
2年半振り4作目のフル・アルバム
SLY MONGOOSE / Wrong colors
80年代のバレアリックが再解釈されている、今日の世界的なダンス・ミュージックを目指す起死回生のアルバム! オルタナティヴなダンス・ミュージック・シーンと共振しつつ、通常なら同居し得ない音楽要素を哀愁とユーモアを交えた生演奏の精緻なポスト・プロダクションでまとめ上げた本作。
【Track List】
1. From Farce Land / 2. Fu Manchu / 3. Agent Orange / 4. Time Capsule / 5. Electric Moccasin / 6. Arisen / 7. Sweet Sweet Dreams / 8. Yowza! / 9. SAMIDARE / 10. THE LOVE CLUB
あべこべな色をもった楽曲達
音楽をある一定の枠組みに当てはめてしまう“ジャンル”というものほど頼りなく、曖昧なものはない。ジャンルのおかげで簡単に自分の好みの音を探せるようになったともいえるけれど、ジャンルがもつイメージで無意識に新しい音楽との出会いの可能性まで減らしてしまうことはよくあることだ。
約2年ぶりに発売されたSLY MONGOOSEの新作『Wrong Colors』は、一つの新たな音楽ジャンルとの出会いそのもの。SLY MONGOOSEは、ファンクやスカ、ダブなどを演奏するダンス・バンドが徐々に増え始めた2000年代に入り生まれたインスト・バンド。様々なワールド・ミュージックの要素を取り入れながら、単にルーツ・ミュージックを追求するだけでなく、オルタナティヴなクラヴ・ミュージック・シーンとも共鳴し、現代的な要素を取り入れたジャンル・レスで幅の広いサウンドは、まさに今の東京でしか生まれない音楽だ。彼らのサウンドを一つの音楽要素から語るのは難しい。そもそもジャンルに当てはめることすら不可能な彼らだけれど、『Wrong Colors』は今までのどの作品にも増して、多種多様な音楽性を持っている。一曲一曲を聴くと同じバンドの楽曲とは思えないほどの懐の広さが、ある意味ではまとまりのないように感じられるかもしれない。けれどもアルバム全体を通して聴くと、映画のサウンド・トラックのようなストーリーを感じさせるアルバムであり、SLY MONGOOSEというDJが作ったMIX CDのように、一つのテーマを持ってまとめ上げたようなアルバムだ。

彼らがDJ Harveyや川辺ヒロシ、瀧見憲司をはじめとしたDJ陣に支持され続けるのも納得できる話だ。そして、そのサウンドの中には、玄人志向の音楽ファンが朝まででも語り明かせるほど多様な要素(ポリリズム、変拍子、ユーモラスなコーラス、不思議な音色など)がちりばめられている。こういってしまうと彼らの音楽がとても難解なものに感じられるかもしれないが、アルバムを通して一貫しているテーマは踊れるということ。つまりダンス・ミュージックなのだ。
小難しいことはお構いなしに踊りだしてしまう強靭なグルーヴが彼らの音楽の根底にある。ブルース、サイケデリック・ロック、ダブ、民謡などの様々なジャンルが、SLY MONGOOSEというフィルターを通すと、一つのダンス・ミュージックとして見事なまでに一貫したサウンドになってしまう。そして、『Wrong Colors』というタイトルが示すように、 “あべこべな色”をもった楽曲たちが、SLY MONGOOSEによってまとめられた時に、今まで聴いたこともないような遊び心に満ちた一枚のアルバムが出来上がる。まずはSLY MONGOOSEが作り出すグルーヴに身をゆだねてみて欲しい。アルバムを聞き終わったころ、あなたは新たな音楽との出会いがあったことに気づくはずだから。(text by 池田義文)
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信州発。BASS×DRAM×MPC×KEYBOARDからなる4ピース、コズモラマ。2005年結成の彼らが手探りでじっくりと創りあげた会心の1stアルバム。鍵盤で叩き込まれる叙情的なフレーズ、反復のミリマリズムから生まれる快楽が強制から共鳴に変わるアシッドな展開。MPCで紡がれるコラージュされた音像はポスト・ロック的でもあり間違いなくダンス・ミュージックとして成り立っている。
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INFORMATION
Saturday Nite Live-Idjut Boys Japan Tour 2011-
2011/07/30(土)@西麻布eleven
open : 22:00
entrance : 3,500円 / 3,000円(with Flyer)
DJ : Idjut Boys(Dan Taylor & Conrad McDonnell from London/UK)、CMT(POWWOW/NRBKJ
LIVE : SLY MONGOOSE
PROFILE
SLY MONGOOSE
ディレイの彼方に立ち上がるスカ、レゲエ、ダブの裏打ちとヘヴィーなベース・ラインを下地に、目の覚めるようなロックン・ロールの8ビートや祝祭感に満ちたニューオリンズのセカンド・ライン、ディスコやハウス、テクノを貫き、朝まで続くイーブン・キック、密林をひた走るアフロ・ビート。それらあらゆるグルーヴ・ミュージックのコンテクストを剥ぎ取り、徹底的にミックスすること。その先でSLY MONGOOSEの目くるめく旅は2002年に始まった。
ライヴ・バンドとして、THE SKATALITES、ZAZEN BOYS、EGO-WRAPPIN'、ROVOら、広範なアーティストと共演する一方、その楽曲が瀧見憲司の『Sessions Vol.2:The DJ At The Gates Of Dawn - Dancestonelive』(2003年)、Radio Slaveの『Radio Slave Presents Creature Of The Night』(2006年)といった国内外のミックスCDに収録されるなど、世界的なDJの現場でも支持を集めている彼ら。ベーシストであった笹沼位吉がバンド休止後、スチャダラパーやTOKYO No.1 SOUL SETのサポートを務める過程で、活動の母体となるバンドを求め、COOL SPOONの元メンバーであるキーボードの松田浩二、トランペットの外間正巳、ドラムの武村国蔵と共に結成した。
2004年8月のミニ・アルバム『DACASCOS』では、マッド・プロフェッサー、岩城健太郎、Force Of Nature、Garalude(川辺ヒロシ+DJ KENT+笹沼位吉のユニット)によるリミックスと2曲の新曲によって、ダブの先進性を抽出し、それを熟成発酵させること2年。サポートを務めていたネタンダーズ、ピラニアンズのギタリスト、塚本功とパーカッショニストの富村唯を正式メンバーに加えると、2006年3月の2ndアルバム『TIP OF THE TONGUE STATE』をリリース。この作品は、オルタナティヴなダンス・ミュージック・シーンと共振しつつ、通常なら同居し得ない音楽要素を哀愁とユーモアを交えた生演奏の精緻なポスト・プロダクションでまとめ上げた唯一無比の傑作となった。