良い意味で「ちょっとイメージ変わったかも」みたいなことを感じてもらえるかな
−−−まさしく”人生”を感じた所で、次の3曲目は、結構もうガラッと曲調も変わるじゃないですか(笑)。 「city dream city」はファンキーでダンサブルな感じの楽曲に仕上がっています。
kevin:これはまさに時間がなさすぎたことによって生まれた曲ですね。時間が無かった事が功を奏して大胆な判断に繋がったみたいな(笑)。
佐藤:fhánaとしても、ちょっと新しいというか。作ってなかったというか……変な曲ですよね?
−−−まあ変というか(笑)。なんかこう、歌詞とかも、面白いですよね。
佐藤:林くん、この曲の歌詞を、本当に一晩で書いてるんですよ。そのヤケクソみたいな感じが良いですよね。もっと時間があったら、もうちょっと普通っていうか、もっといつも通りな感じに落ち着いたんだと思うんですけど「わかんない、これでいいや!」みたいな感じで(笑)。でも、towanaの歌が入った途端に「これ、すごい良いかもしれない!」って感じになったんですよ。
−−−なるほど、kevinさんも佐藤さんも「towanaさんの声が入って完成した!」とおっしゃっているので、逆にtowanaさんにお聞きしたいんですけど、towanaさんはこの曲に対してどんな第一印象を受けましたか?
towana:林さんが一晩で書くなんて事は本当に珍しいというか……つまりは一晩で書かなきゃいけなかったって事なんですよ。要するに、その次の日にレコーディングがあったっていうことなんで。結果として、私はレコーディング当日の朝にこの曲の歌詞を受け取ってるわけで……第一印象としてまずは「よく頑張りました」かな(笑)。
一同 : (爆笑)
towana:曲がライブで育つ”ってよくある表現だと思うんですけど、それって当然のことで、時間をかけて身体に馴染めばもっと今までにない表現が出てくるし、だからそれで言えば、これは馴染む間もなく世に出さなければいけない状態だったんですよね。それが良いのか悪いのかは結果論なんでわからないんですけど、でも、出来上がったものを聞いて「いい感じになったんじゃない?」みたいな。まだ恐る恐るながらも良かった感じに思っています。
−−−もうやるしかないって感じだったんですね(笑)。改めて、勢いで生まれた曲かもしれませんが、逆に振り返ってみたら、ここが良かったんじゃないか?ってポイントをもう少し具体的にお聞きしたいです。
佐藤:僕はやっぱり、kevinくんの編曲ですね。SEだったり、リズムがイケてる事と、towanaの歌がこの曲のキュートというか、キッチュな感じに合ってていいですし、自分の作曲的にも変なコート進行だし、全員の瞬発力で出来た感じがしますね。
kevin:僕もマジでtowanaさんの歌が良くて、歌につられてこの曲の魅力がもう何割か増したように聞こえましたし、あと後々出てくる「Matching Error」もそうですけど、fhánaが今までやって来なかった、妖艶な感じというか、なんかそういうのも感じられて……レコード会社とか変わって、そこで出るフルアルバムとしては1枚目なわけじゃないですか。だからこそ、良い意味で「ちょっとイメージ変わったかも」みたいなことを感じてもらえるような曲になっていると思ってます。
−−−4曲目は「Spiral」です。この曲は今回MVが新しく作られまして、スマホでも見やすい縦型のMVで、あれは多分、鴨川ですよね……?。やっぱり”京都”とか”鴨川”って、fhánaにとってはキーワードだとは思うんですけど、 あの河川敷で撮ろうってなった経緯などお聞き出来ればと思います。
佐藤:我々もお世話になっている作品ですけど『有頂天家族』がアニメ放送10周年で、それを記念して「有頂天家族の日」っていうのが制定されたんですよね。その記念イベントが今年の3月に京都の下鴨神社でありまして、我々fhánaもゲストで呼んで頂いたんです。その帰りに、鴨川をちょうど夕暮れ時の良い感じ光のタイミングで、あまり人もいなかったんで、iPhoneのシネマティックモードで撮影して遊んでたんです。「シネマティックモードすっごい綺麗じゃん!」みたいなことを話しながら、別に何に使うって訳でもなかったんですけど、その場のテンションで、歩いてる映像を3人分撮ってたんです。その映像です(笑)。
−−−個人的にはこの曲にすごいアーバンなイメージを抱いてたんですけど、良い意味で裏切られたというか。でも夕暮れ時なイメージはなんとなくあって、そこは合ってた……みたいな。まさかシネマティックモードだとは(笑)。
佐藤:「Spiral」って歩いてるぐらいのリズム感だし、黄昏っぽい光の感じとかも曲の雰囲気にあってるし、あの映像良いんじゃないかなと。
−−−5曲目は「天使たちの歌」なんですけど、この曲は打って変わってアーバンな渋谷の街並みがMVになっています。個人的にはすごいTVアニメ『義妹生活』があのクールで1番好きな作品だったので、曲の事についても少し伺いたいです。
