自分で書いててすげえ気持ち悪いんだよね
——たしかに。楽曲自体もシンプルな構成になっていますよね。まず先行曲の“エイトビート・バーサーカー”を聴いたときに、岸田教団の持ついちばん強い武器で攻めてくるような曲がきたなと感じました。
ichigo:そうですよね。この前ライヴで初めて披露しましたけど、お客さんの反応は良かったです。実際テンポも速いし、歌詞も少し難しいので、お客さんがついてこれるか心配だったんですけど、全然そんなことはなく。
岸田:実際そういうコンセプトで作ったんですよ。(草野)華余子さんに書いてもらったんですけど、あえて「草野華余子らしさ」を封印して、がっつりウチに寄せたらどうなるのかってオーダーしたんですよ。そしたら、めっちゃいい曲になって。良かったのでずっとキープしていましたね。
先日公開した草野華余子と岸田の対談記事はこちら
——ずっと温めていた曲なんですか?
岸田:そうですね。実は2、3年前からあったんですよ。たまたま出来ちゃったものだったので、出しどころがなかなかなく。だからこの曲は、言ってみれば華余子さんらしさもなければ、僕らしさもないんです。僕が言いたいのは、「自分たちらしさ」っていちばん自分たちがわかっていないんじゃないかということで。客観的にみた自分たちらしさで書いてもらいたくて、華余子さんに書いてもらいました。
——そういう経緯だったんですね。
ichigo:華余子からみた「岸田教団らしさ」でこれが出てくるのすごいよね。
岸田:そう。だから自分たちが思っているより、バカに思われてるのかもしれない(笑)。だけど個人的には、人に書いてもらったことで改めて自分たちらしさを見つめ直せたんですよ。だからもう開き直って生きたいと思います。
——すごくかっこいい曲だと思います。
ichigo:かっこいいと思ってもらえて良かったです。この曲は勇気と勢いと説得力が求められるんじゃないかな。特に勇気は必要なので、みんなが勇気を振り絞っています。
——この曲をかっこよくする勇気ですか?
ichigo:そうです。このコッテリした曲をかっこよくせねばならんという。勇気と責任感(笑)。
——歌詞もすごく良いですよね。
岸田:一見なにを言ってるかわからないようで実はわかりやすいみたいな歌詞が書けました。歌詞はその言葉を受け取った人が、どれだけ想像を膨らませられるかが大事だと思うんです。なにを指してるのかパッとわかるものって狭いじゃないですか。でも直接的に明示されていないと豊かな想像ができると思うので、僕はこの歌詞が書けて嬉しいですね。間違いなく誰がみても、斧をもって何かを壊そうとしてますもんね。それがわかるけど、直接的には明示されていないのが気に入っています。

——そこからテンポの速い楽曲が続きますが、“Outsider Frontrunner”でははやぴ〜さんのギターの良さが全開だなと。
岸田:この曲で、はやぴ〜さんがエドワード・ヴァン・ヘイレンのモノマネするのがおもしろくて。ヴァン・ヘイレンっぽい弾き方のコツを教えてもらったんですよ(笑)。本人のヴァン・ヘイレンファンぶりが見えているいい曲ですね。アルバムの中でいちばんこのギターソロが好きです。
——歌詞はどういうイメージなんですか。
岸田:これは競馬のフェブラリーステークスかなんかをやっているときに、普通に人気の馬が勝ったんですよ。そこからイメージして、「誰が勝つとも思ってないやつが勝つときの良さ」ってあるよねと思ったんですよ。いまは『ウマ娘』も流行っているので、みんな『ウマ娘』のインスパイアソングだと思って聴いてくれればいいなと思って書きました(笑)。
——そういうことだったんですね。
ichigo:90年代のアニメっぽい熱さがあるから好き。変なロボットが出てきそう。
岸田:よくわからない熱さあるよね、『ウマ娘』も熱いし。タイトルも日本語に訳すと競馬用語なんですよ。「Outsider」って人気の低い馬のことで、「Frontrunner」は逃げ馬のことなんで。実際逃げ馬が勝つときのイメージで書きました。

——なるほど。はやぴ〜さんと岸田さん作曲の“夜明けの境界”はどのように制作を進めていったんですか?
岸田:僕がはやぴ〜さんから受け取ったものをアレンジしていった流れです。ただ、バンドにないようなものを作りたいと言う意志は伝わりました。例えば、メロディー・ラインも今までないようなものを作ろうとしていたんですが、はやぴ〜さん自身があまり曲を作っていないので、こなれていない感じも残しつつ。バンドとしてそういうサウンドがあまりないから作ったんだと思います。
——“夜明けの境界”は、ichigoさん作詞ですね。
ichigo:これはすごく執着強めのヤツ書こうと思った気がする。この曲のメロディーには結構"湿度"を感じたので、重めの歌詞が合いそうだなと思って書きすすめていったらなんかすごいのでてきた感じです(笑)。私自身の恋愛観としても執着の強い人が好きなんですけど、それにしてもストーカー気質の歌詞になったなと。歌うまで気づかなかったんだけど2番のBメロからの流れが特に気持ち悪い(笑)。
岸田:自分で気持ち悪いっていうのどうなの(笑)。
ichigo:書いてみて、やべえのできたって思った。キャラクターを想像して歌詞を書くのが好きなんですけど、執着強めの奴が私の中で生まれて、勝手に動いた結果こうなりましたね(笑)。
岸田:ichigoさんの中でこういう奴はいるの?
ichigo:ここまでの奴はいないよ!
岸田:まあ俺も執着が薄い方だから全くわからないんだよね。
ichigo:「知る必要はなかった / とっくに知っていたことだけ思い出すように / なぞるだけでよかった / きっと前の生もその前も共に過ごしていたんだろう」、ここすごいですね。
岸田:少女漫画に出てくる超イケメンでもこんなこと言ってきたら気持ち悪いよ。
ichigo:きっとこういうふうに愛されたい人もいると思うよ。
岸田:でもそれはキモいよ(笑)。現実に降りかかってきたらひくよ、流石に。前世ならまだしも、前前世はキモい。
ichigo:でも私は決して嫌いじゃないですよ?
