その音が誰かの心を震わせたり、生きる光になったりする
──「歌を大事にしている」というのは、ずっとおっしゃっていますよね。今回のアルバム資料にも書いてありましたけど、それは4人の変わらない認識のひとつだと思います。楽器隊のみなさんは、ヴォーカルに対してどのように寄り添っていますか?
桐木 : ヴォーカルだけ、ドラムだけっていう各パートごとで流すパラデータというものがあるんですけど、それを聴きながらベースとヴォーカルだけで演奏するみたいな練習をしています。そうするとブレスの位置とかもすごくわかるので、歌に寄り添うためにそういう練習方法をしていますね。
吉田 : まさに同じで。メロディーラインをギターでなぞったりとか、ひたすらミックスでヴォーカルの音量をめちゃくちゃ上げたりしています。下手したら親の声よりも柳田の声を聴いてるんじゃないかってくらい、歌はめっちゃ聴いていますね。たくさん聴いているともう訳がわからなくなるんですけど…。でもそのごちゃっとしている部分を自分で解読していくと、だんだん歌心がわかってきたり、柳田の呼吸する箇所とか細かいところが見えてくるんです。ライヴでは弾き語りをする時もあるんですけど、柳田をみなくても歌が自分のなかに入ってくるようになりました。最近もダメだしはされるのでまだまだではありますけど、そこは大事にしているポイントですね。ライヴでは音源通りではない予想外なことが起こるので、バンドっておもしろいなって思います。
黒川 : ドラムもそうですね。柳田の歌を自分のなかで鳴らしながら演奏することは意識していますし、歌のリズムと同じフレーズもあるので、そういう感じで歌に寄り添っています。
──なるほど。柳田さんは曲に込めたメッセージをメンバーに共有しているんですか?
柳田 : 僕が歌っている真意は絶対に伝えないようにしています。それぞれの感覚で詞を読み取って、それをプレイに反映してもらっているので。だからいま話してもらったように、各々でヴォーカルを聴いてもらって色々やってもらっています。1対1でなにかを話すのではなくて、その間には必ず音楽があるんですよ。間接的にそれぞれがそれぞれを理解しようとしているというか。バンド以外の私生活でもそういう距離感で接しているので、僕らってメンバーの関係性が変なんだと思います。サシで飯を食いに行ったりもあんまりないし、地方へ行くときも基本的にはみんな別行動だし。みんなのテンションが高いときは、たまに4人で乾杯したりしますけど。でもこの絶妙な距離感が神サイらしさのひとつかなと。吉田くんなんて家に入れてくれないんですからね。家がどんな風になっているのかも知らないんですよ。
──意外ですね。吉田さんは家に誰も入れたくないんでしょうか?それとも集まる機会が減ってしまった?
吉田:自分だけの空間にしたくて、家には誰ひとり入れてないです。このバンドをはじめてから、すごい潔癖になったんですよ。トイレとか使われるの嫌じゃないですか(笑)。昔は結構入り浸ってたくらいだったんですけど。
柳田 : 大学時代はよく家に行って鍋を食べたりしてたよね。でもこうやってそれぞれの島で生活をしながら、バンドを通してひとつの塊になるみたいな不思議な距離感だからこそ、このバンドを7年間続けることができたんだと思います。
──神サイは昔から天文学をすごく重んじていますよね。私はそこもバンドの魅力のひとつだと思うのですが、柳田さんは具体的にどういうところに惹かれますか。
柳田 : すでに爆発して消えてしまっている星でも、地上からは光が失われずにまだその星が輝いているように見えるところが、ロックスターやロックバンドだけじゃなくて、美術もそうだし、全ての芸術に共通すると思うんです。仮に僕が明日死んだとしても、僕らが作った音楽やライヴのプレイ、ライヴハウスの大きなスピーカーから鳴った音は誰かの記憶に残り続けるし、僕らの音楽をちゃんとCDとして形に残すことでこの先何十年何百年も聴くことができるじゃないですか。その音が誰かの心を震わせたり、生きる光になったりすると思うから、自分たちの存在は星みたいだなって思うんです。星は僕らと同じ存在だなって勝手に共感しているというか。それで“illumination”(『理 - kotowari -』収録) という曲もかけたし、今回のアルバムにも収録されている“クロノグラフ彗星“が生まれたし。すごくスケールが大きい話ではありますけど、根本的なところがすごく僕らの思想と似ているなって。
──歌詞にもよく「星」という言葉が綴られていますけど、そういった考えは無意識的に投影しているんでしょうか。
柳田 : 無意識ですね。自分と同じ存在だと思えるが故に、星に例えることがいちばんしっくりくるパターンが多いんです。パズルのピースがハマるというか、好きすぎるが故に無意識的に出てくるんだと思います。
──先行配信された“あなただけ“は、自身でも「この曲を作れたことを誇りに思う」とおっしゃっていましたけど、どのように制作していきましたか?
