか節目になるんじゃないかなと。
玉屋 : すごく大きいと思います。技術とか演奏云々の前に、バンドとしてちゃんと乗り越えられるように、今から気持ちの作り方というか、メンバー1人1人のテンションをどう持っていくか。たぶん、途中でグダグダになったら終わりだと思うんですよね。自分個人に関して言えば、1月から6月までちゃんと1個1個乗り越えて来られたんで、ちゃんと成長できている実感もあるので。同じように1個1個目を背けずに、1ライヴ、1曲ずつに出来ること出来ないことをちゃんとみて、ダメな所をちゃんと解ってツアーをやっていきたいです。すごく大変なことですけど、1本1本乗り越えられれば、ファイナルまでにはすごく大きな力になってライヴに活きると思うんで。まずは本当にそれが目標ですね。
——それは本当におっしゃる通りだなと思います。今作に関してもお伺いしたいんですけど、純粋に作品として見た時に、自然ぽいというか、スピリチュアルな感じがあるなって思ったんですけど。
玉屋 : あははは。そうですね。全く単純に自分の中で、神様的な流行りがあって。去年に『W』を作ってる時に流行りが来て、それをやろうとしちゃったから作曲が出来なくなっちゃって。でも、今はそれを具体的に形に出来るようになったので。自分の中で流行ってるものをばーっとやったらたまたま神々しい感じとかを感じてもらえたと思うので、そこは全く意図せずです。
——『UTOPIA』ってタイトルも神秘的な感じがしますよね。
玉屋 : そうですね。アルバム・タイトルは最後に決まったんです。自分の中でまとめて聴いた時に、それこそさっき言ってたスピリチュアルな感じ、神々しさみたいなのとか、力の向け方が、今までと違って外へ向かってたんで。それでいう意味でもユートピアに向かっているというか、道の途中という意味で『UTOPIA』というタイトルをつけました。だから、このアルバム自体がユートピアじゃなくて、そこへ行くまでの道のりって意味でのユートピアっていうタイトルなんです。
——西遊記みたいな感じですね。
玉屋 : 本当にそうですね。
——あと、最後の曲で「さよなら、ごめんね、バイバイ」というフレーズがあって、これは何に対して言ってるんだろうなって気になったんですけど。
玉屋 : ちょうど作った時、別れが多かったというか。本当はしたくないさよならがあって、それこそ自分がもう一つバンドを辞めたということもすごく大きくて。運命として受け入れなきゃいけない別れがあると思うんです。自分は望んでいないけど、でも次の所へ行くために必要な別れと言うものが。だから本当は別れたくない、さよならしたくないんだけど、さよならというのが「さよなら、ばいばい」という「ごめんね」に込められていて。その「ごめんね」があるだけで、さよならが絶望ではなくなるというか。ひとつ希望が持てるというか。そういう意味でのさよならなんです。

——なるほど。この最後のワン・フレーズだけ入ってくるから、結構気になってたんですよね。
玉屋 : そうですね。目立たせるために、そこだけ何回も繰り返して。たぶん、誰にもあると思うんですよね。やりたいことをやるのってそういうことだと思うし。それこそ好きなことをやるために遊ぶ時間を惜しまずに頑張っている人もいるだろうし、寝ずに映画の台本を書いている人もいるだろうし。黒澤明監督とか寝ずに書いてたとかって言いますけど、それは寝ることに対して「さよなら、ごめんね、ばいばい」をしてる人の成功ですよね。
——本当にエネルギッシュでありながら、ある意味運命的な部分だったりとか委ねざるを得ない部分というのはちゃんと受けているわけですね。
玉屋 : そうですね。目的地に行くための道が二つあったとして、どっちの道が続いているのかさえ解れば、続いているほうをとるんで。どっちも同じくらい大事なものだったとしても、自分は繋がっている方を選ぶ。そこの選択の判断をはっきりしていますね。バンドを辞めた時も、どっちの道がつながっているかと言われたら、成功するためには一つに絞る道がたぶんつながってるなって。それを分かっていながら、反対の道に行っちゃったら、センセーションズにも申し訳ないし、自分の夢も断たれるし。だったらこっちに行って精一杯頑張ることが、せめてもの報いというか、頑張っていい所見せるのがいいなと思ってます。
——そこを、たぶん出来ない人が多くて、悩んでいると思うんですよね。
玉屋 : この判断は、今も迷う時もあるし、自分でもやっと基準を設けることができたというか。それこそバンドを辞める辞めないもそうだし、売れるために何をしたらいいかとか。それと売れるためにしなきゃいけないことと、したいことの狭間での判断とか。ちょっとずつですけど、自分で判断がつき、はっきりと繋がっている道をたどって行けるようになって来たんで。それは本当に最近のことですね。
——音楽だけで食っていくのは本当に難しいことだっていうのは玉屋さんも理解されていると思います。その中でも、音楽だけで食っていくことは揺るがない?
