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INTERVIEW : しーなちゃん(東京初期衝動)

東京初期衝動というストレートなバンド名と初作『SWEET 17 MONSTERS』のパンキッシュなインパクトから、2020年代を牽引するライオット・ガール・バンドか、と思っていたら、彼女たちはそんな紋切り型に収まる存在ではなかった。2022年2月2日にリリースした『えんど・おぶ・ざ・わーるど』はヴォリューム満点の16曲入りで、しかもバラエティに富んだ曲揃えで自分たちの伸び代を見せつける作品になっていた。そうした彼女たちの成長ぶりが注目されたのか、阪元裕吾監督の映画『グリーンバレット』の主題歌“エンドロール”と挿入歌“コマンドバトル!”を手がけることに。11月23日にリリースの『らぶ・あげいん』は、その2曲を含む初のミニ・アルバムだ。そしてそれぞれの色を持った6曲が、また彼女たちのイメージを新たにしている。主に曲を手がけるしーなちゃん(Vo/Gt)は銀杏BOYZのファンで知られているが彼女の耳目は実にオープンで、様々なものを吸収消化しているようだ。そんな彼女の一面を知るインタヴューになった。
インタヴュー・文 : 今井智子
写真 : 斎藤大嗣
「各々のサニーディ・サービスをぶちまけましょう!せーの!」
──今回のミニ・アルバム『らぶあげいん』は、映画とのタイアップからはじまったのかなと思いますが。
しーなちゃん(Vo/Gt):そうですね。もともとは、配信してた“エンドロール”と“コマンドバトル!”と、あと1曲ぐらいのつもりだったんですけど、そうなると1曲って選べなくて、ミニ・アルバムにしました。だからこれは、ビッグ・シングルですね。
──前作『えんど・おぶ・ざ・わーるど』は16曲入りで、今回は6曲。ずいぶん落差がありますけど、このサイズ感はどうですか。
しーなちゃん:ちょっと楽だったかな(笑)。前は大変だったから。ちょっと楽したいときはミニ・アルバムいいですね。
──映画のタイアップをやってみて、どうでした?
しーなちゃん:脚本を読むのが大変でした。主人公みたいな女の子が6、7人いて、誰が誰だかわからなくなって。読んでておもしろいんですけど、これで曲を作るのは難しいなと思いました。監督の方から、このシーンで流したいとか要望があったので、その点では作りやすくはありましたね。“コマンドバトル!”は、女の子たちが銃撃戦のなかを歩いてくるシーンだったり、“エンドロール”だったら、女の子がヘッドフォンした途端に曲が流れてくるとか。想像はつきやすかったです。殺人系の歌は経験ないから書けないと思ったので、女の子っていうくくりで書いてたんで。
──“エンドロール”と言うぐらいだから最後に流れるんでしょうね。
しーなちゃん:そうです。クレジットがバーっと流れてくるから、尺長めに作ったんですよ。全部いっぱい流れるんだろうなって。
──映像を見た感想は?
