斎井直史のヒップホップ連載「パンチライン・オブ・ザ・マンス」 第14回──今話題を呼ぶ、6ix9ineって何者!?

春もじわじわと近付く今日この頃、ヒップホップ・ライター・斎井直史による定期連載「パンチライン・オブ・ザ・マンス」今月もお届けしますよ〜! 先月はこの連載初のインタヴューを1stアルバム『ego』をリリースしたシンガー、MALIYAに敢行。まだまだ謎の多い彼女の音楽観を紐解きました。そして今月は2月に初ミックステープをリリースしたばかりのラッパー、6ix9ineを特集。その奇抜な格好や行動で〈Soundcloud Rapper〉の1人として話題を集めまくっている彼ですが、探ると見えてくる彼の正体とは!? それでは今月もいってみましょ〜!
話題のラッパーによるデビュー・ミックステープ!!
6ix9ine / Day69: Graduation Day
【配信形態】
ALAC、FLAC、WAV(16bit/44.1kHz) / AAC
【配信価格】
単曲 200円(税込) / アルバム 1,500円(税込)
【収録曲】
1. BILLY
2. GUMMO
3. RONDO Ft. Young Thug & Torey Lanez
4. KEKE
5. 93
6. DOOWEE
7. KOODA
8. BUBA
9. MOOKY
10. GUMMO REMIX (Feat. Offset)
11. CHOCOLATÉ
12. GOTTI
第14回 今話題を呼ぶ、6ix9ineって何者!?
虹色の髪はもちろん、この貌、この声、このモブ感、たまんねぇ〜! 今回は先月下旬にEP『DAY69』を出した6ix9ine(Tekashi69)を掘り下げます! 彼はよくあるSoundcloudラッパーなのか?そして本当に最低な人間なのか? 掘り下げたら意外な事が多く、人は見た目じゃないなと…。
ご存知の方も多いかと思いますが、音楽よりも不祥事でメディアに取り上げられる事が多い彼。危ない投稿をしてはアカウントを閉鎖されること5回。代表的な事例としては、13歳を交えた乱交疑惑で今だに服役の瀬戸際にあるだけでなく、虹色の髪の毛をお披露目するきっかけをくれた友人、Trippie Redとの関係も失いました。
その後も1500万ドルでRich Gang入りのフェイク・ニュースを自身のインスタに飛ばしたり、 空港にて集団で喧嘩をおっぱじめておいて「『Day69』の良い宣伝になった」とコメントしていたりしていましたね。ダイブするもオーディエンスに避けられ床に突っ込み、その動画を「No Fake Love」と添えてインスタに自分で投稿。後に消したけどDJ Akademiksに広められるっていう一連のエピソードが自分はお気に入りです。
加えて(口を閉じると)クールな顔とは真逆の、だらしない腹と汚ない乳毛も、彼の猛者っぷりを表現する演出に一役買ってませんか。不潔で、嘘つきで、粗暴。そんな男の顔をみてください。トレードマークの虹色の前歯を見せる時、良い顔になるんだこれが。
そんなSNS映えするキャラと共に、彼の超アグレッシヴな音楽はメディアからも人気を集め、今ではXXXtentacionやLil Pumpに続く、所謂Soundcloud Rapperとして注目を集めています。しかし、自分は6ix9ineが単なる流行りだけじゃないと支持したい。それは"Ay"とか"Yah"を多用した酩酊ラップと、ハイ・ハットの連打がお約束のようにセットになってる曲が溢れる昨今、彼は独自の音楽を持ってますよ! そしてその背景には、上のような表面からは見えてこない、違う6ix9ineの顔がありました。
NY,ブルックリン出身でメキシコ人の母とプエルトリコ人の父を持つ、6ix9ineことダニエル・ヘルナンデス。アーティスト名に付くTekashiという別名は、「ドラッグの影響を強く受けている日本人アーティストの名前から取った」とのことです(…村上隆?)。また69は、性的な意味ではないそう。ダニエルは幼い頃から素行が悪く、中学2年で退学。そして同時期に父親を事件で亡くしています。昔から悪かったのは語らずとも見ればわかる事ですが、Mass Appealのインタヴューでは自身の事をこう語っています。
「いじめられている子、親がいない子、居場所がなく社会の外れ者のような気持ちでいる彼らの代弁者になりたいと思っている。だから俺らSCUM GangはSociety Can't Understand Me(世間は俺の事を理解できない)の頭文字を並べてるんだ」「自分も小さいころ、ジョーダンとか持ってなかった。欲しかったけど、そんなカネ持ってなかった。今は買えるけど、買わない」「BapeやSupremeを買えないグループの希望になりたい。(中略)俺が貧乏であることすらクールにしてやるんだ」。そう言って笑顔を見せるシーンなんて最高ですね。
音楽や見た目とは真逆の性格なのと思いきや「小さいころ、よく両親に映画館に連れて行ってもらった。それでヴィランにすっごく憧れたんだ。映画の中の悪役に強い影響を受けていて、それはビデオにも反映されてる」と話す6ix9ine。確かに彼のビデオは破壊的なだけでなく、アニメやゲームにおける悪役のシーンを多く挟み込みます。
そして父親に関する話題になると、6ix9ineの世界観の根底に流れる怒りの感情と、その理由が見えてきます。
「若い頃に父親を亡くしてるんだけど、オトンは無敵のスーパー・ヒーローって感じだった。抱きかかえられると、俺は丸裸にされたかのようにすら感じたし、それがイライラした。オトンはいい人で、いつも自分を犠牲にして、皆の事を助けていたよ。だからスーパー・ヒーローってのは悩んでばかりだ。ヴィランにそんな奴はいない。スーパー・ヒーローなんてファックだと思ってる。俺は人の事なんて助けてられない。誰かのパズルのピースを欠けてたとする。だけど、俺の方がもっとピースが足らなかったりしたら、なんで他人の欠けたピースを俺がやらなきゃなんだ。世界は不平等で腐ってるゲームなんだ。」
虐げられる側だったダニエルは、それはヴィランのように破壊的なまでのエネルギーを見せつける事で、持たざる者にとっての希望になりたいという気持ちがあるのでしょうか。
…ま、いいや。今月はこの血が沸き立つような気持ちにさせてくれる「Billy」を紹介します!
