はじまりは劣等感の肯定から──神はサイコロを振らない、未知なる日常を彩る初のフル・アルバム

2020年夏に念願のメジャーデビューを果たしたロックバンド、神はサイコロを振らない。他者の世界観を尊重しながらも、洗練されたメロディーラインとグルーヴで神サイらしさを損なうことなく、ラウド・ロックやバラード、ポップスなど、さまざまな表現を取り入れた楽曲をさらに多くの人のもとへ届けてきた。メジャー・ファースト・フル・アルバム『事象の地平線』には、これまでリリースしてきた14曲に加え、バンドとしてやりたかった表現を余すことなく反映したという、神サイのピュアな精神が反映された新作6曲も収録。神サイが培ってきた柔軟な表現力とバンドとしての揺るぎない想いを収録した、初のフル・アルバムがここに。
メジャー・ファースト・フル・アルバム『事象の地平線』
■総勢39名の著名人から届いた推しコメントをチェックする
INTERVIEW : 神はサイコロを振らない
7年間のバンド人生のなかで芽生えた喜怒哀楽、自責の念、甘くて淡い記憶。神はサイコロを振らないのファースト・フル・アルバム『事象の地平線』から聴こえるのは、そういった無垢な心情だ。本作のタイトル「事象の地平線」とは、宇宙において光が出れないほどの重力が存在する(つまり遠くから見えない)領域を指す。誰も到達したことがない場所には、どんな景色が広がっていて、どんな音が鳴っているのか。その好奇心を胸に、未踏の地へ一歩踏み入れたい。表現者として未知なる存在でいたい。本作にはそういった願いが込められている。
インタヴュー・文 : 梶野有希
アルバムの結末は最初から決まっていた
──2020年にメジャーへ進出し、その後CDシングルを1作と配信を合わせて14曲とハイペースで作品をリリースしてきました。今作をリリースするまでのバンドの歩みを振り返ってみて、いかがでしょうか。
柳田 周作(Vo)(以下、柳田) : 2020年の夏にメジャーデビューが決まってからは、曲を作ってリリースをするということの繰り返しで、この1年半は本当に一瞬でした。コロナの影響でライヴができなくなってしまった時期にメジャーデビューが決まったり、誰もが曲を作れるくらい技術が進歩しているなか、僕らはいいレコーディングスタジオで、信頼できるエンジニアさんと素敵なアレンジャーさんたちと色々な音楽を作ることができていて。そうやって出会いや環境が組み合わさった結果、いまの状況があると思うんです。だから月並みな言葉ではありますけど、色々な出会いに感謝しています。それから昨年はヨルシカのn-bunaさんやBiSH / PEDROのアユニ・Dさん、キタニタツヤさんとコラボすることができたので、そういった経験もめちゃくちゃありがたいことでした。本当に色々な人との繋がりのおかげでいまの神サイがあると思っているので、「俺らがこんな作品を作ったぜ」という気持ち以上に、いまの環境や周りの方々への感謝の方が強いですね。“人 対 人”で生まれた作品がいっぱいあるので、神サイに携わってくれている全ての人に大感謝です。
黒川 亮介(Dr)(以下、黒川) : 2020年からたくさんレコーディングがあって、毎日が濃かったし、ついていくために必死でした。そのなかでプレイヤーとしても、人間としても色々考えるようになりましたね。他のアーティストさんとコラボすることで柳田の癖がわかって、それをプレイに活かすことができたり、すごく成長できたと思います。
──吉田さんと桐木さんはいかがでしょう。
吉田 喜一(Gt)(以下、吉田): 蓋を開けてみれば1曲1曲にめちゃくちゃ濃密な思いが込められていたり、曲を聴いていると当時のことを鮮明に思い出したり。この20曲ができるまで全然実感はなかったんですけど、バンドとして積み上げてきたものを今回形にできたと思います。個人としてもひとつの音源に対して自分がどんなアプローチをして、どうやって成長していくかということは、みんなも毎回大事にしていたことだと思いますね。
桐木 岳貢(Ba)(以下、桐木) : コラボという経験は刺激的ですごく勉強になりました。プレイヤーとしてはもちろん、人間的に成長できたと僕も思うし、収録曲を改めて聴いてみてすごく大きな自信を持てました。この作品を作ったことによって、今後のライヴや私生活も変わってくる気がします。
──いまコラボの話がありましたけど、n-buna(fromヨルシカ)さんが作曲を務め、アユニ・D(BiSH/PEDRO)さんが歌唱で参加されている“初恋“、キタニタツヤさんとの共作“愛のけだもの“の2作品をリリースしたことによって、個人のプレイにはどのような影響がありましたか?
