INTERVIEW : fhána
2024年11月20日(水)にfhána5枚目となるアルバム「The Look of Life」がリリースされた。レーベル移籍後初となるフルアルバムには、バンド史上最多の6曲の新曲を携えた、渾身の一枚となっている。きっとあなたにもあった、或いはこれからあるかもしれない人生の様々な瞬間を切り取ったような、聴く者の全ての日常に寄り添ってくれる、そんな仕上がりとなっている。fhánaはどこから来たのか? fhánaは何者か? fhánaはどこへ行くのか?彼らが挑む"人生”という大冒険へ、いざ行こう。
インタヴュー・文:前田勇介
俯瞰的な歌詞から、1人1人の心や生活に寄り添うような歌詞に
−−−2024年11月20日に最新アルバム「The Look of Life」がリリースされます。まずはこのタイトルに込めた想いについてお伺いできたらと思います。
佐藤純一(以下:佐藤):EP「Beautiful Dreamer」を作った後に、次はフルアルバムを作る事は決めていて、 どんなアルバムにしようかと考えた時に、次は明るくて温かみのあるアルバムがいいなと思ったんです。前作のアルバム「Cipher」が2019年から2022年の3年ぐらいを跨いで、 時代背景とかもあって、結構シリアスで重い感じになっていたし、世の中的にもコロナから日常が戻ってきた感じもあったので、まさに今回のアルバムの1曲目、インストの曲ですがタイトルに「Introduction(Life is coming back)」とありますけど、”生活の彩りが戻ってきた”みたいな意味合いで付けました。
−−−これは小沢健二さんの「ラブリー」という曲のワンフレーズから拝借したと聞きました。
佐藤:そうなんです。今の心境的にも、ようやく開放感が出てきて、なんかそういう、生きる喜びみたいなモノを表現したいなって。日常の中にある”尊いきらめき”みたいなものをアルバムのテーマに据えて制作していきました。そして割とアルバム制作の後半ぐらいになって、この「The Look of Life」というタイトルが思い浮かんで決めました。fhánaの曲名って、過去の名曲とか名作からオマージュして付けるのが多くて、バート・バカラックの「The Look of Love」という作品があるのですが、”Love”を”Life”に置き換えたらしっくり来た、みたいな(笑)。
−−−「Beautiful Dreamer」の時にも感じた部分なのですが、佐藤さんのSNSとかを拝見していると今回も新曲の6曲分をすごいペースで作らなきゃいけない!みたいな流れで、でも逆にスケジュールがタイトだからこそ、その瞬間が濃縮して詰め込まれているとも感じていて、本当に今のfhánaが伝えたいものが詰まってるアルバムなんだなというのは強く思いました。
佐藤:その通りですね。
−−−また「Beautiful Dreamer」を引き合いに出してしまうのですが、あのEPはかなりバンドサウンドを全面に押し出したイメージが強かったんですけど、今回はサウンド面的に意識された部分など、何かありますか?
佐藤:やっぱり基本的には温かみのあるイメージで、明るい曲たちを新曲では作りたい。もちろんアルバム全体としてもそういう雰囲気になったらいいなとは思っていました。今回、新曲が6曲でしたけど、多分fhánaのこれまでの歴史の中でも最多なんじゃないかな?やっぱりアニソンアーティストというのは、アニメのタイアップでシングルを出して、何枚かリリースしたら、そのカップリングも含めてアルバムを作って、そこに新曲が数曲というのがあるあるだと思うのですが、確か1stアルバムの「Outside of Melancholy」の時が頑張って新曲が5つとかで、恐らく今作が記録更新しました。
−−−そして収録曲のすべての映像を制作されると聞きました。完成しているMVの話題を中心に後ほど簡単に伺えたらと思いますが、早速1曲ずつフォーカスさせて下さい。先ほども少し話題になりました1曲目とそのまま地続きで2曲目の「Look of Life」が個人的には、このアルバムの方向性を示しているというか、このアルバムで伝えたいことの”象徴”のように感じまして、他にもアルバムを通してサウンドがガラッと変わったり、色んな楽曲やメッセージがある中で、この2曲が骨格になっていて、そこに肉付けされていったように思っていています。まず1曲目の「Introduction(Life is coming back)」は佐藤さんとkevinさんの共作となっていますが、どのように制作を進めていったのでしょうか。
kevin mitsunaga(以下:kevin):佐藤さんの方から、最初にフィールドレコーディング使おうよという話になり、実際に街へ出て、雑踏の音を録音しつつ、メンバーがおしゃべりしてる声も切り貼りしてっていうのをやったりしましたね。
towana:私も気になったんですけど、それってどこで録ってるんですか?
