今回の制作があったからこそ、次作に向けたすべての準備は整った
──前回の『SAKANA e.p.』リリース時のインタヴューでは、セッションに歌をのせたり河合さんがDTM作ってきたデモに後から歌を入れたりといろいろなやりかたで制作するようになった、とおっしゃっていました。今回はまたさらに違った作りかたでしたか?
富樫 : 曲によって違いますね。デモが変化していくかたちもありますし。
河合 : “underdrive” と “Yda027” と “煉獄ex” はセッションが結構でかい。デモがあった上でセッションして、これでいけるなって。あとは細かいところを整えるくらいで。作りかたは前とは大きくは変わっていない──あ、でも、DTMでデモを作ったとき、その曲がバンドでいけるかいけないかの感覚はわかるようになった。
──バンドに対する理解度が高まった?
河合 : そうかも。過去に良いと思って持っていったデモを聴き直してみたら、聴いてらんないってなった。曲に対する認識や感覚だけじゃなくて、現実に鳴っている音に対しても解像度が上がったと思う。現実感のある音に近づいているのかなと。
──現実感
河合 : 俺たちがやっている音がどれだけ現実的なのかっていうところがdowntでは大事だと思っていて。本質をどれだけついているかっていうところ。だから現実と差異がある表現はすごく気になる。
──その本質っていうのはなんでしょう。どれだけリスナーに対して胸を張れるかってことでしょうか?
河合 : たぶんそう。リスナーっていうのは自分のことだけど。出した音がリアルだと思ってるならいいけど、嘘くささがないか突き詰めてる。
──先日〈SYNCHRONICITY’24〉でライヴを観ていて “13月” の後半など特に、来てほしいところに来てほしい音が来る精度の高さを感じました。「引き算の美学」という言葉があって、downtもそう言われがちですけど、そのとき思ったのは引き算じゃなくて足し算では、と。制作のプロセスで出てくる「その音、要る?」という言葉も、なにかを削っているのではなく、なにもない時間と空間にどの音をどこに置くかを考え抜いている。本当に必要な音しか鳴っていないという印象がすごくあります
河合 : もともと「引き算」って言われるバンドが好きではあるけど、そういうバンドとは違うなと思ってる。必要なものをただ当てる。
富樫 : 聴くしかないですね。聴いてどれだけそこに違和感を覚えられるか、いいと思っているものにどれだけ疑問を抱けるか、そこに毎日のように向き合ってました。制作を経てそれを感じられるようになったかなと思います。
河合 : 引き算ってもっと大人。俺らは衝動的な気分でやっているので。綺麗に聴けちゃうものよりも、雑に聴いて「すげえいいな」と思えるものを出したい。まあ、いまは綺麗なものを作ろうとしても作れないんで、洗練とか言っても意味がない。感情とか人間的な部分を足し算していくことでどれだけ表現できているかを考えてる。だから失くしたくないものや手放したらいけないものには注意してる。

──その失くしたくないものってなんですか?
富樫 : でもそれって失くならないと気づけないのかなって。
河合 : それ、なんの漫画のセリフ?
富樫 : いま明確に失くしたくないものがあるのなら、それをずっと手放さなければいいと思うんです。でも結局それが分からないから手放したときにもう遅かったなってなると思うんですよね。
河合 : これは俺の考えだけど、どれだけ “ジャイアン” になれるかっていうのを大事にしていて。「俺たちは俺たちでやりたいことをやるだけで他は知らん」みたいなマインドがあって、はじめて自分がイメージしているような音に近づけるのかなと思っていて。世間に対してどれだけ自分勝手でいれるか、みたいなところなのかなと。
──富樫さんもそういった考えはお持ちですか?
富樫 : さっきお話しした通り『SAKANA e.p.』で私はまさにそうだったし、基本的にはジャイアンなんですけど、私は今回の制作の過程でジャイアンじゃなくなったときがたくさんあって。「これもう合わせれば解決するよね」みたいな思考になったり、弾きたいフレーズもなくなった時期があったんです。そういうブレまくった自分を知ったからこそ、それじゃ駄目だって、いまはわかります。
河合 : でも全部ジャイアンだったら誰も関わりたくないわけで。映画のジャイアンがピンチのときはいい奴になったりするみたいに、その “ジャイアニズム” はきちんと突き詰めたい。
──みなさんバンドをやっていく上での野望はありますか?
河合 : 好きなバンドがひとつでも増えたらいいなって思ってる。自分は「これをやりたい」より「これを聴きたい」のほうが強いって改めて思ったし。俺は好きな音楽を聴きたいから自分で曲を作ってる。お互いの音楽で影響し合って「俺もそれやりたい」って思ったり、誰かが新しいバンドをはじめたり、そうやってかっこいいバンドが増えていったらいいなって思う。
ロバート : バンドでの野望……うーん──例えばバンド・メンバー変わったときに「前のあの人のほうが良かったな」とか、「あの時期のほうが良かった」みたいな話ってよくあるじゃないですか。僕がバンドを辞めるという話ではなくて、そうやって「やっぱりこの人じゃなきゃダメだよな」って思ってもらえるプレイヤーになりたいですね。