しーなちゃん:感動しました。本当に感動して涙が出ました。なんだろう? 普段味わえない感覚じゃないですか。できない体験だから、すっごく感動しました。
──自分の書いた曲が映画のワン・シーンで流れるなんて、すごい経験ですよね。いわゆるMVとは全然違う。
しーなちゃん:全く違いますね。こんなところで自分たちの曲が、手から離れて使われてるんだと思うと、「あ〜っ」って。子供が独り立ちした気分。子供いないからわからないですけど(笑)、そういう気分なのかなって。
──その2曲を核に他の4曲も揃えていった感じですか。
しーなちゃん:いや、そうだったんですけど、他の曲を作っていくうちに、全部の曲が目玉曲って思いました。
──じゃ1曲ずつ伺っていきましょう。“ボーイフレンド”はどんなふうにできた曲ですか。
しーなちゃん:いちばん最後にできた曲です。曲を作る時はいつもバランスを見るんですけど、ちゃんとしたポップ・ロックというか、そういうのが足りないなと思って加えた曲。めちゃくちゃ歌詞が好きですね。
──ボーイフレンドとの幸せな生活がモチーフなのかなと思いましたが。
しーなちゃん:これは、ボーイフレンドと言ってるけど、彼氏だけじゃなくてペットとか友達とかでも考えられるし。あんまりひとりの人とか、人間とか思って作ってないです。
──歌詞のなかにピンク・フロイドが出てきたのでちょっと驚きました。1960年代からのバンドですけどご存知だったんですか。
しーなちゃん:海外のバンド、めちゃめちゃ漁ってます。最近はダムド。
──いきなりパンクの原点へ。どんな風にそういう音楽と出会うんですか。
しーなちゃん:Shazamってアプリありますよね。あれで調べて。で、プレイリストを作って。作るのすごい好きなんですよ。
──“ボーイフレンド”はギタリスト山本幹宗さんがサウンド・プロデュースとアレンジを担当されていますが、彼とはどんな繋がりで?
しーなちゃん:前から知り合いで、1曲一緒にやって見たいって言って、「これ作るの手こずってるんで、やってください」って(笑)。
──同じギタリスト同士で通じ合うところもあったり?
しーなちゃん:私、全然通じ合えないです。ギターに関してはなにもわからないんで。幹宗さんのギターがすごく好きなので、全部よく聴こえちゃって、「むちゃくちゃいいです!」ってずっと言ってました。でもライヴで自分で弾くのはすごい大変なんですよ。
──(笑)。“オレ流サニーデイ・サービス”は曽我部恵一さんがコーラスで参加していますね。曽我部さんとは前作で1曲共作しているので、その続編といった感じでしょうか。
しーなちゃん:そうですね。曽我部さんのイメージで書きました。曽我部さんすごい歌うまいから、なんでも曲がよくきこえるじゃないですか。もちろん曲が素晴らしいんですけど、曽我部さんがカヴァーしますってなると、この曲ってこんなによかったっけ? みたいな。曽我部さんとレコーディング入って、鳥肌立つんですよ。歌が上手いから。曽我部さん、自分のこと弾きまくりおじさんて言ってたんですけど、本当にギターもすばらしいし歌もすばらしいし。あの人、頂点ですよね。
──以前からサニーデイ・サービスのファンだったんですか。
しーなちゃん:私は全然通ってなかったんです。ギターの希(まれ)ちゃんがすごい好きで、一緒にサニーデイか曽我部さんの単独を観にいって。その時すごいびっくりしたし。またサブスクの話ですけど、誰かのプレイリストに入っていたり、シャッフルで流してたりするとガツンといい曲が耳に入ってきて。「誰?なに?」と思うと、曽我部さんで。新曲なんですよ、毎回。「あ〜すごい!」と思って。アーティストの方で、出す曲出す曲めちゃめちゃいいと思う人って珍しくないですか?
──しかも彼は多作ですからね。
しーなちゃん:いっぱいいっぱい作ってますよね。歌詞ノートとか作曲ノートが、こーんなに(10cmぐらい)厚かった。
──それは一緒に作業しないと見られない秘密ですね。この曲は東京初期衝動からサニーデイ・サービスへのオマージュというか。サニーデイのような曲にしようとか思って?
しーなちゃん:サニーデイぽい曲、作りたいねってみんなで言ってて。弾き語りで、ある程度こういう曲なんだよねって持っていって、バンド・アレンジは、「各々のサニーディ・サービスをぶちまけましょう!せーの!」って、合わせました。
──そこで4人の気持ちがひとつに?
しーなちゃん:そうですね、大袈裟に言うと(笑)。
──曽我部さんからの感想は?
しーなちゃん:最初のドラムの入りが最高だねーって言ってました。めちゃくちゃいい曲って。
