
POWER DA PUSH第9弾! SIMI LAB最狂のMCソロ・アルバム
OTOTOYのヒップ・ホップ担当こと和田隆嗣が、毎月一押しのヒップ・ホップ・タイトルを追い続けるPOWER DA PUSH! 第9弾はSIMI LABから、待望のリリースを発表したOMSBのソロ・アルバム『MR.“ALL BAD”JORDAN』をピック・アップ! SIMI LABの結成当初から騒がれ続けてきたMCのOMSB。秘められたヒップ・ホップへの強い情熱を感じられた一枚。マジでチェックです。
SIMI LABのメンバーだけで構成されたソロ・アルバム
OMSB / MR.“ALL BAD”JORDAN
【価格】
mp3 単曲 150円 / アルバム 1,500円
1st アルバム『Page 1 : ANATOMY OF INSANE』がヒップ・ホップ・シーン内外からも注目度が高まっている、変幻自在のヒップ・ホップ集団SIMI LABから遂にOMSBのソロ・アルバムがリリース。
遂に発表されたOMSBのソロ・アルバム。噂通り、期待通りの怪作に心奪われました。新星SIMI LABの中核として今後が楽しみです。2012年は、いい意味でSIMI LABに振り回され続けた1年になりました。2013年には何が起きるのか? 非引き続きチェックさせてもらいます。(OTOTOY / 和田隆嗣)
SIMI LAB、OMSBが遂にソロ・アルバムをリリース
“出る”と言われて続け一年弱… その長い期間を補っても余りある一枚が完成した。菊地成孔率いるDCRPGとの共演や、突然勃発したリーダーQNとのビーフ、そしてQN脱退と多くの話題を振りまいてきたSIMI LAB。もはや“説明不要”となりつつある相模の若きヒップ・ホップ・グループを代表するのが、今回『Mr. "All Bad" Jordan』をリリースするOMSBだ。彼のトラック・メイカー名義・WAH NAH MICHEALでの活動を含めると、SIMI LABは彼が大黒柱と言っても過言ではない。それだけに、ソロ・アルバムに対するファンからの期待と注目は高いはずだ。そして結果から言おう。これはSIMI LABがネクスト・レヴェルに到達したことを証明する一枚だ。
第一印象として、トラック、ラップ共に、これまでの彼ら(SIMI LAB)の作品とは熱量もクオリティも段違いだ。図太く真っ黒いアグレッシヴさが一枚を通してキープされ、スキットはあれども、中だるみは一切無し。好評だったフリー・ダウンロードのビート・テープ『Kitajima “36” Sublow』や、WAH NAH MICHEAL名義でのBukkakeシリーズとはまるで別人だ。また、今作のミックスを担当したのが言わずと知れたillicit tsuboi(注 : 1)ということで、トラック自体のエンターテインメント性が高くなっている。謎めいたダウナーなヒップ・ホップ色が濃さを増しただけでなく、以前よりも抑揚のあるドラマティックな展開をしている。ラップの迫力も然りだ。丸みのある声とリズミカルなフロウで、溜まった鬱憤に火を付けるようなスタイルが、以前よりもラフさを増している。SIMI LABではコミカルな一面もあるだけに、今回の力強くマイクを握り、口角泡を飛ばすようなラップには聞き応えがある。今作に込められた高揚感とフラストレーションは、大舞台に登る新人に勝るとも劣らなかったに違いない。これはSIMI LABでは見せなかった一面なのか。それとも次のレヴェルへ到達し打ち立てた金字塔なのかはわからない。しかし、これまでの“センスを見せつける為の遊び”という印象が無い。振り返れば今まで彼らしさ、(ひいてはSIMI LABらしさ)とは、ミュータント的なオリジナリティだけでなく、それを引き立てるジョークなど、音楽から伝わってくる仲間のノリが魅力的だった。しかし、ソロになると一気にフォーカスがヒップ・ホップに絞られる。

アルバムを再生すればヒップ・ホップ黄金期のアナログを思わせるイントロ。真っ黒い鬱憤を燃やして疾走するOMSBが名乗りを揚げる「No Big Deal(F Zero)」、ヒップ・ホップ特有の閉鎖した価値観をフル・スイングで批判する「Rapper Ain't Cool feat.JUMA」、ライヴを頭に描いてしまう程に迫力のある「Against Gangsta feat.DIRTY-D、JUMA」。この3曲がアルバムにアグレッシヴな印象を与え、ヘタウマなラップでSIMI LAB内ではおっとりしたキャラのJUMAが、OMSBと化学反応を起こして豹変している。Dirty-Dとは田我流の変名であり、ピュアな繊細さと、深みある渋さを併せ持つ田我流とは違い、ギャングスタ顔負けのラップは必聴だ。また、アルバムには、OMSBが自らアイデンティティを解体して晒すような一面を見せる。SIMI LABのメンバーで、OMSBと同じくアフリカ系の血が流れるDyyprydeを迎えた「Fuck The Fake Policia」では、外国人に見えるだけで日常的に職質を受ける怒りを燃やしている。また「Hoodless」では地元と呼べる場所を持てないパーソナルな事情と感情を吐露している。ヒップ・ホップ特有の“フッド(地元)”を特別視する風潮を踏まえて聞くと興味深い。いずれも影のある内容だが、OMSBは一切湿気る事なくラップで燃やす。この天然なタフさも彼の魅力だ。