佐藤:そうですね、アルバム曲が瞬発力で作ってるとしたら、「天使たちの歌」は比較的時間をかけて作った曲ですね。もちろんタイアップ楽曲というのもあるので、作品のストーリーとか、雰囲気に合わせて作りまして……ご覧になられているので分かると思うんですけど、すごい丁寧に丁寧に、描かれてるアニメじゃないですか。それでいて、演出が斬新な感じで。演技の”間”がちょっと長いんですよね。
−−−めちゃくちゃわかります。余白の部分で語りかけてくるタイプの作品でしたよね。
佐藤:なんかここ5年ぐらいのテレビアニメって、タイパ重視というか、良くも悪くも展開が早い傾向にあるわけですけど、そんな中で、こんなに間をたっぷり使った演出で、 それをテレビアニメでやってるっていうのが、すごいですし、心情描写とかだけじゃなくて、音響の処理もすごく凝ってて、家の中のシーンが多いじゃないですか。廊下の喋り声と、部屋の喋り声では響き方も全然違うし、壁の質感とかで使い分けてる丁寧さとか、丁寧に丁寧に2人の心情を描いていて、最終的にはある程度の落としどころまでストーリーが進みましたけど、基本的には、行き場の無いもどかしさみたいな、だけど、どこか優しく包み込んでくれて……みたいな、 そういうのを曲に込めたつもりです。
−−−本当に作品とすごく馴染んでいて、OPでスッとこの曲が入ってくるのが毎回気持ちよくて、必ずスキップせずに見てました(笑)。
佐藤:でも、この曲は「あんまり義妹生活っぽくない」って、最初に提出したデモを聞いて上野監督は思われたらしくて、作品に対して「ちょっと明るすぎる」と。別に悲しい曲を作ってほしいわけじゃないけど、なんかちょっと眩しすぎるみたいなレヴューを頂いて、イントロを暗くしたバージョンとかも作り直したりしたんですけど「やっぱ最初の方が良いです」みたいな(笑)。
−−−ええっ、意外です!
佐藤:後に、なんでそう思ったか?みたいなことを別の媒体さんのインタヴューで監督が語っているのを見かけて「第一印象は希望に満ち溢れすぎていて、なんかこれは違うなと思ったし、”天使”という単語もあまり義妹生活っぽくないかなって思ったけど、ある程度時間が経ってから聞いたら、これはあの2人が失ってしまったものだったりとか、本当はあったかもしれない生活のきらめきとか、そういうものを取り戻していく過程の曲なんだ、と気付いて。アニメの最終話までの脚本が全部出来上がって、もう1回この曲聞いたら、号泣してしまった。」と仰ってくれて。
−−−それって、アニソン作家として冥利に尽きるエピソードすぎます。
佐藤:いや本当に、インタビュー読んで驚いたのですが、こうやってアニソンを作らさせていただいてる僕たちとしては非常に光栄なことですね。
−−−『義妹生活』ってモノローグがめちゃくちゃ多いアニメだと思ってて、自問自答するシーンがたくさんあると思うんですけど、そういう意味でも、この曲の歌詞も自問自答してるなと思いますし、物語に寄り添ってる感じは、ボクとしてすごく感じていました。
kevin:アルバムのために作った曲ではないんだけど、結果このアルバムのコンセプトと世界観にハマっていますよね。
−−−確かに、これもまた”人生”の歌なんですよね。
towana:最初に「明るすぎる」と言われたので、明るくならないようにとにかく声を張らずに、ボーカルでちょっとでも切ない成分みたいなのを出せたらいいなって思った結果、今までで1番優しい歌い方になりました。
−−−続いて6曲目が「Last Pages」ですけど、MVでは「There is the Light」のライブ映像を使われてて、それもあのライブを思い出して「エモっ!」となってしまいました(笑)。
佐藤:Beautiful Dreamerをリリースする時に、「永遠という光」のMVは作っていたんですけど、この「永遠という光」も「Last Pages」も10周年ライブの「There is the Light」で演奏していて、映像も撮ってたんで、ライブMVみたいな感じにしても良いんじゃないかな?っていうアイデアは最初からありましたね。実は、本番のライブ映像と、当日のサウンドチェックの際にもMV用に映像を回していて、その組み合わせなんですよね。
−−−確かに!舞台上であんなにカメラさん寄ってたかな?とかって思ったんですよね。そっちがサウンドチェック時の映像なんですね。
佐藤:そうなんですよ。この曲は「Beautiful Dreamer」の時にもお話したと思うんですけど、我々の過去曲「white light」みたいな、白い光に包まれた感じのイメージの曲で。普通に考えたらラストに置いてもおかしくない曲なんですけど、あえて6曲目に置く事で「第1部、完。」みたいな構成にしています。次の「Turing」を挟んで、8曲目の「Runaway World」でまた走り出す!という具合ですね。