ボブ・マーリーの“Get Up Stand Up”の歌詞から
──なるほど、よくわかりました。今作なんですが、これまでのtoeの個性というか路線がすごく突き詰められた感じで、音数が絞られていて研ぎ澄まされている。めちゃくちゃ録音の良いアルバムで。これを作り上げるのは相当神経を使いながらやっているんだろうなという気もするし、一方で、リラックスしているというか、パッと抜けたような穏やかな感覚もある。それが両立しているのが今回のtoeの到達した境地なんだなという感じました。
山㟢 : 音の良い悪いは、僕は全然わからないし、そういう耳が全くないので。それは全部、美濃君に任せている感じです。
美濃 : 別に良い音にしようとは今回は思っていないので。聴いて、好きだな、いいなって思えれば、としか考えていなかったです。
──美濃さんはいろいろなアーティストの仕事をされていますけど、toeの場合はどう違うんでしょうか?
美濃 : 特になにも考えてなくて(笑)。自分が心地良いと感じる音にするだけです。バランスとかは山㟢君と一緒にやりましたけど、音色に関しては自分の好みだけで、売れようが売れまいが関係ないという(笑)。ただ自分がいいなと思うものをやった感じです。
──録音エンジニアも全部美濃さんがやってるわけですよね。そのときにコツとか、こういうことを心掛けているとか、そういうのはあるんでしょうか。
美濃 : ないですね(笑)。マイクの位置を決めるときに自分の耳で1度生音を聴くくらいですかね。この楽器だったらこの音が1番美味しいなとか、そこで聴いて、いい音のところにマイクを立てるとか、そのくらいです。
――なにかセオリーのようなものは……
美濃 : 教科書みたいなのを見ると、何センチくらいのところにマイクを立てて、この楽器は何ヘルツのところをブーストしてとか、書いてあるじゃないですか。キックの作りかたは何ヘルツを切ってとか。そういうのはあまり気にしてなくて。今日のドラマーはこのチューニングが気持ち良くてこの音にしてるんだなと思ったら、その素材を生かす。その素材で、僕があまり好きじゃないポイントは削るとか、そういうことはしますけど。基本的にはその場その場、その日その日で全部違うかもしれないですね、やりかたは。
──ずっと同じバンドで、ずっと同じメンバーで組んでいてもそのポイントは変わるものなんでしょうか。
美濃 : 基本的には同じかもしれないですけど、録る部屋の鳴りであったりとか。でも今回はこんなにライヴっぽい感じにしたくないけど部屋が鳴ってしまう、とかだったら考えるし。何度もデモを(山㟢と)一緒に聴いているのでそのイメージに寄せつつ、でも生の楽器も拾いつつという感じで。いいなぁと思うまで、ひたすら部屋中を歩き回っていいポイントを探してマイクを立てるだけです。

──なるほど。歌の入っている曲も何曲かありますが、先ほどの山㟢さんの曲の作りかたからすると、いわゆるシンガー・ソングライター的な、ギターをつま弾いて、鼻歌を歌いながらだんだん作っていくというのとちょっと違うような気がしますね。
山㟢 : 歌は曲によってもそれぞれですけど、基本的にコードに沿って歌メロを考えたりとか歌メロを先に作ってそれにコードをあてていくみたいな感じはなくて。ヒップホップとかR&Bの人みたいにトラックに鼻歌をつけていって歌メロっぽくするというか。そっちのほうが多い感じです。リフが決まってから鼻歌で歌って段々つけていくのが多いですね。
──あぁ。コードではなくてトラックにあてていくと。
山㟢 : そうですね。
──コードで作るのとなにが違ってくるんでしょうか?