他にも「Hmm...」では、近年のヒップ・ホップをひとつの系統を作ったと言えるPUNPEEと、SIMI LABの中だけでなくソロでも活躍が目立つUSOWAのラップが楽しめる。今やDJやプロデュースで話題が耐えないが故に、寡作なPUNPEEのラップはファンにとってありがたい。最後に紹介したいのは、SIMI LABの紅一点にしてアイコンのMARIAと、E-40(注:2)の息子ISSUEと迎えた「Fog」。ISSUEとMARIAという意外性のある共演だけでも驚きだが、淀んだメロディーに速いドラムを合わせる実験的なビートで試みており、スロウでドラッギーなテイストに仕上げられている。Odd Future(注:3)や、A$AP Rocky(注:4)、Flatbush ZOMBiES(注:5)など、近年のUSヒップ・ホップの影響が垣間見れる。スロウでミステリアスなMARIAのフックや、ISSUEのまどろむようなラップがホラー映画のような緊迫感を醸し出しており、突出した不気味さを持っている。こういったことをしても、OMSBの手にかかればアメリカの後追いのようには聴こえないのが流石だ。
振り返れば「Walkman」、「Uncommon」といったSIMI LABの代表曲は、OMSBから始まっていた。あの強烈なファースト・インプレッションが凝縮された今作は、決してバラエティーに富んだ色鮮やかなアルバムではない。しかし、中だるみ無しでここまで高いエネルギーを維持した一枚を仕上げるには、相当な集中と覚悟があったことを感じ取れる。それはOMSBのみならず、客演しているSIMI LABのメンバーも含めてだ。注目を受ける側の新人から、自ら注目を獲得していくプロへと意識が変わったことを感じ取れる。これで後には、SIMI LABの紅一点、MARIAのソロ・アルバムを残すところとなった。SIMI LABの次のアクションと共に、彼女のソロ・アルバムにも大いに期待する。(text by 斎井直史)
注1 : illicit tsuboi(イリシット・ツボイ)
ECDのDJであり、キエルマキュウのメンバー。半ば暴走しては客を煽り、レコードをどんどん切り替えては繰り出されるハイ・レベルなスクラッチ・プレイは圧巻。プロデューサーとしての評価も高い。
注2 : E-40(イー・フォーティー)
米西海岸、ベイ・エリアにシーンを築いたベテラン・ラッパー。90年代末にローカル・エリアで産まれたハイフィーというスタイルを2000年代において若手と共に世に知らしめた。
注3 : Odd Future(オッド・フューチャー)
ロス・アンゼルスを中心に、2011年に突如現れたスケーター・アーティスト・グループ。大半がティーンで、馬鹿しさを前面に打ち出しながらも、狂気スレスレのハイ・テンションな楽曲が人気を博す。正しくは、Odd Future Wolf Gang Kill Them All。
注4 : A$AP Rocky(エイサップ・ロッキー)
2011年夏に公開した「Peso」がヒットし、続くEP「Deep Purple」にて早々とメジャー契約に至る。アンダーグラウンドな世界観を、リズミカルでメロディアスなフロウで描写する。ニューヨーク、ハーレム出身。
注5 : Flatbush ZOMBiES(フラットブッシュ・ゾンビーズ)
ブルックリン、フラットブッシュ出身のL.S. Darko、ZOMBIEjuicee、Erick Ark Elliotによるユニット。フリー・ミック・テープ『D.R.U.G.S.』や、A$AP Rockyによる集団、A$AP Mobとの活動により一気に知れ渡る。ポップなサウンドに、型破りなラップとキャラクターが特徴的。
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SIMI LAB / Page1 : ANATOMY OF INSANE
純度100%、SIMI LAB。QN、Earth No Mad、DyyPRIDE等、各人のソロデビュー後さらに謎が深まり、ヒップ・ホップ・シーン内外からも注目度が高まっている変幻自在のヒップ・ホップ集団 SIMI LAB(シミラボ)のグループとしての1stアルバムが遂に完成。客演なし、参加プロデューサーなし。彼等にしか出来ない音楽を、彼等にしかできないやり方で 構築した純度100%のデビュー・アルバム。例えようの無い音楽が少なくなって来た今、この作品は何にも例え難いオリジナルな空気を放っている。
田我流 / B級映画のように2
まるでサイヤ人、2倍で復活。1stは秀作。こいつでぶっ刺す!! 全国各地の猛者達とシノギを削りながら敢行したライヴ。国際映画祭でグランプリを獲得し国内外で話題沸騰中の主演映画”サウダーヂ”での演技経験を経て、一宮町の1MCから日本を代表する表現者へと成長を遂げた田我流。太宰治、三島由紀夫、坂口安吾、カート・コバーン、ジミ・ヘンドリックス、バスキア… 人間の心理を見つめ碧空に消えた天使(ヒーロー)たち。
QN / New Country
2010年『THE SHELL』、2011年『Deadman Walking 1.9.9.0』、そして2012年に3rd Album『New Country』前作から約5ヶ月、以前に増してグルーヴを増したトラック・プロデュース、ラップ・スキル、そしてメッセージ&アイデア。これはQNが導く、新しい世界『New Country』である。2010年に『THE SHELL』で幕を明けたQNのソロ・アルバムは、新たなPHASEに入る。
PROFILE
OMSB
神奈川に突如として発生したドス黒い巨大な染み。それぞれが個性を持ちはじめ、人間となって行動を起こし始めた。見た目とは裏腹に温かい染み達によるブラックネスを、嫌と言う程浴びせかける。OMSB、MARIA、DyyPRIDE、Hi'Specを中心に、その構成メンバーは総勢十数名から成る。その形は常に変化し続け、明日でさえどうなっているのか誰にも予想出来ない。2011年11月11日に1st アルバム『Page 1 : ANATOMY OF INSANE』(SUMMIT)をリリース後、Jazzアーティストの菊地成孔率いるDCPRGのアルバム作品に客演参加したり、2011年度bounce年間チャート3位にも選出されるなどヒップ・ホップ・シーンのみならず多方面から支持を得る。ともかく今日もSIMI達が何処かでまた何か企んでる。