黒川 : 柳田のことをより深く知れたと思います。例えば、キタニくんと柳田は歌い方がそれぞれ違うんですよ。キタニくんはすぐに声が出る歌い方なんですけど、柳田は吐息から歌うというか、音がキタニくんより遅く聴こえてくるんです。だからプレイする上でドラムとの距離感がキタニくんと柳田では変わってくるので、そういうことを知れてよかったです。
吉田 : どっちの曲にもギターソロを入れているんですけど、自分の人生を込めたし、これ以上ないソロを考えたと思っています。それを憧れの先輩ギタリストに「このソロやばいよ」と言ってもらえたり、マスタリングエンジニアの方にも「こんなエロい16分弾けるのすごいよ!」とめっちゃ褒めてくれたので、ギタリストとしての自信に繋がりました。ギタリストとしてひとつ階段を登れたという実感は、他の作品へも繋がっている気がします。
桐木 : n-bunaさんが「神サイのグルーヴになったね」と言ってくれたんですけど、そのときは俺らのグルーヴを意識的に出そうとはしていなかったので、無意識的に神サイらしさがあるんだと確認できたことは大きかったですね。これまでは自分らの色がなにかわからなかったし、「俺らってなんなんやろ」という部分が正直多かった気がしていたんですけど、外からみたら神サイのグルーヴはちゃんとあるんだということを楽器陣で確認できたことがよかったです。
──柳田さんは“初恋“の作詞をされていますけど、「n-bunaさんが詞を褒めてくれた」と拝見しました。わたしも最初にこの曲を聴いたとき、どちらが作詞をしたかのか分からないくらい、n-bunaさんのメロディーに柳田さんの詞が馴染んでいると思ったんです。
柳田 : 嬉しいです。でもそれは、n-bunaさんのメロディーがそうさせてくれたような気がしますね。n-bunaさんが作った鍵盤の音に僕が詞をはめていったんですけど、やっぱりn-bunaさんの作るメロディーには、n-bunaさんの色がちゃんとあるじゃないですか。だから多分そのメロディーラインが必然的に詞を呼び起こしてくれたのかなって。n-bunaさんがヴォーカルディレクションをしてくれたんですけど、自分のなかにsuisさんが舞い降りてくる瞬間があったんです。自分でもよくわからないんですけど、suisさんみたいに歌っている自分が無意識下にいて。メロディーが詞を引き寄せてくれたように、n-bunaさんのディレクションやメロディーラインによって、suisさんもそんな風に導かれているのかなって考えたり、ヴォーカリストとしても楽しい刺激的な現場でしたね。
──今回のメジャー・ファースト・フル・アルバムは収録教が20曲と、かなりのボリュームです。楽曲の振り幅も広いので、ひとつの作品にまとめるのは容易なことではなかったと思いますが、違和感なく聴けるこの曲順はどのように決めていったのでしょう。
柳田 : このアルバムの結末は最初から僕のなかでは決まっていたんです。20曲入りのフル・アルバムを作ると決まったときから、「こういう曲で終わらせたい」というイメージがぼんやりと頭のなかにあって。小説を書くことや映画を作ることに近いかもしれないんですけど、“僕だけが失敗作みたいで“に向かって1曲目からずっとドラマが続いてるような感じです。そこから逆算して考えていったので、曲順はすぐに決まったんですよ。当然ですが、マスタリングの時にこのアルバムを通しで確認したんですけど、色々なバリエーションに富んでいるこの20曲を一瞬で聴けたんですよね。それぐらいのめり込める超大作になったと思います。
──本作のキーとなっている“僕だけが失敗作みたいで“は、柳田さんにとってどのような曲ですか。
柳田 : 僕の詞は、ただ日々の生活とか自分の記憶を綴ってることが多いんですけど、その生々しさに僕はパワーを感じていてですね。この曲もそうですし、“目蓋“や”夜永唄“も、柳田周作という人間にしか書けない詞だと思うんです。そういう自分の生々しさを究極まで突き詰めたような楽曲が、この“僕だけが失敗作みたいで“なんですよ。自分に自信が持てず、「自分なんか」と卑下しちゃうようなどうしようもない男の歌だし、ただ自分の内側に潜っていくようなエゴの塊みたいな曲なんですけど。でもそれこそが僕のなかでは最も美しい音楽の形だと思うので、それをちゃんと再現できたことがすごく嬉しいです。このアルバムで最後にみせたかった景色を“僕だけが失敗作みたいで” で、すごくリアルに生々しく具現化できました。
──他のみなさんは「自分を卑下してしまう」「自信が持てない」という気持ちには共感しますか?
黒川 : そうですね。自分のなかでも劣等感はやっぱりあります。“僕だけが失敗作みたいで“を最初に聴かせてもらったとき、自分の気持ちを代弁してくれたような感覚になったんです。それは自分だけじゃなくて、リスナーも同じだと思うし。そう感じるのも柳田が自分のことを嘘偽りなく歌ったからこそだと思うんです。自分にとっても大事な曲ですね。