玉屋 : そうですね。単純に夢を持ちたいというか、すごく改まって考えた時に、音楽にしがみつくしかないというか。会社で働けないこともないとは思うんですけど、今チャンスがこれだけあるならやりたいなって。仕事をしながら音楽をやることは、俺はすごく素晴らしいなと思っていて、それを全然否定するつもりはないし、たまたま自分の判断が音楽で「飯を食う」だったんで。自分のやっていたシーンの先輩は、メンバー4人とも働いていて、それぞれの生活があるというのが大前提でバンドをやっているんですね。そのバンドが主催していた「スタジオを貸し切ったスタジオ・ライヴ」を見た時に、「これが仕事を第一に考えて、限られた時間の中で存分に音楽を楽しむ」という、一つの完成形だなと思えて。こういう所はこういう人達がいるから大丈夫だって。だったら自分は音楽で成功して頑張ろうと思えたんです。
——音楽で多くの人に聴いてもらえる状況になったとしたら、メンバーに対してだけじゃなくて、聴いてくれる人への責任みたいなものも出て来ると思うんですね。音楽を届けることによって、玉屋さんは何を伝えたいですか?
玉屋 : 音楽を通して伝えたいメッセージは、極論を言えばないんですよね。自分が音楽を聴いた時に感じた感情を同じように感じてほしい。ドキドキするし、こんなに楽しいことが世の中にあったのかとか。例えば、何年前のどこどこであの時に車の中で流れてたなとか、頭の中で残っていてそれがずっと離れなくて、後の人生に活力として力を与えることがあると思うんですよね。そういう形で、自分の音楽が聴く人側への影響として残ってくれればいいなって。曲自体で言えば言いたいこととかはあるんですよ。例えば、「子供の心」という曲でいえば、マナブ君に子供が生まれて作った曲なんで、親の愛情みたいなものを、自分に子供が出来たらこういう風に思うんだろうなとか。そういうのが受け継がれて、どんどん巡り巡ってるんだなとか。もしかしたら子供を作ろうとか思う人もいるだろうし、お母さんを大事にしようと思う人もいるだろうし。それは何でもよくて、とにかく生活の中で活力になってくれれば。あとは音楽自体にわくわくしてくれたりとか、色々探していく入り口になるという影響は与えたいです。
——じゃあ、最後にこのツアーが終わった後に、その先のWiennersがどうありたいかを教えて頂けますか?
玉屋 : たぶん今バンドが乗り越えなきゃ行けない壁は、自分の中では明白に見えていているし、それ向かってバンドが良い状態で助走をつけられているんです。6月にシングルを出して、ライヴをして、その度にちょとずつ更新されていくのが実感できているし、周りの反応をちょっとづつだけど肌で感じているんで。すごく良い状態で離陸態勢に入ったので、ここまま1個1個ちゃんと乗り越えて、10月20日のファイナルを終えた時、やっと到達したものが見せられるし、とてつもない自信をもってステージに立てると思うので。とにかくそうなることが目標だし、見せたいので是非是非色んな人にライヴに足を運んで欲しいです。