いままで出会って一緒にいろんなことをしてきた人たちが背中を押してくれた
──“Woolly”はさとうもかバンド from 東京の演奏ですが、ワウの効いたファンク・ギターやベース・ラインがすごく印象的で、ライヴ感のあるアレンジになっていますね。
さとう : かっこいいですよね。東京バンドではじめて作った曲なんです。わたしの弾き語りのデモを聴いてもらって、みんなで相談しながら作っていきました。
──MVがとても印象的でした。「背中合わせの迷える羊たち」ふたりの視線が終始合わなくて、「解ける魔法と目が合うたび 心が固くなっていく」のくだりで「なるほど、目が合っていたのはそこだったのか!」と思って。
さとう : うわ。鳥肌たった、いま(笑)。MVやばいですよね。わたし、(中島)ミドリさんに「こういうストーリーにしてください」とかまでは細かく言ってなくて、曲を聴いてくれて浮かんだストーリーなんですよ。本当に震えました。
──「君と同じ考えのふりしていたの」とか「“私くらいしか君の事分かれない” それが幸せと思ってた」とか、恋愛中にふとよぎる寂しさや悲しみのリアルな描写は、もかさんの得意とするところですよね。
さとう : そうかもしれないですね。過去の経験もあるし、結婚する友達が増えてくる年齢なので悩みを聞くこともあるし、わたしも未来が見えないなって思うこともあるし。「わたししかこの人のことわかってあげられないよな」とかも思いがちですけど、ずっと一緒にいたら誰だってそうなるんじゃないのかな、とか。自分のエゴじゃないけど、そう思いたいだけみたいな感じなんだろうな、とか思ってて。
──確かにクールですね。「誓わないキス」「締め切りのない愛」というフレーズも印象的です。
さとう : 昔みたいに「絶対就職しなさい」とか「絶対結婚しなさい」とか言われる時代じゃなくなって、どんどん自由になってるけど、だからこそ近い未来が読めないし、楽しいけどずっと不安がつきまとってる感じもあって。自分もそうだし、そういう人が多いんじゃないかなと思って書いた曲です。
──“Cupid’s arrow”はESME MORIさんのアレンジですけど、途中に入るトラップっぽいラップ・パートがおもしろいですね。
さとう : これも元は弾き語りなんです。わたしのなかではK-POPのイメージで、TWICE的なしゃくり上げる感じのメロディがかわいいなと思って、Bメロあたりでわからないようにやったんですけど(笑)、「K-POPの雰囲気があるけどイケイケすぎない感じがいい」みたいな感じのことをESMEさんに伝えて作ってもらいました。
──イメージは中学生ぐらいなのかな? “いちごちゃん“もそうですけど、これくらいの年齢の女の子の気分を書くのがすごく上手ですね。ラヴ・レターを書こうと思って「文章力が試されるわ でもね私は国語が得意!」とか、とってもかわいい。
さとう : ありがとうございます。もしかしたらけっこう自分が幼いのかもしれない(笑)。この曲を書いたのは本当にスランプみたいな時期で、メロディはできるんですけど、歌詞が自然に書けなかったんですよ。いま、思うと「自分はなにを言いたいんだろう」とか、ちょっと考えすぎてたのかなって。そんなときに、K-POPみたいな雰囲気にするにはあんまりシリアスなのは絶対に合わないな……とかいろいろ考えてて、突然喫茶店で思いついたのがこれです。自分の中学校のときを思い出しながら書きました。

──バラード“ながれぼし“はアルバムの色合いを代表する曲のひとつだと思いました。恋の終わりっぽいというか。
さとう : これはメロディだけ先に思いついてて、歌詞は実はラヴ・ソングという気持ちで書いたわけじゃないんですけど……。
──さっきうかがったお話ですね。
さとう : そう。いろんなお別れの曲かなって思ってます。ずっと一緒にここにいるって思ってたけど、自分も人も変わるし、変わらないこともできるけど難しいし。自分がいまここにいるのは、いままで出会って一緒にいろんなことをしてきた人たちが背中を押してくれたというか、ちゃんと手を離してくれたおかげなんだな、それが優しさなんだな、ってすごく思って作った曲です。
──森善太郎さんがアレンジした“Love Buds”もそういう作り方をした曲だとおっしゃっていた記憶があるし、アルバム全体に「別れ」のイメージが強いのも納得がいきます。
さとう : “Love Buds”を作ったときは悩みすぎてて、作り終えてからは聴かなくなっちゃったり、ライヴでも積極的にはやらなかったんですけど、今回のツアー(〈さとうもか “WOOLLY” TOUR 2021〉)の練習がはじまって、はじめてバンドで演奏したら、なんかめちゃくちゃ楽しかったんです。歌うのがすごく楽しい曲だなって思いました。気持ちがだんだん元気になってきて、「あぁ、こんな気持ちもあったな」ってちゃんと消化できたのもあるかなと思います。
──“いとこだったら feat. Mom”はMomさんと共演だけじゃなく共作していますね。この記事にメール対談も載ると聞きました。
さとう : Momくんとは一緒にライヴをやったり、リリース・パーティに呼んでもらったりしましたけど、最初のアルバムから出るたびに全部聴いてて、めっちゃ好きなんです。今回はメジャーからのファースト・アルバムでもあるんで、好きなアーティストを呼べたらいいなって思って。ただ、最初はそこまで明確には考えてなかったんですけど、曲を書きはじめて、なんとなく「これはふたりで歌うのがいいな」ってなったときに、Momくんにお願いしたいなって思ったんです。
──アレンジもしてもらっていますよね。
さとう : 初はわたしが自分でトラックも作るつもりだったんですけど、作ってる途中に「ビートがわからん!」みたいになってMomくんに助けを求めたんです。「じゃあビート作りますよ」って言って、めっちゃかっこいいギターとかもたくさん入れてくれて、全体的にブラッシュ・アップしてもらって、最終的にMomくんが作ってくれました。歌詞も最初に話を持ちかけたときは1番までしか考えてなくって、2番のAメロを書いてもらえたらなっていう感じでお願いして、Momくんが書いてくれた歌詞をもらって、それを受けてまたわたしが続きを書いて、っていう交換日記的な作り方をしました。めっちゃ楽しかったです。
──仲のいい異性に友情では収まらない気持ちを抱き、でも関係が壊れるのが怖くて言えなくて「もし君がいとことかだったなら ずっと繋がっていられるかな」という歌詞も、多くの人の共感を呼びそうです。
さとう : 歌詞とは違って同性なんですけど、いとこになりたいと思うぐらい、すごく仲のいい人がいて、本当にファミリーみたいな関係なんですよ。そこから思いつきました。
──もかさんのアレンジも凶悪な怒り曲“Destruction”は『Love Buds』のシングルでいちばんのお気に入りで、なかでも「こわいよ Mean guy だから嫌なの 伝えても伝わらない」は最高のフレーズだと思います。絶対に言われたくない言葉というか(笑)。
さとう : ツアー・グッズでMean guyの缶バッジができたんですよ。“Cupid’s arrow”のMVとかアルバムのジャケを作ってくれた吉岡美樹さんが缶バッジのアイデアをいくつかくれて、「この男の子かわいいな」と思って「これお願いします」って言ったら「実はこれはMean guyなんです」って(笑)。全員大拍手でした。