山㟢 : 僕はコードで作っちゃうと、歌謡曲っぽく聴こえるんですよ。日本のああいう歌謡曲っぽさって、けっこうそういう感じかなぁって思っていて。洋楽ってどっちかというと、大きく言うとワンコードのなかでフロウっぽく歌メロを作っているものが多い。特にAメロ、平メロ、みたいなパートは。(普段)聴いている好きな曲もそういう、ヒップホップ、R&B的なものだったり。海外のものが結構好きなので。どちらかというとそういう作りかたになっちゃうかな。
──私が、曲を作って歌う人によくする質問で「あなたの曲は生ギターの弾き語りでも歌の真意は伝わりますか」というものがあります。伝わりますって答える人は、その人の表現の核に歌があるということだと思うんですよ。山㟢さんの場合はどうですか?
山㟢 : あぁ、全然伝わらないと思います。もともと自分は音楽をやっているんじゃなくてバンドをやっているのだと思っていて。いわゆる“ミュージシャン”とは違うんだよなってずっと思っていたんです。ギター弾き語りでみんなにいいと思ってもらえるとか。ギターがすごくうまいということではなくて。そういうのができないからバンドでやっている気がするんですよ。もともとパンクとかハードコアが好きだったからそう思っているのかもしれないですけど。結局できないくせにやってみるっていうのがバンドな気がしていて。昔のラモーンズとかセックス・ピストルズなんか、コード3つしか弾けないけどバンドにしてみた、みたいな。表現の一部としてたまたま選んだものが音楽で。音楽をやるにはみんなで楽曲を作らないといけないから、それならバンドをやろうかな、みたいな。どちらかというとそういう選びかたでやっているので。いま、自分が歌を歌っているのも、歌入りの楽曲が作りたいけど、メンバーのなかでは俺が歌えばいいかって思って歌っているだけで。そんなに自分がヴォーカリストとしてなにかを表現したいという感じでもない。自分のギターもそうなんですけど、自分をギタリストだと思っていない。いろいろな楽器があるなかで唯一ギターが弾けるから弾いているだけというか。
──最近、バンドのヴォーカルの人が、アコギ弾き語りツアーとかやってるじゃないですか。特にコロナ以降。そういうことは全然興味ないですよね。
山㟢 : うまいに越したことはないし、やりたいとは思うけど、腕がないですね。
──あ、やりたいですか。
山㟢 : 全然(やりたい)。ハナレグミの(永積)タカシ君みたいにできたらいいなって。さらにモテそうだなって思って憧れているんですけど。
美濃 : わははは!
──ほんとですか(笑)。
山㟢 : あんな風にできたらいいよなって思うんですけど、全くできないので。テクノロジーがないと、音痴なので。
──仮の話ですが、山㟢さんがめちゃくちゃ歌のうまいヴォーカリストだったら、いまみたいな音楽はやっていなかったかもしれない?
山㟢 : そうかもしれないですね。全然、普通の弾き語りでやっていたかもしれない。うん。まぁ、もしもの話だけど(笑)。
──そうですか。今回特に感じたんですが、toeの歌詞は、歌詞カードを読んでいるだけではわからなくて、音と一体になったときに初めてわかる気がしました。意味というよりこの音にうまくハマって気持ちよく聴こえるような言葉を選んで、そういうフロウで歌っているというのがすごくわかる。
山㟢 : まさにそういう感じです。デモをずっと、自分英語みたいな宇宙語で歌っていて。最終の歌詞を作るときに、それを聴いた感じに近い日本語を当てはめていくんですよね。
──あぁ、なるほど。
山㟢 : 逆に意味を先に考えて当てはめようとすると、韻の感じが変わっちゃって。字数が変わると変な感じになる。思っていた曲と変わっちゃう。どちらかというと聴感上、パッと聴いたら同じように聞こえるような日本語、宇宙語に近い日本語をはめていくんですけど。ただ、そのなかで無意識にでも自分が選んでいる言葉が、ただ単に無作為にやっているわけではなくて、世の中にあるいろいろな言葉のなかから一応、自分が選んだ言葉を入れているので。自分が曲を作るときにはなにもテーマも決めずに書き始めるんですけど。結局最終的にはなんとなく意味が出てくる。それもはからずも、という感じで、どちらかというと聴感上に近いもの、という感じで作っています。
