複雑だけど複雑には聞こえないアレンジ
──では、曲ごとにお話を聞かせてください。たとえば"クリーチャー"の歌詞は、映画『ダークナイト』からのインスパイアを感じるのですが、実際はどのように作っていきましたか?
yonkey:この曲は「優しい怪物」がテーマです。たとえば映画『シザーハンズ』に出てくる人造人間エドワードのように、外見は「怖い」「醜い」と世間から言われているけど、中身はすごくピュアで、自分がどれだけ社会で罵られていても、大切な人がそばにいてくれれば他になにもいらないという心情を綴っています。もちろん『ダークナイト』も好きだし、ちょっとアメコミっぽい雰囲気も出せたらいいなと思いました。マーヴェルよりはDCコミック寄りの世界観というか(笑)。

──"Crush!"は、人間らしささえ失いかけてしまうほどのハードワークに追われている人たちについての歌ですよね?
yonkey:はい。この曲は、『戦隊大失格』という漫画にインスパイアされていますね。『戦隊大失格』は戦隊ヒーローをモチーフにしているんですけど、全て怪人の目線で描かれていて、ヒーローは実は裏の顔があってスキャンダルまみれっていう話なんですよ(笑)。憧れのヒーローも、実はブラックな環境で戦わされていたりするのかな……などと、そこから想像力を膨らませて書いた曲です。戦隊ヒーローの曲なので、「色」をモチーフにしていて。〈ブラックすぎて頭ホワイト ビルより緑に囲まれたい 金ピカ時計とかいらない 薔薇色人生より普通のライフ〉のところとか、一見カラフルだけど、言っていることはものすごくヘヴィな歌詞になればいいなと。
──"ロストインメモリ"はどのように作っていきましたか?
yonkey:アルバム前半の"クリーチャー"や"Crush!"で、世界観がしっかりと描かれるのに対し、この曲はもっと普遍的かつ抽象的なワードを散りばめ、どんな人が聞いてもそのたちのライフスタイルに当てはめられる曲にしたいと思いました。自分の大切なもの……恋人だったり家族だったり、モノだったり体験だったり、それぞれ思い浮かべながら聞いてもらえたら嬉しいですね。
──続く"きらめき"は、リズムもユニークですよね。ハチロクだけど、そう聞こえないような工夫が施されていて。
yonkey:あ、そこに気づいてもらえたのは嬉しいです(笑)。単純な6/8拍子じゃなくて、そのなかに別のリズムを組み込んだり、途中でリズムチェンジしたり、それでいて複雑には聞こえないアレンジを目指しました。
──やすださんのラップも印象的です。
やすだ:ありがとうございます! いままでラップは全部yonkeyだったし、デモにも彼のラップが入っていたので、そのつもりでいたんですけど「ここ、ちひろさんで」と急に言われて(笑)。
yonkey:こういう、ちょっとポエトリー・リーディングみたいなラップが、ちひろさんには合うかなと思って。
やすだ:やってみたら、思いのほか自然に上手くいきました。ひとつ、自分のなかで新しい挑戦ができて楽しかったですね。
──"飛行少女 - Space Age Edit -"は、昨年2月にリリースした同名曲のアルバム・エディット。実はすごくシリアスな内容の歌詞ですよね。
yonkey:この曲は、「全てがどうでも良くなってしまった少女」をテーマに書きました。僕の学生の時にもそういう子がいたんですよね。〈蹴飛ばしたドア〉とか実際にあった光景で、当時は「同調性のない子だな」と思ったこともあったんですけど、時間が経って振り返ってみると、彼女には彼女なりの事情を抱えていたのかなと思うようになって。彼女目線だと、世界はこんなふうに映っていたのかな? と想像しながら書きました。アレンジを変えたことで歌詞の聴こえ方も変わる、その違いも楽しんでもらえたら嬉しいです。
やすだ:私、すごく感情移入しやすくて……映画でもめちゃくちゃ泣くタイプなんですけど(笑)、この曲も歌詞を見て、主人公の女の子がどういう気持ちで生活を送っているんだろうとか、未来をどんなふうに見ているのかな? とか感情移入しながら歌いました。聴き手の心の状態によって、彼女が抱えていた辛い気持ちを歌う曲に聞こえる時もあれば、未来へ向かって羽ばたく希望の曲に聞こえることもあって。聴いてくださった人にとっても、そういう楽曲であってほしいなと思います。