柳田 : 歌詞は制作当初からほとんど変えていないんですけど、メロディーはガラッと変えましたね。最初は2番以降をワンコーラスとして作っていたんですよ。
吉田 : 2番がワンコーラスっぽいとずっと思ってた。タイトルの「あなただけ」も歌詞に入っているのに、1番じゃないんだって。
柳田 : 終盤あたりの「二人手のひらを合わせたり / 不意にキスをしてみたり / なんでもない日常が愛しく思えた」という部分が先にあって、本当はここがサビだったんです。そこから「あなただけに この花束を」という、最終的にサビになっているメロディーができたんですけど、難産でしたね。基本的にメロディーは感覚的に作っているんですけど、珍しくMIDIでも試行錯誤せざるを得ないくらい迷走して。深夜の3時くらいにふっと浮かんだのが、このサビのメロディーだったんです。この部分が生まれたときにこれ以上のものを作れるのかなと思いましたし、心にバスっと穴を開けられた感覚になって。とりあえず黒川に聴いてもらおうと思て、弾き方りデモを送ったんです。そしたらすごく盛り上がって。
──最初に思いついたサビを最終的にCメロにに持ってきたのは、どうしてですか?
柳田 : 黒川に「ここはサビではなくない?」って言われた気がする…。
黒川 : そうそう。最初にデモが送られてきた時に、僕的にはサビメロの感覚がしなくて。それで「もう1回サビを作ってみたら」と提案したら、いまのサビができたんです。サビのメロディーがシンプルだからこそ、最後の部分は複雑なメロディーにしました。
──黒川さんのご意見でこういった構成になったんですね。
柳田 : 結構そういうパターンが多いんですよね。“夜永唄“も、Aメロの「どうして心ごと奪われて でもまだ冷たいあなたを抱き寄せたいよ」というところが最初サビの予定だったんです。だけど黒川が「それはサビじゃない」「サビを作ってこいや」って…(笑)。
──その判断基準はどこにあるのでしょう。
黒川 : 感覚的なんですよね。もちろんドラムも好きですけど、自分は歌がいちばん好きだからこそ浮かぶのかなと思います。それを形にできる柳田がいちばんすごいんですけどね。
柳田:うわー! こうやっていいところを全部持ってこうとするんですよ!
黒川 : そんなことないじゃん(笑)。
──(笑)。最近のヒット曲の歌詞は、母音を揃えている傾向がありますよね。この曲も「透明な生涯に/ 彩り/ と / 意味 / を」「二人 / 手のひらを合わせたり / 不意にキスをしてみたり」など語呂が心地いい箇所がたくさんありますけど、リズムとメロディーにあった韻の踏み方を綺麗にされているなと思いました。
柳田 : 仮歌の段階から無意識下で韻を踏んでいたと思います。「二人手のひらを合わせたり 」というワードもスッと出てきたので。その時のいちばんピュアな気持ちとか、そのメロディーが引き寄せてくれる歌詞が、仮歌の段階で出てくることもあるので、あまり意識はしていないと思いますね。
──この曲はブレスもひとつの音になっている感じがしたのですが、メンバーのみなさんはエンジニアさんになにか要望したりしますか?
柳田 : 神サイのエンジニアをやってくれている人は多くても3、4人なんですけど、みんながブレスを良しとしているからあえて消さないでいてくれるんだと思います。その辺は阿吽の呼吸というか、特に僕らから要望はしていないんですよ。
──冒頭で「“人 対 人”で生まれた作品」がたくさんあるとおっしゃっていましたけど、そういうところにも通じているんですね。
柳田 : エンジニアさんやマネージャーさんだったりレーベルの皆さんだったり、神サイに携わってくれている人たちはみんな神サイのことをめっちゃ好きでいてくれるんですよ。なんなら神サイというよりも、メンバーのことが好きみたいな。そのくらい愛のある人たちなので、改めて本当にありがたいです。