音源は音の良いデモでも全然良くて
──スマホに入れた、口でつぶやいた1番最初のネタみたいなものを聴きながら、これはこういう曲に育ちそうだなっていう予感みたいなものは、美濃さんにはあるのでしょうか。
美濃 : 口で言っているのもあるんですけど、山㟢君がリビングでアコギをベロンって弾いている断片がそのまま入っていることが多くて。この雰囲気を広げたらすごく良いかもっていうのは、直感で山㟢君に伝えて。ぱっぱって聞いて、これ良い、これ良い、これ好きって。良いけど似てるから要らないとか、そんな感じです。
──やっぱりピンとくるときはピンとくるものなんでしょうか。
美濃 : ピンとくるときはあります。このリフ、これだけでもカッコいいね、とか。これにドラムだけついてもカッコいいけど、これだと多分頑張っても30秒だよね、というところから始まります。
──あぁ。わかるものなんですね。5秒、10秒しか入っていないようなものでも。
美濃 : うん。グッとくるかこないかはわかる。
山㟢 : 美濃君に聴かせる時点で俺はけっこう、厳選しているからね。美濃君の後押しが欲しいだけ。いいねって言ってもらって、決める。俺はどれもいいつもりで選んでいるので。
──客観性の担保みたいなもの?
山㟢 : そうですね。俺だけの主観じゃなくて、一応、美濃君が聴いてもいいじゃんと思うかどうか。1番初めの世間というか(笑)。俺以外の人、という感じで。信用している美濃君がいいっていうなら、これはいいんだろうなっていう。
──toeっていうバンドの個性とか、パブリック・イメージとか、作品としての一貫性とか連続性とかあると思うんですよ。ふたりで曲に練り上げていくときにそういうものって頭に入っているんですか?
山㟢 : どうなんですかね。あまり考えないままずっとやってますね。僕、自分から湧いてくる自分だけのメロディを、みたいなタイプではなくて。音楽を聴くのが好きなのでこのバンドのこの感じと、このバンドのこの感じが入って、ウチのバンドでこうなってこうなったらカッコいいんじゃないか、みたいなことを考えるんです。僕の考えた理想のカッコいいバンド、みたいなのを自分でやってみるみたいな。色々なところから持ってきて合体させてやっているので。みんなが考えるtoeの感じに寄せる、みたいな方向性にすることは基本的にはないんですけど。
──なるほど。
山㟢 : 今回は今までやってきたことと全然違う! と思って、ウチの奥さんに聴かせても、「すごいtoeっぽい」って言われますから(笑)。すごい山ちゃんっぽいって言われるから。
──それが個性ですね。
山㟢 : その辺は主観と客観で全然違うなと思いながら。こういうのがうちのバンドっぽいって思われてるっていうのは、大体わかってきてますけど、あまり気にしないかもなぁ。

──作っているうちに、これはちょっとtoeっぽくないからやめようとか、そういう判断はないわけですか?
山㟢 : それはあまりないですね。逆に、だからこそ面白いと思ってやっているんだけど、結局toeっぽいって言われちゃう。いろいろやってもこのメンバーでやるとそうなっちゃうというね。
──なるほど。おふたりで曲を育てていって、それを最終的にバンドに持って行くという作業なんですね。
山㟢 : そうですね。実際に演奏してみると、デモとは違って、ここはもうちょっとこうしたいなとか。演奏してみるとまた違うので。行ったり来たりしながら、照準を合わせる感じです。
──なるほどね。最初に山㟢さんが作ったネタがあって。それを美濃さんとふたりで育てて、山根(さとし)(b)さんと柏倉(隆史)(ds)さんのところに持っていく。そのときには大体、曲の雰囲気は完成していると。
山㟢 : ちょっと前くらいは、いつも時間がない、時間がないって、本チャンのレコーディングの前の日くらいまでデモ作りをやっていて。ドラムとベースは最終のアレンジをレコーディング当日に聴きました、みたいなときもけっこう多くて。そうするとやっぱり曲の理解力みたいなものも足りないので、とりあえず20秒このリズムを叩いて、みたいな感じになってくる。なので今回は本チャンの録りの前に、デモをバンドでスタジオで演奏して修正しながら何パターンかやりましたね。
──普通バンドってそうするものじゃないんですか。
山㟢 : らしいですね(笑)。なので僕は本当のレコーディングもデモの延長みたいな感じなんです。良い音のデモ。録ったあとで編集していたので。僕のなかでは音源は音の良いデモでも全然良くて。要は曲が良かったらいい。バンドの臨場感とかバンド感とかを音源に残す必要性はないと思っていて。なんか、パッと聞いてバンド感がある音源って、カッコいいと思うけど、熱量がありすぎてあまり聞かなくなりません?
