正解、不正解じゃなくて、やりたいかやりたくないか
──“NO MORE BLOOD”と“NO HYPER”は、いずれもイスラエルによるパレスチナの植民地支配、民族浄化、大量虐殺に抗議するとともに、パレスチナの人たちに連帯するプロテスト・ソングですね。
“NO MORE BLOOD”は、もともと去年の8月に〈BLOODSUCKER RECORDS〉からリリースされた、パレスチナ解放を求めるアートブック&オムニバスCD(『TURN WEAPONS INTO WATERMELONS』)に提供した弾き語りバージョンをバンド・アレンジにしたもので。曲を作ってたときに珍しくサビのコード進行をこねくり回したんですけど、ブルースとかによくあるコード進行にしてみたら、いままでのDEATHROにはない感じになったかなと。自己評価ですけど。
──確かに、こういうサッドな感じは新鮮かも。
“NO MORE BLOOD”はもちろんパレスチナの問題にフォーカスしてるんですけど、ここで言ってる〈アパルトヘイトの壁〉は、ガザだけにあるんじゃなくて。いま自分たちが暮らしてる社会にも、壁で隔てられてる人たちがいる。自分の身近なところだと、障がいを持つ人たちがそう。2016年にウチの近所の、相模原の津久井やまゆり園で起きた殺傷事件もそういう壁が、言ってしまえば差別意識が根底にあったわけじゃないですか。植松聖被告の「障がい者は不幸しか作らない」「意思疎通ができない障がい者に生きる価値はない」という供述からもそれが見て取れますよね。そいうものには断固として抗いたいし、そもそも「不幸しか作らない」とか「生きる価値がない」とか他人が判断することじゃないし、そんなことは絶対にない。
──そういうふうに自分の生活、身の周りのことと重ねて受け止める感覚って、大事だと思います。
植民地主義と根を同じくするイデオロギーみたいなものは自分たちの周りにも溢れてるし、障がい以外にも、性別とか性的指向とか国籍とかいろんな属性で隔てられてる人がいる。逆に、自分自身も誰かに対して壁を作ってしまっている側面もあると思うんで、あんまり偉そうなことは言えないんですけど、そういうことには意識的、自覚的でありたいなと。

── 一方の“NO HYPER”は、2022年から歌っていますよね。
たぶん前作『愛 FOR YOU』のレコ発ぐらいからやってると思いますね。“NO MORE BLOOD”もそうなんですけど、自分がそのとき感じたことを歌詞にしてるだけなんで、特別なことを歌ってるつもりはないんですよ。COSMIC NEUROSEをやってたバンド時代も“CRIME OF NUKES”って曲を作ってましたし、そういうことを歌うのが当たり前って感覚はあります。それはたぶん、さっき言ったようにパンクを聴いてきたという下地があるから。
──僕もパンクやハードコアを聴いたり、UNARMのようなバンドのライヴを観たりしていなかったらプロテストとかには参加しなかったかもしれないです。パレスチナ連帯に関していえば、鏡やUMBROに触発された部分もありますし。
そこなんですよね。なにか行動を伴うようになればもっといいんですけど。
──例えばTHE BREATHも、曲だけじゃなくMCでもレイシズムやセクシズムの問題について発信してくれるじゃないですか。しかも飾らない感じで。そこで「あ、そうだよな」みたいに気付くだけでもだいぶ違うのでは。
そうですね。プロテストとかは強要するものじゃないし、プロテストに行くのを戸惑ってしまう人がいたとしら、なんでその人は戸惑ってしまうのかを考えることも大事かもしれない。とはいえ、そう余裕のある話でもないというか、いまここで話してるあいだも人が殺されてるわけで。
──「停戦」といってもイスラエルは約束を守らないし、占領は終わっていなくて。ヨルダン川西岸地区、とりわけ北部のジェニンやトゥルカレムへの軍事侵攻はかつてないほど激化しているといいます。
