Nothing 『The Great Dismal』
2度の来日を含め世界各地をツアーしており、名実ともにアメリカを代表するハードコア経由のヘヴィゲイズ・バンドである彼らの最高にヘヴィなアルバム。なんといっても浮遊感のある轟音と叩きつけるようなあまりに硬質なビートの両立を極めた完璧すぎる4分間 “Famine Asylum” のインパクトに尽きます。また、エンジニア兼プロデューサーを務めたWill Yipはポップ・パンクやエモに出自を持ちながら先述のTurnoverやTitle Fight、Soul Blindに加え、Gleemerなども手がけており、アメリカン・シューゲイズのキーパーソンとなっていると言えるでしょう。
Heavenward 『Pyrophonics』
Teenage Wristで既にエモやグランジとシューゲイズの融合を試みていたKamtin Mohager (シンセポップ・バンドThe Chain Gang of 1974での活動でも有名) が同バンドを脱退後に始動した新プロジェクト、Heavenward。深い内省や苦しみを高揚感ある楽曲に昇華するという90sオルタナティブ・ロックの精神性を継承し、コンパクトな尺感でありながら力強い楽曲に落とし込んでいます。Catherine WheelやMy Vitriolなど本稿に登場するバンドたちを思わせつつも、なぜか決定的にアメリカンな空気感なのが不思議。存在感抜群なKamtinのボーカルも現行のシーンでは出色です。
quannnic 『kenopsia』
文字通りの意味で本稿でもっともオルタナティブな存在。Parannoulがエモとシューゲイズのクロスオーバーに宅録ならではの生々しいプロダクションを持ち込んでベッドルーム・シューゲイズの寵児として確立したフォーマットに、さらにハイパーポップ的な電子音の情報過多なエキセントリックさをプラスし、気だるく陰鬱でありながら心地よい独自の世界を確立しています。多幸感のある美しいシンセ・サウンドとグランジーな轟音ギターを行き来する “what does this room look like” は本作を象徴する一曲と言えるでしょう。現在はバンド編成でのライブや制作を行っており、11月にリリースされた新譜も非常にかっこよかったのですが、異物感や衝撃はこちらがやや上か。
Full Body 2 『infinity signature』
quannnicとベクトルは違えど、こちらもエレクトロニクスを積極的に導入し異形のヘヴィゲイズを鳴らすバンド。2010年代からFull Bodyとしてストレートにグランジやエモ、シューゲイズをないまぜにしたストレートなインディ・ロックを奏でていましたが、2020年に謎のバージョン・アップ。重たいシューゲイズ・サウンドにゲーム音楽やドラムンベースの要素を加え、ヴェイパーウェイブ以降の空虚さを感じるレトロフューチャーなヴィジュアルと融合。かつてチップチューンとシューゲイズの融合を試みたThe Depreciation Guildの面影も見出せますが、このニヒルな空気感が決定的な違いになっており、ポスト・コロナ的でもあります。
管梓 a.k.a. 夏bot
エイプリルブルーのソングライター / ギタリストとして東京のインディ・シーンで活躍するほか、シューゲイズ・アイドルRAYなどへの楽曲提供活動も行う。元For Tracy Hydeのソングライター / ギター。