──それは人によると思うけど(笑)。
山㟢 : 俺が好きな曲って、けっこう音源がボソっとしているというか…それこそ昔のローリング・ストーンズの”Jumping Jack Flash”とかもさ、ライヴで聴くとカッコ良いけど、音源で聴くとすごくスクエアな、あまりダイナミクスがない。でもそういうほうが、のちのち音源としてよく聴くんだよなって思う。
──さっき「音源は音の良いデモでいい」とい言われたけど、となると完成品はライヴであるとか、そういう考えかたなんでしょうか?
山㟢 : (ライヴとは)別個に考えていて。基本的に僕はライヴがやりたいので、音源はライヴの材料な気もするんです。
──ライヴが先なんですか。
美濃 : ライヴで何回か演奏してるうちに曲が完成していく感じはあります。
山㟢 : 音源は音源としてカッコいいものがいいと思っていて。そのカッコいいと思うものが、バンドでガチャガチャやっているというよりは、淡々とやっている録音状態のもののほうが好きなんですよね。
──あぁ、面白いですね、それは。
山㟢 : ワーってダイナミクスがある録音って聴いていて俺は疲れちゃうので。
──では「音の良いデモ」だというtoeのレコードは、デモの段階をつきつめて完成度を高くしていくのが完成形ということですか。
山㟢 : かもしれないですね。音源に関して言えば。
美濃 : 完成するまでに、全体はなんとなくカッコいいんだけど、ここのBメロの10秒くらいがかっこよくないんだよな、どうしよう、みたいなので、じゃあここを縮めようとか。ガラッと変えちゃうとか。そういう作業はけっこう惜しまない。せっかく作ったから使おう、みたいなのじゃなくて、しっくりこないならしっくりくるまで、デモの段階からすごいやるよね。
山㟢 : 俺はそれが嫌いなんです、せっかくやったから、とか。そこで選択しないといけないのがすごく嫌いで。僕は設計デザイン業をやっているので、現場でもそうなんですけど。時間がかかった、手間がかかったということと、最終的にうまくできるかできないかは別の話な気がしていて。聴く人は作った人がどれだけ苦労したかなんて関係なくて、出てきたアウトプットの完成形の出来だけにしか興味ないじゃないですか。
――そりゃそうですね。
山㟢 : すごく苦労して考えたリフだから、とか。頑張ってうまく弾けたからこれをどうにかして…とか。それが曲に本当に必要だったら別だけど、やってみたけどなんか違うなと思ったら、それはもうなくていいんじゃないかと思うので。
美濃 : 熱量はすごく入っているというか。いいなと思うまでは、なにがいいのか悪いかわからないけど色々やるよね。
山㟢 : うん。すごくやりました。
──最近はバンドのレコーディングっていってもいろいろな形があるじゃないですか。普通に「せーの」でやるバンドもあるし、ドラムもベースもギターもボーカルも、全部バラバラに録る人もいるし。下手したらドラムも、スネアだけとかタムだけとか、ハイハットだけとか、そういう風に録ってあとで組み立てるようなやりかたもあるじゃないですか。toeの場合はどうなんでしょうか。
山㟢 : 音源に関しては、そういう音像に録りたかったらやればいいし。バンドでやりたいとか打ち込みとか、こだわりはないですね。

──曲の求めるところに従ってやればいいじゃないかと。
山㟢 : そう思いますけどね。うちのバンドも僕が弾く必要性がなかったら、ギターを弾かない曲があってもいいし。ループで3分間同じリフをやり続けなければいけない曲もあると思うし。それはそれでしょうがないじゃんっていうか(笑)。弾いていて楽しくはないけど、そういうリフが曲に必要だったらやるしかない。それで全体の曲が良くなるんだったら、ミュージシャンシップより曲の完成度の方を優先したいタイプなので。
──じゃあ極端な話、toeの新作が出ました、でも山㟢さんは演奏する必要がなかったからどこにも入っていません、それでも構わないわけですか。
山㟢 : 全然いいです。曲のなかでずっと転がり回っているだけでもいい(笑)。1曲ずっとそれでもいいと思っています。