These niggas say they heard of me, I ain't heard of you
Get the fuck up out my fuckin' face, 'fore I murder you
Bitch niggas always jackin' blood, but I know they flue
Whole squad full of fuckin' killers, I'm a killer too
あいつらは俺の事を知ってるとか言ってくる
俺はおめぇの事なんて知らねえけどな
殺されねぇうち、さっさと消えろ
ビッチ野郎に限って俺の事をブラッズなのかと疑ってくるが
あいつらFlue(※)だろ
俺らは殺し屋の集まりで、俺もその一人なんだぜ
Sending shots, shots, shots, shots, shots,
Everybody gettin' pop, pop, popped,
The thing go rrrah, rrrah, rrrah, rrrah, rrrah,
We send shots, shots, shots, shots, shots,
(※)FlueとはBloodsと敵対するCripsの事でCripsの青(Blue)に由来。
Cripsの赤い集団に囲まれている6ix9ineはNine Tray BloodというBlood派である地元を愛しているだけで、
BloodsでもCripsでも無いと本人が答えてます。
GWには来日も予定されているので、このフックを大歓声の中歌いたい!
シャッシャッシャッシャッシャ!
レーベル TenThousand Projects, LLC / Caroline / Hostess 発売日 2018/04/18
01. 02. 03. 04. 05. 06. 07. 08. 09. 10. 11. 12.
※ 曲番をクリックすると試聴できます。
追悼──Febb
書こうか悩みましたが、最後に先月他界してしまったFebb君について少し書かせてください。
インタヴューを行うこと3回。レヴューやメール・インタヴューを含めると6回Febb君にお世話になりました。着信にも折り返してくれてしっかりと留守録にメッセージを残してくれたり、少しの質問にも長文で熱量を含んで返してくれたりと、自分には好青年という印象が強かったです。
それは近い存在の人たちが言うような一面を見れなかっただけ、俺はFebb君から遠い存在であったという事でもあると分かっています。だけどいつか友達みたいに話せる時もあるかもと、どこかで期待していました。中でも本当に影響を受けたのは、手前味噌ですが『The Season』のインタヴュー。色々な人に言ってるけど、自分でやったインタヴューの中で一番記憶に強く染みついてます。
音楽については饒舌になるのに、自身の音楽観についての質問には黙りこみ、表情を変えながら言葉を絞り出すFebb君の様子。行動と結果で自分の考えを表したいと言わんばかりの覚悟が、あの沈黙を生んでいたのだと思えてきて、文字を起こしながら俺は自分の事が恥ずかしく思えてきました。インタヴューの文中では表現を変えましたが、「どれだけ濃い1滴を落とすかが大事」と言った自身のヒップホップ観。そのストイックさに彼を少し心配すらした事を覚えています。心配しながらも、変化のスピードが残酷なほど速いこの世界で、どんなクラシックを残してくれるのかを、当然のように期待してしまっていた事も事実です。
今だから言えるけど、昨年の総括編での〆はFebb君の事を思って書いてました。『L.O.C』はめちゃめちゃ良かった。Febb君が亡くなってしまって『The Season』の功績を称える声ばかり聴いたけど、一番好きなのは『L.O.C』。『The Season』よりもアグレッシブなだけでなく、ポジティヴなアルバムだとすら思っています。ほんの少しだけど、関われた事が誇りです。お世話になりました。
今度秩父に帰る時、「すぱいす」に寄ってみるね。

過去のインタヴュー記事
>>『Fla$hBackS』リリース・インタヴュー
>>『The Season』リリース・インタヴュー
>>『So Sophisticated』リリース・インタヴュー
Febb DISCOGRAPHY
「パンチライン・オブ・ザ・マンス」バック・ナンバー
第13回 未知なる魅力を持つシンガー・MALIYA
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第11回 斎井直史的2017年度総括
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第10回 KOJOE 『here』
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