Tristan Arp 『The Self Elastic』
LABEL : SLINK
そのrrao所属〈Slink〉の最新作はメキシコ拠点のTristan Arp。〈3024〉からリリースしたEPは清涼感たっぷりのダウンテンポで最高だった((こちらでレヴューしています)が、今作も声が出でしまうほどの素晴らしさ。彼が作るダンス・トラックはどこか「弾力性」があり、他アーティストとは一線を画す独自のサウンドを構築している印象。金管楽器の音色が不思議と合うBPM150ブレイクスのA2や、オーガニックな爽やかさを感じる耳が楽しいブロークンテクノのB1など、踊るもよし、リスニング用途でもよしという奇跡的なバランスのEPに。たぶん彼は相当耳がよくて、トラックの中でしれっと実験的なことをやってのけている。それでいてムードに統一感があって、どれも高水準な上に聴き心地がいいのだから非の打ち所がありません。
Nídia 『95 MINDJERES』
LABEL : Príncipe
中核アーティストDJ Nigga-Foxの来日公演も記憶に新しい、リスボン発レーベル〈Príncipe〉のニュー・リリース。カーボベルデとギニアビサウをルーツにもつNídiaは、1960~70年代に勃発したギニアビサウ独立戦争において独立のために奮闘した女性たち、通称「95人の女性」への頌歌としてこのアルバムを制作したという。楽曲を彩るパーカッションは、どこにも回収されない独自のグルーヴを形成。特に“95”や“cp”なんかはその変則的かつ粘着質なパーカッションがクセになる。エレガントなシンセが目立つ“É COMO?”や“Sukuku”といった楽曲が花を添えつつ、内省的なメロディが光る“Paradise”は壮大にラストを飾る。同時期にリリースされたXEXA の『Vibrações de Prata』はレーベルでは珍しい、オーガニックな現代音楽なのでこちらも必聴。
Thomass Jackson 『UFO House Vol I』
LABEL : Multi Culti
辺境音楽をリリースし続けるモントリオール発レーベル〈Multi Culti〉。地域だけでなく、ジャンルという枠組みにおける「辺境」も指向しているのかもしれないが、その膨大なディスコグラフィーの中には、Al Woottonのプロジェクト、Holy Tongueの一員でもあるZongamin(Susumu Mukai)のアルバムや、世界中を旅しそのインスピレーションを作品に落とし込むRed Axesのトラックまでも見られる。アルゼンチンプロデューサー、Thomass Jacksonの最新作もそういう意味では「辺境」。タイトルの通り宇宙空間に連れていかれるようなアシッド・テック・ハウス“Young Woman in Kashmir” や、シンセの刻みが気持ちいいダブ・ブリープ・ハウス(?)な“Aphex Twinkie”など、低空飛行でじんわりとノれる4トラックで、どれも即戦力間違いなし。