歌詞は文字としてある程度読みごたえあるようなものにしたい
──今作の曲の歌詞って、繰り返しがほとんどないのが特徴的ですけど、そこは意識的なんですか?
小林:それはもう、もとからずっと意識しています。繰り返すときは繰り返す意味がある曲にしようって思っているんです。前に出した“スープが冷めても“とか“飛日“とかは、ずっと同じ風景をリフレインしてるっていう情景を描きたくて書いているので。歌詞書きたいという気持ちからなんでしょうけど、せっかく書ける枠があるのにもう1回同じ歌詞を置きたくないんです。
──歌詞に悩む人も多いと思うんですけど、すごく独特な考え方ですね。僕は前作アルバム『光を投げていた』に収録された“冬、頬の綻び、浮遊する祈り“が大好きなんです。あれは名曲だと思うんですよ。
小林:ありがとうございます。あれはぶっちゃけて言うと、最初にタイアップで2曲提出していたものがボツになっちゃって、ふざけんなよって思いながら書きました(笑)。
──あの曲は同じサビを繰り返したり、わりと歌詞も整理されている感じがありますよね。
小林:その前に2曲書いてるからですかね。1曲はボツになったんですけど、もう1曲は(Ⅱじゃない方の)“目下“になって。“冬、頬の綻び、浮遊する祈り“は、このときの2曲があったからこそ生まれた曲なので、書けて良かったです。
──“冬、頬の綻び、浮遊する祈り“の〈このままずっとこうしてどうしようもないまま生きていくことが 嫌ではないのがたまらないほど恐ろしいんだ〉っていう一節は、本当に素晴らしいです。
小林:そこの歌詞は、異常にみんなから褒められますね。僕がずっと思っていていつも言ってることだから、ほぼ口癖なんじゃないかって思いますけど。こういうことをよく無職の友だちと話してるんですよ。「今日、働きもしないでめちゃくちゃおもしろいね。ああ~死にたいな」って。「でも本当はそんなこと思ってないのがヤバいんだよな」って言いながら64(NINTENDO64)とかやってます。
──こういう言葉にしても、歌詞をたくさん書きたいっていう気持ちがあるから長い歌詞になるんですね。
小林:いままで歌詞になってこなかった言葉が歌詞になると興奮しますけど、それをやりたいなというのはありつつ、「こういう表現はどうだろう」みたいなのこともやりたいです。作曲も同時進行ではありますけど、歌詞を書いてるときがいちばん“生きてる“って感じがしますね。
──今回、特に“生きてる“って実感した曲、歌詞を挙げるしたらどれですか。
小林:それぞれいろいろやりたいことはやってるんですけど、“花も咲かない束の間に“は、もうめちゃくちゃ美しい歌詞を書こうと思って書きました。あと、なにか歌詞にならない言葉を入れようとすると、なんでこの言葉が歌詞になってないかわかるなって思うときもあるんですよ。“線・辺・点“の〈想像の桟橋をかける労力の無駄を削減したこと〉って、自分でも未だに「“削減“かあ……」と思いながら歌ってます。
──それで言うと、“花も咲かない束の間に“に出てくる「膏薬」(こうやく)っていう言葉も、何回聴いてもなぜか耳に残りますよ。
小林:これは「理屈と膏薬は何処へでも付く」(編注)っていうことわざからで。僕がめっちゃ好きな米澤穂信の「古典部シリーズ」で主人公の折木奉太郎がたまに言う言葉で、「いいな」と思って書きました。後から聴いて、「膏薬」って「公約」にきこえるしマニフェストみたいだなって思ったんですけど、ここはこの言葉しかないよなって。文字の情報として読む前提で歌詞を書くというか、文字としてある程度読みごたえあるようなものにしたいという意識はありますね。
編注:理屈と膏薬は何処へでも付く・・・膏薬が体のどこにでもつけられるように、理屈をつけようと思えば、どんなことにもつくということにたとえる。