kevin:それはね……どこでしょう?(笑)
−−−そう、towanaさんの声とかもするなって思いました(笑)。
kevin:いや、まあ本当にチョップしまくってるので、音としてしか認識できないというか、文章的に意味合いを持たせてるわけじゃないから、正直どこで録ったかはさほど重要ではないし、覚えてないんだけど……確か、海外行った時にご飯食べてる所とか、そういう時に回してた動画とかからも取ってきたと思うな。なんか笑い声が入ってたり、”あったかい”とか”日常”みたいなコンセプトも踏まえて、ですね。
佐藤:アルバムの導入として、イントロダクションはインストから始まるイメージで、今作のジャケットのように、街を上空から見下ろして、街の中に生きる人たちだったり、街の中で流れる時間だったり、そういうのを表現したくて、kevinくんが色々フィールドレコーディングで素材集めてきたり、そうやって動画からメンバーの喋り声とか使ってたりしました。メンバーの喋り声が入ってるの、エモいですよね。
それで、”Life is coming back”とか言って、ファナメンたちが楽しくおしゃべりしてる声にkevinくんのおしゃれリズムが乗っかって、ちょっとエモい感じのコード進行が流れてくるじゃないですか。泣けるな(笑)
−−−「Beautiful Dreamer」でのメッセージからの流れもヒシヒシと感じる導入だったので、すごい一気に引き込まれていきましたし、本当にエモい。もう2曲目にして泣きそうなんだけど、みたいな第一印象でした(笑)。
kevin:すごい速いリズムパターンなんです。ぷつぷつした感じというか、その辺はそれこそ僕の好きなAphex Twinじゃないですけど、綺麗めな感じで、インテリジェント・ダンス・ミュージックみたいな、雰囲気をちょっと出せたらいいなと思っていました。
−−−そして2曲目の「Look of Life」に繋がっていきます。この曲は、もちろんアルバムの表題曲でもあると思いますが、具体的にどのように出来上がったのでしょうか。
佐藤:これはなかなか苦労したんです。 最初はもっと全然違う曲調を作ろうとしていて。今回のアルバム、明るくて温かみのあるアルバムを作りたいなと思った時に、脳裏にあったのは3rdアルバムの「World Atlas」だったんですね。楽曲の方の「World Atlas」があるじゃないですか。当初はあの系統の曲を作ろうとしてたんです。だけど、なんか上手くいかなくて、次に「僕を見つけて」みたいな曲で、もっと明るくしたりとか……それもなんか違うんだよなとか、ってやってるうちに、割とスタンダードなポップロックみたいな感じに落ち着いた感じでしたね。
−−−なるほど。歌詞も、もう1行目からめちゃくちゃ刺さっちゃいました。
佐藤:今までのfhánaの曲って、すごく俯瞰してる目線の歌詞が多いんですけど、今回はより視点をパーソナルな感じにして、この曲を聞いてくれる1人1人の心とか生活に寄り添うような歌詞にしていますね。
−−−確かに、そうかもしれません。
佐藤:これまでのfhánaの曲、その中で特に表題曲って考えたら、かなり主観的ですよね。主人公というか、1人の人間のストーリーみたいな感じがあって、これもまた”Look of Life”らしいのかなと思っています。
−−−個人的には「There is the Light」のライブが、結構この曲みたいことを表現されてたように感じとっていて、いろんな人生があるけど、色んな世界線があるけど、この世界線にやってこれてよかったよね。今ある出会いと縁に感謝、みたいなのを、なんかすごく感じたんですけど、延長線上の世界をこの曲に感じたというのもあって、すごい刺さったんですよね。一連の流れを感じて、エモくなっちゃって、もう2曲目なのに泣きそうみたいな(笑)。
佐藤:実はかなり具体的すぎて、もっと抽象的にした方がいいんじゃないかとか、直前まで色々と直したりしてたんですけど、でも抽象度を高めると、なんか言葉が弱くなって、ぼんやりしてきちゃう。もう、これはこれでいいのかなって(笑)。
−−−かなり直前まで試行錯誤された曲なんですね。
佐藤:指向性が狭いからこそ刺さる表現が生まれたのかな?と。「一度は諦めたけれど、諦めきれずにいつもそこに君がいた」って歌詞とかも、諦め、諦めって続くの変だから、ちょっと変えようとか言ってたんですけど「いや、でもこれがエモいな」とか、そんな感じもしてきた、みたいなやりとりを直前まで林くんとしていましたね。