ガザと西岸地区に対する暴力は異常なことなんですけど、そういう異常事態が常態化してしまった状態を「hyper nomal」と言うんだと、数年前にKoheiから聞いたんですよ。それは断じてノーマルではないという意味で“NO HYPER”。あとダブルミーニングで、僕はハイプなものが好きじゃないし、僕自身もハイプになり得ないんで、そこにも「NO」突きつけてます。
──インスタでEye On Palestineとかをフォローしていると毎日ショッキングな動画を目にするんですが、それに慣れちゃいけないなと思います。
慣れちゃダメですよね。絶対におかしいんだから。
──“NO HYPER”の〈罪にまみれたこの腕を差しのべるよ〉という一文には加害者意識みたいなものが見えます。「西側」に属している、もっといえばアメリカとべったりな国に暮らしている以上、我々もガザの虐殺に加担してしまっているわけで。
でも、矛盾してるからといって、そこで口をつぐむのもよくない。だから〈矛盾さえも貫いて〉と言っていて。中学生ぐらいのとき、S.D.S.のタカチョーさんが「パンクとは、自分のなかの矛盾と向き合うこと」みたいなことを言ってるのを雑誌かなにかで読んだんですよ。例によってその言葉からも影響を受けたというか、それが自分の考えかたを形作るひとつのファクターになってると思いますね。たまに「当事者でないあなたが声を上げてなんになるのか」とか、厳しい言葉を投げられることもありますけど。
──いや、当事者が声を上げられないケースも。
そう。その人が声を上げられなかったら、それはなかったことになっちゃう。やっぱり「こういう理不尽なことが起きてる」「これはおかしい」と、声を上げられる人が声を上げることが重要なんじゃないか。かくいう自分も、東日本大震災後の反原発デモで「福島に住んでいない自分が東京で声を上げて、なんの意味がある?」としょうもないことを考えてしまった時期もあるんですけど、以前ほど迷わなくなりましたね。

──ステートメント/セルフ・イントロデュース型である“WRONGWAY”と“すべては孤独から産まれた”は、タイトル・トラックの“ガラパゴス”と同様に、ガラパゴス性に貫かれているといいますか。
俺の指針を表明するじゃないけど、「自分はこういう者です」っていう。“WRONGWAY”こそが我が道であって、誰かに「あなたは間違ってる」と言われようが、俺はこれがやりたいんだからしょうがない。そこは正解、不正解じゃなくて、やりたいかやりたくないかの話なんで。さっきの話ともつながりますけど、たとえツッコミどころのない、ちゃんとしたものが正解であっても、自分はもっとケレン味のあることをやりたい。あ、「ケレン味」っていい言葉ですね。
──ごまかしやはったり。
そうそう。本道から外れてたり、フェイクだったり、演出過多だったりしてもいい。全部間違っていても、そっちのほうが面白かったらそれでいい。だから“WRONGWAY”はけっこう強気なのかもしれない。だけど、最後の“すべては孤独から産まれた”は“BOYS & GIRLS”とかに近い、DEATHROの惨めサイドというか、あんまりきらびやかじゃない自分みたいな。
──歌詞には〈反逆・抵抗・県央・愛川〉とあって……。
オノちゃんにデモを渡したとき「4つ言葉を並べてるけど、実質的には2つの意味しかないよね」って言われました。「反逆」と「抵抗」は一緒だし、「県央」と「愛川」も一緒だって。
──いや、この4つを並べて説得力を持たせられるのがすごい。
説得力ありますかね? 別に誰かを説き伏せようとは思ってないし、〈それ以上俺に何が唄えるんだ〉と言っておきながら、めっちゃラヴソング歌ってますからね。ここにも矛盾が生じちゃってる。でも、勢いは大事です。曲を作ってるときに自然と歌詞も一緒に出てくるし、歌詞をこねくり回すとハマりが悪くなるんで、パッと出てきたものを即採用していくスタイルで。
──そしてアルバムのリリース後、入場無料のリリース・ツアーがありますね。
大阪、名古屋、東京の3公演すべて投げ銭制で。名古屋と東京はドリンク代がかかっちゃうんですけど、チケット代が0円だとどういう感じになるんだろうっていう、チャレンジというか実証実験みたいな感じですね。
