ラップも年相応に更新できるはず
──Die, No Tiesには『OGGY & THE VOIDIZ』の流れを感じると言いましたが、あの作品から自分が強く感じたのは、大人の孤独感でした。気がつけばいわゆる”大人”になってしまっていて、周りに取り残されたことに静かに気付く虚無感というか。
L : やっぱり周りと比べちゃうじゃないですか。いくらでもかっこいい人がいるのに、自分は30を超えちゃって、その焦りと孤独感とかがあったけど、いまはいい意味で諦められた気がします。
──そうですよね。いまはそれも受け入れて”人生のままならなさ”みたいなものにシフトしているように聴こえます。
V : “このまま”とか、極端な絶望というよりも、日常の温さ・怠惰さみたいな感じ。 ブックオフで買わずに幽白読むとか、コンビニスイーツみたいに、どこにでもある誘惑に負ける、とか(笑)。目的に対してのぬるさみたいな感じのリリックですよね。だから冗談めいてるけど。
──VOLOさんも、ここに居ないけどヤング・キュンさんとのOGGYWESTも、日常に感じる虚無感をラップにしますよね。それが、逆セルフボーストのようなジョークにも聞こえるのに、辛辣なほど現実味が溢れていて新鮮です。前にVOLOさんが言ってた、”ミドルエイジのオルタナ・ラップ”という表現って、冗談めいてたけど僕はすごい好きなんですよね。
V : 合ってるかわからないけど、若かったころと同じような事をするのは、結構嫌なんですよね。聴いてるものも関心も経験の蓄積のうえで変わっていってるので、それを自分らしくやる事は結構心がけているかも。
L : ここでpoivreさんの役割だと思っていて。我々はブーンバップ世代というか、ブーンバップとすらあまり呼ばれてなかった世代。poivreさんのビートはストレンジっていうかポップで、ブーンバップではないですよね。この組み合わせはやっぱ他にないと思います。
V : またコロナ禍だったから、前だったら曲を作る時に自分が慣れ親しんでるクラブ・シーンの場に合いそうかどうかも結構意識してたんですけどライヴがとまっちゃたんで、そこはあまり気にせず。自分はさっき言ったように、ラップも年相応に更新できるはずっていうのがあった。若作りする必要はないんだけど、なんか年相応にちゃんと更新できるでしょって。年をとって知ったことも認めることが大事だと思っていて。
p : Watsonとかを聴いて、かっこいいとは思うけど、いまからああいう風になりたいわけではないというか(笑)。この歳でオラオラした感じの音楽をやりたいとは思わないし。音楽的にずっと変わらないことをやっているベテランのアーティストのかたとかもいるなか、俺たちは俺たちなりに新しいものをインプットしてやり続けるのが楽しいし、良いと思いますね。それこそ憧れるのは年上でも自分の音楽をアップデートし続けている人たちだと思いますね。

──いまの話を聞いていて、1曲目の“03”でOMSBさんが客演に呼ばれるのは納得です。OMSBさんも『ALONE』以降は他人との分かりあえなさと自分のなかで折り合いをつけるような視点に、Die, No Tiesと通じるものを感じます。
V : みんなそういう時期ですよね。分かりあえないからってぶん殴るのかっていうと、そんなわけにはいかないじゃないですか(笑)。
──ちなみにタイトルの“03”って何ですか?
V : おっさん。
一同 : (爆笑)
L : 俺は2003年かと思ってました(笑)。
p : 僕も20年前のことを振り返ってるのかと思ってました(笑)。
V : じゃあ、そっちの意味にしましょう(笑)。
── 一方で、“明るい夜”での若いNeibissとの繋がりはどういったものだったんですか? この曲は最も明るい曲ですよね。
L : ratiff君が“透明”とか聴いていてくれていたらしいんですよ。それで自分が客演で出たイベントにNeibissも出てて打診してみたら、OKをくれたんですよね。
V : あの曲は風通しの良さがすごい出ましたね。Neibissの、本当に背伸びしない自然体の感じが凄く良かったです。この曲はふとイベントに寄ったら意外に楽しかった日の帰り道みたいな曲になった。『SEASONS』は憂鬱な空気が漂っているアルバムかもしれないけど、ああいう日もあるという意味で日常っぽさが出てて良いかなと思ったし。
──VOLOさんのリリックは、うっすらと不安定さが漂っていますよね。2019年にVOLOさんの『In Between』のインタビューをさせてもらった時には、意識的にそういう曲にしていると語っていましたが、そう意識しはじめた転機とかがあるのですか?
『In Between』リリース時のインタヴュー
V : うーん、だって現実はそういうもんじゃないですか。普通に生きてても戦争は起きるわけだし、そう考えることが普通になっちゃったから、なにが転機だったか忘れちゃったなぁ。でも、いろいろ日々考えることとか、決め付けずに考えようとは思う。変な楽観とかって逆に人を傷つけることも多いじゃないですか。皆、別に悪意を持ってないけど、無知が故に大変なことが起きる。それは自分もそうだし、難しいんだけど、そういう感じを出したいっていうのが一貫してあるのかもしれない。
L : 個人の力ではどうしようもない事でも、自分も知らぬ間に加担しているのかもしれない。どうしようもないことが地続きにある世界で、個人としてどう生きていくの? っていう認識というか。
V : そうそう。その空気を押し付けがましくなく言いたいのかも。
──こじつけかもしれませんが、それは政府やメディアに対する疑念や、未来の不確実性が当たり前の認識になったいまの時代性なのかなとも思いますが、どうでしょうか。
V : うーん、そうかもしれないしそうじゃないかもしれない。
L : 歳のせいなんじゃないですかね(笑)。歳を取って、他者にも目がいくようになって。自分の生活とは違うレイヤーの事柄にも少し責任感が出てきた気はしますね。OGGYだと直接言及することもあるけど、Die, No Tiesだと、自分はどう生きているかをラップするかの違いですね。