ヒップホップ・ライター斎井直史による定期連載──「パンチライン・オブ・ザ・マンス」 第4回

桜咲く4月もあっという間過ぎ去り、早くも5月。夏に向かってじわじわと気温も上がってきている今日この頃ですが、今月もHIP HOPライター・斎井直史による定期連載「パンチ・ライン of The Month」いきますよ〜! 先月は『So Sophisticated』をリリースしたFla$hBackS、DOGGIESのFebbを迎えての本人解説によるパンチ・ライン特集ですが、今月は名古屋を中心に活躍するラッパー、SOCKSがリリースしたアルバム『JAPANESE THAN PARADISE』より「KUTABARE feat.般若」をピックアップ! 残念ながら今作はOTOTOYでの扱いは無いのですが、ページの下の方に名古屋産・ヒップホップをいくつかチョイスしたのでコラムと共にそちらも是非。では今月もいきましょ〜!!
第4回 SOCKS 「KUTABARE feat.般若」
平日は忙しくてもニュースを観るのに、連休中は時間があってもニュースはそんな観ない。これって自分だけですかね。とはいえGW中にニュースを観なくとも、隣国のミサイル発射騒動に関しては大なり小なり皆が不安を抱いていることかと思います。
さて、今月紹介するのは3月22日に2ndアルバム『JAPANESE THAN PARADISE』をリリースした名古屋を代表するラッパー、SOCKSの曲からです。とはいえ、先月ピックアップしたFebb『So Sophisticated』よりも前なのに、今月は何故この話をするのか。実は既にビデオをリリースしているリード曲「KUTABARE feat.般若」についてver.嗜として4月末に再度ビデオを録り直したものを公開しているからです。先に、浅草寺ver.として公開した方のビデオだって十分のクオリティなのに。
上がその「KUTABARE feat.般若」なのですが聞き流してしまうと「死ぬほど頑張っても本当に死ぬなよ」、という程度に思ってしまう。ここからはちょっと自分の勘ぐりの域も入るのですが、気になる点は次のラインです。
タメ年の最高指導者胸中察する お疲れ 担がれ けなされてもこだわれ 刈り上げ
これって、金正恩の事を言ってるようにしか思えませんか? 金正恩が33歳、SOCKSはインタビューによると17歳の頃にM.O.S.A.D.(※1)を見ていたというので、タメ年の可能性は高い。というか、"タメ年"を検証せずとも”最高責任者”と”刈り上げ”をくっつければ金正恩しか思い浮かばないのですけどね。
そうに考えて聴くと、最初は特に意味がないと思った部分が急に活きてくるんですね。金正恩の事を話していると思えてくるところばかり。特に続くオリンピックの下りや、フックの般若のギラギラした「くたばれ! 」すらも北の指導者へ向けてるようにすら聴こえてくる。どこまでこの想像が当たっているのかは答え合わせができないのですが、SOCKSはインタビューにて「曲にはサード・ミーニングくらいまで考えてリリックを書く」と答えているので、あながち間違いではなさそう。
にしても、何故このタイミングでわざわざビデオを撮影し直し、字幕を付けたのか。その意図に色々考えを巡らせるとも面白いものっす。
※1 : TOKONA-Xが所属していたグループ。2000年に結成し、2002年に『THE GREAT SENSATION』をリリース。

今昔、名古屋のヒップホップが分かる諸作品はこちら!!
ILLMARIACHI /
THA MASTA BLUSTA:20th ANNIVERSARY EDITION
名古屋のヒップホップを語る上でこのアルバムを抜きにすることは出来ないでしょう。コラムにも登場しましたM.O.S.A.D.のMCでもあるTOKONA-Xと、トラックメイカー刃頭による伝説的なユニット、ILLMARIACHI!! 1997年に発表したデビュー・アルバムの発売20周年記念して当時お蔵入りとなっていたオリジナルのリリックを使用し、さらに全曲新たにミックス&マスタリング!!
tha BOSS(ILL-BOSSTINO)やDJ RYOWらとのコラボで、その名を広めたNEO TOKAI / TOKAI DOPENESSを代表するラッパー、YUKSTA-ILLによるセカンド・アルバム。ゲストには今回のコラムに出てきたSOCKS、そしてCampanellaが参加し、Olive OilやMASS-HOLE、そして現在各地で引っ張りだことなっているPUNPEEなどがトラックを提供している。現在の名古屋のヒップホップ・シーンを語る上で外せない人物の重要な1枚。
こちらも現在の名古屋のヒップホップを語る上で外せない人物、Campanellaによる2016年作。トラックを手掛けるのは名古屋の最重要ビートメイカーであるRamzaとFree Babyronia。ゲストは同郷のC.O.S.A.とNERO IMAIのみとまさに純名古屋産で作られている今作。RamzaとFree Babyroniaのオルタナティヴなトラックの上で、タイトにスピットするCampanellaのラップ。カッコいいってのはこういうことだと教えてくれる1枚だと思います。
こちらは愛知県知立市出身のラッパー/トラックメイカーのC.O.S.A.とFla$hBackSのメンバー、そしてシングル『Salve』が絶賛を受けているKID FRESINOが、イベントでの共演をきっかけに制作されたコラボ盤。2015年にC.O.S.A.がリリースした1stアルバム『Chiryu-Yonkers』(現在入手困難)でのハードなリリックとはまた一味違うC.O.S.A.の顔を知ることが出来る1枚。JJJのトラックによる「LOVE」は必聴で。
「パンチ・ライン of The Month」バック・ナンバー
第1回 SuchmosとMigos
https://ototoy.jp/feature/2017021001/
第2回 JJJ『HIKARI』
https://ototoy.jp/feature/2017031001/
第3回 Febb's 7 Remarkable Punchlines
https://ototoy.jp/feature/2017041001/
斎井直史による連載「INTERSECTION」バック・ナンバー
Vol.6 哀愁あるラップ、東京下町・北千住のムードメーカーpiz?
https://ototoy.jp/feature/2015090208
Vol.5 千葉県柏市出身の2MCのHIPHOPデュオ、GAMEBOYS
https://ototoy.jp/feature/2015073000
Vol.4 LA在住のフューチャー・ソウルなトラックメイカー、starRo
https://ototoy.jp/feature/20150628
Vol.3 東京の湿っぽい地下室がよく似合う突然変異、ZOMG
https://ototoy.jp/feature/2015022605
Vol.2 ロサンゼルスの新鋭レーベル、Soulection
https://ototoy.jp/feature/2014121306
Vol.1 ガチンコ連載「Intersection」始動!! 第1弾特集アーティストは、MUTA
https://ototoy.jp/feature/20140413