──ライヴのチケット代も高くなっちゃいましたし。
そこで工夫して、何歳以下は何円とかもやったんですけど、別に金がないのは若者だけじゃないし、例えば子育て世代の人たちとかも大変なはずなんで。この投げ銭ツアーはなにをもって成功なのかはわからないけど、どう転ぶのか楽しみですね。やっぱり、やったことのないことをとりあえずやってみるのが好きなんだと思います。あと最近、誰かに「DEATHROさん、どんどんワールドワイドになってますね」みたいなことを言われて。
──2023年11月にTHE BREATHと一緒に回ったUSツアーを皮切りに。
確かにUSツアーは、生まれて初めてこの島国から離れたという意味でも大きな出来事だったし、去年の3月には韓国でライヴをやって、今年は投げ銭ツアーが終わったらニュージーランドに行きます。でも、それって単に行動範囲が広くなっただけで、DEATHROはDEATHROのまま変わらずにいるんじゃないか。自分でそう思えたとき、すごくうれしかったんですよね。子供の頃は厚木と相模原までしか行けなかったけど、そのうち町田にも行くようになって、下北沢に行って、高円寺に行って、さらにバンドを始めて名古屋とか大阪に行くみたいな。愛川町を起点に、ただ移動距離が伸びてる感じで。
──アメリカもニュージーランドも町田の延長にある。
そうやって行動範囲が広がったからこそ、逆にここまでミクロでニッチなローカル性、郊外性を打ち出せた感もあります。
編集 : 高木理太
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DISCOGRAPHY
LIVE SCHEDULE
〈DEATHRO CHARGE FREE 1MAN TOUR "WORLD WIDE GALAPAGOS"〉
2/11(火)大阪・難波BEARS
19:30-OPEN 20:00-START
入場無料+投げ銭(予約不要)
2/12(水)名古屋・金山ブラジルコーヒー
19:30-OPEN/20:00-START
1DRINK ORDER¥600+投げ銭(予約不要)
2/17(月)東京・下北沢SPREAD
GUEST DJ:坂田律子
19:30-OPEN&DJ START
1DRINK ORDER¥700+投げ銭(予約不要)
〈DEATHRO Aotearoa Tour 2025 w/DISPLEASURE〉
2/27(木) 605 Morningside, Auckland
2/28(金) Mesoverse, Hamilton
3/1(土) Porridge Watson, Whanganui
3/2(日) Newtown Festival, Wellington
3/7(金) Yours, Dunedin
3/8(土) Lyttelton Coffee Company, Lyttelton
3/9(日) Roots Bar, Takaka
PROFILE
DEATHRO
Rock Vocalist / Singer-songwriter
1984年12月30日
神奈川県愛甲郡愛川町生まれ&在住
神奈川県央を拠点に活動を行う“ロックボーカリスト”。ハードコアパンクバンドANGEL O.D.やCOSMIC NEUROSEへの所属を経て、2016年からソロでの活動を開始した。自身の出身地である神奈川県央への思いを、BEATROCKスタイルで表現した「ORIGINAL KEN-O STYLE」を特徴とする。2016年3月にデビューシングル「BE MYSELF」、同年12月に1stアルバム「PROLOGUE」をリリースし、以降アルバムと配信シングルを中心に作品を発表。バックバンドを迎えた“4D”編成をはじめ、歌あり生演奏なしの「VHS-SET」、アコースティックソロの「Beatless Lonely Set」、DJ「BEATOFF」などさまざまなスタイルでパフォーマンスを行っている。
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