My Vitriol 『Finelines』
「ヘヴィゲイズ」なるジャンルが提唱される遥か前、2001年リリースの早すぎた名盤。中域に偏ったミックスや過剰なコンプレッションによるクリッピングこそ時代を感じさせるものの、先駆者であるが故に型にはまることなく現行のヘヴィゲイズ・バンドたちよりずっと複雑で洗練された楽曲と演奏が展開されます。メジャー7th混じりのコードと揺らめくアルペジオ、グランジーな轟音にソム・ワードナーの艶やかな歌声が相まって、焦燥感と甘酸っぱさを両立させる手腕が見事です。ラストを飾る “Under the Wheels” の耽美さはのちのWhirrなどの登場を予見させます。
Amusement Parks on Fire 『Out of the Angeles』
ほんとうは2004年のデビュー作を上げたいところですが、ストリーミングにないのでこちらの2ndを。デビュー時はわずか17歳、Sigur Rósに傾倒しながらもシューゲイズは知らなかったという神童マイケル・フィーリック。エモ由来の青くアツいメロディとダイナミクスに轟音ギターの壁とポスト・ロックのスケール感を融合し、自力でシューゲイズ・サウンドに到達した彼は、そのサウンドを本作でさらに押し進めます。やや一本調子ではあるものの否応なしに鼓舞される力強いビート、広がりと厚みを両立したノイジーなギターが最高です。今年リリースと言われても違和感がまったくないほど、時を超えて現行のシューゲイズ・シーンと共鳴しています。
Turnover 『Peripheral Vision』
てらいもなく直球のエモ・ポップを演奏していた初期から一転し、Captured Tracks系ドリーム・ポップの影響を大胆に取り入れた荒涼としつつエモーティヴなサウンドで話題を集めた本作。バンド自身にとってその後さまざまな音楽性を自由に追求しはじめるターニング・ポイントとなると同時に、シーンにも多大な影響を及ぼし多くのフォロワーを産みました。秋の匂いを漂わせる憂いを強く帯びた音像が耳を引きますが、シンガロングしたくなるようなフックも健在で、エモとドリーム・ポップの理想的なマリアージュが実現しています。Title Fight『Hyperview』と同じ2015年にリリースされたのも大きなポイントで、この2作はエモやハードコアからシューゲイズへのクロスオーバーの象徴と言えるでしょう。