ケーキといちごの関係をずっと気にして生きてきた
──同じくもかさんアレンジの“Sugar Science先生“はファニーな曲ですね。
さとう : “Love Buds”を作ってたころに急に思いついて作りはじめた曲です。「毎日おもんねーなー」みたいな感じだったんですけど、ちょっと自分が笑けるというか、元気になれる曲を自分のために作ってみようって。ディズニー・チャンネルでやってた『ハンナとマイリー~ふたつの世界』の世界観を出したいなと。
──アメリカのハイスクールものドラマのイメージか。それでラップ・パートがチアリング風になっているんですね。
さとう : そうです。配信ライヴのタイトルを『Sugar Science Station』にしたり、Sugar Scienceという言葉はよく使ってますね。最後、ちょっと実験失敗みたいな感じで終わるのも、Scienceだからなんです。
──なるほど。さっき“Destruction”がシングルのお気に入りだったと言いましたが、実はアルバムを聴いたら順位が変わって、ESME MORIさんがアレンジしたもう1曲“いちごちゃん“が1位になりました。
さとう : おっ(拍手)。
──大人の別れの歌が多いなかで聴くと、苦みを知った後で味わう甘みがいっそう心に染みるといいますか。
さとう : うれしいです。わたしも実は“いちごちゃん“はアルバムのなかでも推し曲なんです。めっちゃ考えて書いたんじゃなくツルツルっと出てきた曲で、そのときの本当の思いというか、自分の根底にあるものが書けたなって。あとはなんだろ、ケーキといちごの関係をずっと気にして生きてきたから、そのふたりの……ふたりっていうか(笑)、ケーキといちごのことが書けてよかったっていうのもあります。
──「何もいらないけど 何かが欲しくて 何が欲しいかはわからない」という一節が、青春時代の心理を見事に描き切った感じで、とりわけ大好きです。
さとう : ありがとうございます。これは本当に思ってたことですし、いまも時々思います。物欲はあんまりないほうで、なにがほしいとかはないんですけど、なにか欲しい気がする、でもなんなのか分からん、みたいな。それをそのまま書きました。
──『Love Buds』のリリース時に予告されていましたが、いよいよ“melt bitter (Album ver.)“がアルバムに入りましたね。
さとう : いつかは入れたいなと思ってて、やっと入れられました。シングルを出すと次のアルバムに入れるのが常識っていうのをわたしあんまりわかってなくて、『GLINTS』を提案したときに“melt bitter”が入ってなかったから「え、入ってない」みたいに言われることも多かったんですけど、コンセプト強めのアルバムだったから入れても似合わない感じがあったんです。でも今回のアルバムにはめちゃくちゃ合ってると思ったし、逆にここで入れないと一生入れる機会がなさそうみたいな気もして(笑)。
──「愛してる 愛してる」のところで♪あいしてるあい、してる、とブレスの位置がちょっと変わっているのがライヴっぽいなと。
さとう : あー。ライヴで歌ってるうちに、ここでブレスをするのが癖になったんです。歌を細切れに録るのがあんまり好きじゃなくて、ツルっと録りたい派だから、「そのままやっちゃえ!」みたいな。「また なんてもう無いんだよ」の♪無いんだよぉぉ~、のところもライヴ・ヴァージョンに寄せてますね。ライヴ感を出せたらなと思って。
──異性愛前提、かつ女性全般というよりもかさん個人の話かもしれませんが、ふたりの関係を俯瞰的に見ている印象を受けました。
さとう : 言われてみると自分自身がそういうタイプかもしれない。パッと言わないっていうか、自分の中でけっこう考えて、「もうこれはダメかな」ってなってから行動に移すみたいなことが多い気がします。

──“運命の糸“はイントロがオルタナティヴ・ロック風で、1番はフォーク、2番はまたロックっぽくなるドラマチックなアレンジが印象的です。
さとう: これは友達の話を聞いて作った曲なんですけど、音で感情を揺さぶりたいと思って。最初に恋が盛り上がって、終わる直前にバーッてきて、終わった感じで「今 終わりました」と始まるところがお気に入りですね。
──いよいよ最終コーナーです。“歌をとめない“は歌詞も、もかさんのジャズ・ソング調アレンジも含めて、アルバムの最重要曲というか、キーになっている印象を受けました。
さとう : わたしもこの1曲が自分の原点なのかなってちょっと思ってます。いつも聴いてくれてる人たちに向けて書いた曲なんですけど、この1年でいろんなことが起きて、世界もそうだけど自分の人生も、全部変わった感じがあるんです。いままでかれこれ8年近く活動してきたなかで、聴いてくれる人がどんどん入れ替わっていってる感覚があって、さみしくもあるんですけど、考えてみたらみんな音楽を聴くことで人生の一瞬をわたしとともに過ごしてくれてるんだな、みたいなことも思って。ずっとライヴに来てくれてた人と突然会えなくなったりとか、めっちゃ仲よかった学生時代の友達と卒業したらパッタリ遊ばなくなったりとかってあるなと思うんですけど、10年後でも20年後でも、またいつか曲を聴いてちょっと思い出してくれたらいいな、と思って書きました。
──わたしがどうして歌をうたっているか、という理由をそっと教えてくれているような感触がありました。
さとう : またいつか会いたいけど、続けないと会えないかもしれないから、続けようって思いました。
──東京バンドのベーシストでもある森川祐樹さんがアレンジしているラストの“アイロニー“はネオアコっぽい軽快な曲ですね。シリアスな曲が多かったアルバムを明るく締めくくっている感じ。
さとう : 最後に作った曲なんです。最初にお話ししたみたいに、モヤモヤした気持ちを曲にしたり、まわりの人に悩みを話せるようになったり、新しく知り合った人たちとどんどん仲よくなっていったりするなかで、なんとなく自分がなにがしたかったのかがわかったっていうか、本当にいままで大切にしていたものを思い出せたみたいな感覚があって。
──曲名は“アイロニー“だけど、「アイロニー もうそんなのに振り回されない」というオチになっていますしね。
さとう : 最初1番ぐらいまで書いたときはまだモヤモヤしてて、「どうなっていくんだろう」って気持ちでしたけど、書いていくほどだんだん気持ちが開けて、最後に「アイロニーじゃダメだ!」って思ったんです(笑)。
──『GLINTS』と色合いは違うけど、負けず劣らず素晴らしいし、新たな第一歩にふさわしいアルバムなんじゃないでしょうか。
さとう : 『GLINTS』を出したとき、正直「やりきった」って思ったんですね。作る過程がすごく楽しかったし、ちょっと燃え尽きた感じもあって。それから1年、いろんなことがあって、「またあんな時間が過ごせるのかな」と思ってネガティヴになったり、スランプにもなったけど、作り終えられたことで少しホッとしたところもあるし、東京に来てからのいろんな経験をさせてもらったり、みんなのことも知れていって、スイッチが新たに入った感じの作品になったと思います。
──前作から1年でこれを作れたのはすごいですよ。
さとう : 1年に1枚、思い出的に残していけたら、っていうのが昔からの目標なので、毎回、全部吐き出すつもりで全力でやっていかなきゃなって思います。
