自分の人生と重ねながら聴いてもらえたら
──アルバムでは、インタールード"A message from GL Inc."を経て"ジェネリックラブ2.0 feat. Shelhiel"が流れることで、曲の世界観がより明確になっていますね。
yonkey:"A message from GL Inc."には、独身の人を対象としたAIロボット「ジェネリックラブ」を開発している「GL Inc.」という架空の企業によるアナウンスが収録されています。「ジェネリックラブ」は、人間の感情を瞬時に理解し、人間とほとんど変わらないような疑似恋愛ができる。そういう説明が入ったことで、単体で"ジェネリックラブ"を聴いた時よりも、より世界観に没入できるかなと思いました。
──"ジェネリックラブ"は、まさに映画『her/世界でひとつの彼女』のAI OS「サマンサ」ですね。あの映画が公開された10年前は、まだ非現実だった設定が、いまやそこまで来ているのをひしひしと感じます。
yonkey:まさに、あの映画の設定にもインスパイアされて作りました。この曲を思いついたのは実は2、3年前だったんですけど、おっしゃる通り、当時よりもさらに現実味を帯びて想像できるようになりましたね。
──"ちょっとまって"は、言葉遊びのような歌詞がコミカルで楽しい曲です。
yonkey:この曲と同じ時期に作ったリーダーズの「Giri Giri」という曲も、サビ頭に〈先生! 〉というフレーズがあって。それと上手くリンクさせたらおもしろいかなと思いました。まず〈ちょちょっとまって母さん〉というフレーズが思い浮かび、そこを軸にして歌詞の世界を広げていきましたね。
やすだ:結構前にレコーディングしたのですが、いままでにないコミカルさがあって好きな曲です。私たちのライヴはコミカルな要素がそんなにある方じゃないけど、"ちょっとまって"や"Set Me Free"がいいスパイスになったというか、Klang Rulerの世界観がグッと広がった気がします。実際、ライヴでもすごく盛り上がる。途中で長めの間奏を入れるなど、まだまだ成長させ甲斐がある曲だと思っていますね。
──"Spaceship"は、どのように作りましたか?
yonkey:インタールードの"Boarding Gate 8"を経て、〈二人で夢見たスペースシップ 別れて飛び立つコロニー〉〈足先凍えたコールドスリープ それじゃまた100年後に〉など、SFを想起させるワードを散りばめました。長距離移動していた宇宙船で、ひとりだけコールドスリープから目が覚めてしまう主人公が、孤独に耐えられずもう一人起こしてしまう『パッセンジャー』という映画が大好きで、そのストーリーを思い出しながら書いた曲です。
──SFソングと思わせつつ、実はコミュニケーションの難しさについて歌っている曲ですよね。〈解けない心の病 近づくほどボヤけたり〉〈いつも傷つけた後に うずき気づく僕のあやまち〉など胸に刺さります。
yonkey:ありがとうございます。単に「SFでスペースシップで宇宙旅行をしている曲」にはしたくはなかったし、そんなふうに自分の人生と重ねながら聴いてもらえたら嬉しいですね。
──"君はファンタジー"は、アルバム最後に相応しい感動的な曲です。〈カラフル手編みマフラー〉〈垂れ滲む畳に今日も〉〈畦道で君に思い伝えた〉など、SFっぽくないワードが入っているのもアクセントになっていますよね。
yonkey:最近Netflixで観た、『スペースマン』というアダム・サンドラー主演の映画があって。宇宙服を着たまま森の中を彷徨うシーンとか、すごくシュールでアンバランスなんです(笑)。そこからインスパイアされて、宇宙がテーマの歌詞にミスマッチなワードを入れてみました。〈夜明け前 あの星に向かって さよならを君に歌った〉といったフィクションの描写を交えつつも、学生時代にすごく好きだった子と、結局はうまくいかなかった自分の経験を曲に落とし込んでいます。
やすだ:この曲は、私がKlang Rulerに加入する前に「こういう曲もあるんだ」と言って、スタジオでたくさん聞かせてくれたなかにあったんです。その時からめちゃくちゃ気に入って、「これ、絶対歌わせてほしい!」と言った記憶がありますね。今回、アルバムに入ることが決まってすごく嬉しかったですし、私が私のまま等身大で歌うことができた、個人的にも大切な曲のひとつになりました。
──とても聞き応えのあるアルバムですが、作り終えて今はどんな心境ですか?
yonkey:いやあ、なにが正解なのかもうわかんなくなってきちゃって……。
やすだ:あははは。私自身は「アルバムを出したい」という思いがずっとあり、それがようやく叶って感無量です。
yonkey:今回、はじめてアルバムを一から作ったのですが、自分たちにいまできることを、できる限り詰め込めたのかなと思っていますね。今日お話しした、楽曲に込めた思いができるだけ多くの人に伝わり、聴いてくださった人それぞれの人生に投影させて聴いてもらえたら嬉しいです。

編集:梶野有希
テーマは「宇宙時代に聞かれているミックステープ」
ライヴ情報
Klang Ruler One Man Show 〈Space Age〉
■東京公演
2024年7月5日(金)@Zepp Shinjuku
開演 18:00 / 開場 19:00
■大阪公演
2024年7月13日(土)@Yogibo META VALLEY
開演 17:00 / 開場 18:00
■Ticket Info
一般 スタンディング ¥4,400(税込・ドリンク代別途)
U-23割 ¥2,200(税込・ドリンク代別別途)
やすだちひろよりコメント
普段は打ち込みやヨンキーの強みを生かした楽曲制作を行っていますが、ライヴでは生のアレンジに注力しています。そこもKlang Rulerの大きな強みだと思っているので、音源とはまた別の楽しみ方をしてもらえるかと。世界観を楽しみながら、私たちが生でどんな表現をするのかというところを楽しみに遊びに来てもらえたら嬉しいです! (やすだちひろ)
Klang Rulerの他作品はこちら
PROFILE:Klang Ruler
AAAMYYY、Ace Hashimoto(ex. Odd Future)、足立佳奈など新進気鋭のアーティストをフィーチャリングしたリリース、88risingから全米デビューしたATARASHII GAKKO!のファースト・シングル「NAINAINAI」、山本彩等数々のアーティストプロデュースも手掛ける、Z世代No.1のプロデューサー/トラックメイカーyonkey(Vo)を中心にSimiSho(Dr)、かとたくみ(Bs)らと結成。
ライヴをメインに活動を続け、2019年よりYouTubeにて『MIDNIGHT SESSION』をスタート。同世代アーティストと共に名曲をカバーするこの動画シリーズは、過去の名曲をカッティングエッジなサウンドでアレンジする動画が評判となり、ヒットコンテンツとなっている。
2020年には初シングル「iCON」、空音をフィーチャーした「Be Fin(feat. 空音)」など計4曲のオリジナル楽曲を次々とリリース。同年12月には、渋谷WWWで自主企画ライブ『Magnet+』を開催。Klang RulerがZ世代のシーンを牽引する存在となりつつあることを強く印象付けるライブとなった。
2021年の夏、『MIDNIGHT SESSION』でも共演したアーティスト/ファッションデザイナーのPOLY(Vo)と、サポートギターとしてバンドに参加していたGyoshi(Gt)が正式加入。11月、Rin音をフィーチャリングに迎えた「ビビビバビビ」でメジャーデビュー。
■YouTube:https://www.klangruler.com/
■X:https://twitter.com/Klang_Rulerinfo