──歌詞の意味を伝えようと思って作っているわけじゃないけど、結果的に意味が出てくるかもしれないと。
山㟢 : そういう感じに近いと思います。
──でも歌詞として出している限りは、聞き手側は勝手に意味を読み取ってしまいますね。
山㟢 : そうですね。自分でも書いているうち半分くらい埋まってくると、その方向の意味合いになってきて、なんとなくストーリーができてくる。3つ言葉があるうち、これを選んだらこういう歌詞になるなぁって意識するようになってくる。作る工程としては、ゼロからだんだん意味が出てくるけど、できあがってからも、結果的に意味になっているかなと思うんですけどね。
──いまのお話だと、気持ちいい曲を作ることが最優先であって、それがたまたま10曲集まってアルバムになるということですね。ただそうは言っても、『NOW I SEE THE LIGHT』っていうタイトルがついて、それぞれの曲もタイトルがあって。アルバムとしてコンセプトとかテーマみたいなものがどうしても生まれてくる。
山㟢 : 元々アルバムとかのパッケージングでテーマを決めるとかは基本的にしていなくて。1曲単位で作った曲を集めたということでしかないと思うんですよね、俺のなかでは。同じ時期に一緒に録っているから、ぐらいが、唯一のまとまったテーマになっていて。曲それぞれ、アルバムはこういうテーマだからこの曲はこうしましょうっていうのは1個もないですね。ただ曲を作るときにバランスは考えるかな。アルバム用に曲を作り始めようというときは、バリエーションを考えているかもしれません。
──こういう曲が足りないから作ろう、みたいな。
山㟢 : そうですね。あとはウタモノを3曲作っちゃったからあとはインストがいいかなとか。そんなくらいのことを考えている。
──たとえばこの10曲の中で1番最後にできた曲ってなんだったんですか?
山㟢 : 1番最後にレコーディングしたのはタイトル曲の“NOW I SEE THE LIGHT”っていうやつですね。
──これがアルバムに必要であるという判断で作った。
山㟢 : どちらかというとアルバム・タイトルのほうを先に決めていたんですよ。『NOW I SEE THE LIGHT』っていう。ならこの曲のタイトルも“NOW I SEE THE LIGHT”にしようと思って。この曲は作り始めたときに思っていたより大きな雰囲気のいい曲になって、最終的にタイトル曲になったという感じなんですよ。
──『NOW I SEE THE LIGHT』というアルバム・タイトルを決めたのはどれくらいなんですか?
山㟢 : まだミックスしている始めのほうですね。ディストリビューターとか販売のかたから、タイトルだけください、みたいなことがあったので、先にタイトルを決めなきゃいけなかった。何パターンか決めていたんですけど、これがいいかなぁって。
──例えば『toe vol.4』とか、そういうタイトルでもまぁ、いいっちゃいいわけじゃないですか。でも『NOW I SEE THE LIGHT』というのは、すごく意味が出てくるから。そこは込めたかったということですか?
山㟢 : そうですね。あまりネガティヴなワードにはしたくないというのが最初にあって。ただあまりにもアッパーな感じもちょっと違う。なんとなく希望のある、ポジティヴな感じの言葉をチョイスしたいなと。これは、ボブ・マーリーの“Get Up Stand Up”の歌詞からとってるんですよ。〈Now You See The Light, Stand Up For Your Light〉っていう。候補が何個かあったんだけど結局これにして。特に普段からボブ・マーリーが好きでよく聴いているわけでもなく。なぜかなんとなくピンと来て。
──それまでは“Light(光、希望)”が見えなかった?
山㟢 : どうなんですかね。そこまで考えてないかも(笑)。なんとなくそのときの雰囲気で決めたタイトルではあるんですけど。
──みなまで語らなくてもそれぞれにいろいろなイメージが聞き手のなかに湧いてきて。そういう意味ではすごくイマジネイティヴで、広がりのあるタイトルですね。
山㟢 : 結局、僕らも1音楽ファンで。どこかのミュージシャンがこういうタイトルでやったら、深読みをしてあれこれ考えるけど、ご本人はあまり考えていなかったりするじゃないですか。そういう振り幅というか。こっちがこうだと思って発表しているものと、受け取る側は違う受け取りかたをしても、それはそれで面白いと思うので。だから絶対これはこういう意味です、っていうのはなくて。それはそれで皆さんの捉えかたでいいんじゃないって気はしますね。

──わかりました。最後に、これは言っておきたいとか、話しておきたいとか。
山㟢 : 特にないです(笑)。ライヴがやりたくてバンドをやっているので、タイミングがあったら是非皆さんにライヴを見にきてほしいと思います。
──でもライヴがあれば音源は要らない、とはならないんですよね。
山㟢 : うーん、なんかそういうのがないとみんな飽きて来なくなるかなって思って。
──新しい音源を作らないと?
山㟢 : なんか、活動していない感が出ませんか?音源出さないバンドって(笑)。
──ああ。この間取材したあるバンドは、ツアーをやらなきゃいけないからレコードを作るんだって言ってました。
山㟢 : それに近いかもしれないです。そういうトピックを作っておかないと。でも自分たちもなにか新しいものを作らないとっていう気持ちもあるし。
──あとに残すという意味では作品ってやっぱり大事だと思うんですよ。
山㟢 : そうですね、本当に。1年が3か月で過ぎていくので、どうしようかなって考えていると一年くらい過ぎちゃう。
──年を取ると時間が経つのが早い。
山㟢 : 本当ですよね。このメンバーでやる最後のアルバムかもしれないので(笑)。
──そんなことを意識するんですか。
山㟢 : いや、次で誰かもう死んでいるんじゃないかっていう話を前にして(笑)。
──確かに、これが9年ぶりのアルバムだし、次も9年後なら全員が生きている保証って別にないですからね。
山㟢 : そうですよ。9年後、僕は59歳になるので。
──あぁ。9年後で59だったらまだまだ全然大丈夫だと思いますよ。
山㟢 : まだ大丈夫ですか(笑)。
美濃 : (笑)。
──全然いけます。あと3、4枚、5、6枚アルバムを出す感じで。
美濃 : …無理かな…でも1枚は出したいです。
山㟢 : (笑)。
編集 : 高木理太
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DISCOGRAPHY
LIVE SCHEDULE
FEVER 15th anniversary “NOT BORED TYO”
2024年7月18日(木)@東京都 新代田FEVER
FUJI ROCK FESTIVAL’24
2024年7月28日(日)@新潟県 湯沢町苗場スキー場
Incheon Pentaport Rock Festival
2024年8月2日(金)@韓国 SONGDO MOONLIGHT FESTIVAL PARK
ONE PARK FESTIVAL
2024年9月7日、8日(土・日)@福井県 福井市中央公園
Australia + New Zealand TOUR
2024年10月17日(木)@The Triffid (Brisbane, QLD, AU)
2024年10月18日(金)@Manning Bar (Sydney, NSW, AU)
2024年10月19日(土)@Max Watts (Melbourne, VIC, AU)
2024年10月22日(火)@Galatos (Auckland, NZ)
2024年10月23日(水)@Meow (Wellington, NZ)
PROFILE
toe
2000年、山㟢廣和(ギター)、美濃隆章(ギター)、山根敏史(ベース)、柏倉隆史(ドラム)の4人編成で結成。自らのレーべルMachu Picchu Industrias(マチュピチュ・インダストリアス)から音源をリリースし、独自のDIYなスタイルで活動を続ける。主にインストゥルメンタルの楽曲でありながら、聴くもの観るものを高揚、魅了させる音源、ライヴパフォーマンスは多岐なジャンルに渡るアーティストから絶大な指示を受けており、音源、ライヴともに様々なコラボレーションも行っている。欧米での音源リリースはTopshelfRecords(米)と契約。今までに北米、南米、ヨーロッパ、アジアでのツアーを幾度となく行っており、国内外のフェスにも多数出演するなどワールドワイドなバンドとして活動をしている。
【HP】
http://www.toe.st/
【Instagram】
https://www.instagram.com/toe_music_official/