富樫 : 私は常に「ざまぁみろ」って言ってやりたいです。過去の自分もそうだし、いろいろなものに対して。そういう気持ちはありますね。
──今回お話をきいて制作に対してかなりストイックだなと感じました。たびたびおっしゃっていた「(曲に対して) 満足していない」と思う根本的な理由はなんだと思いますか?
富樫 : 自分のなかに基準とか合格点があってそこを下げちゃ絶対ダメだって思ってるんですけど、結局、いまのdowntはそこに全然達してないから満足してないっていうだけです。
河合 : マジで達してないと思ってる。
富樫 : そこが達しているのであれば「満足しています」って回答になりますけど、違うので。本当にそれだけですね。
──次作でこそ、それをクリアしたい?
河合 : 次のアルバムで超えないと終わりですよ。したいというより、マスト。その合格ラインを超えないと意味がない。今回の制作があったからこそ、次作に向けたすべての準備は整った。次作は自分たちのなかにあるイメージに辿り着かない限りリリースしないと思う。それはテクニカルな修行が必要ということじゃなくて、自分たちが名盤だと思えたらリリースするという意味。たとえ下手くそなパンク・バンドでも「これだよ」って思える音源が好きなので。

編集 : 梶野有希
再録を含む全11曲が収録された、downtの現在地
ライヴ情報
〈ex リリースツアー沖縄篇〉リリースツアー “downt Release Show” エクストラ公演沖縄2DAYS
〈downt Release Show -OKINAWA FANFARE- DAY-1〉
2024年6月1日 (土)
沖縄 AZAT FANFARE
出演 : downt / unripe
〈downt Release Show -OKINAWA OUTPUT- DAY-2〉
2024年6月2日 (日)
沖縄 OUTPUT
出演 : downt / offseason / AKKANBABYS / Funnynoise
その他のイベントはこちら
〈ERA 22nd ANNIVERSARY Oaiko pre. "つどう"〉
2024年5月18日 (土)
下北沢 ERA
出演 : yeti let you notice / Enfants / downt / sidenerds
〈New Buddy! -Seek Seek Seek-〉
2024年5月25日 (土)
下北沢 5会場同時開催 (MOSAiC / BASEMENTBAR / THREE / mona records / 440)
〈Anyway!! -4th-〉
2024年6月23日 (日)
心斎橋 ANIMA
出演 : ULTRA / Summer Whales / downt / luv / サブマリン / 広村康平 (ペペッターズ) / 周辺住民
2022年11月公開のファースト・インタヴューはこちら
これまでの作品はこちら
downt『III』(2023)
downt『SAKANA e.p.』(2022)
downt『downt』(2021)
PROFILE : downt
2021年の結成以来、東京のライヴシーンを中心に活動し、一躍エモ、オルタナのライヴハウスシーンにて注目を集める存在になったdownt。『SAKANA e.p.』のリリースや〈FUJI ROCK FESTIVAL '22 “ROOKIE A GO-GO”〉への出演、UKのレーベル〈Dog Knights〉からの編集盤レコード『Anthology』のワールドワイドでのリリース (即完売) など、その名を各所に響かせた2022年。
そして〈SYNCHRONICITY〉や〈MINAMI WHEEL〉といった大型サーキットへの出演、ゲシュタルト乙女 (台湾)、Grrrl Gang (Indonesia)、Pswingset (US)、deathcrash (UK) といった多くの海外アーティストとの共演、バンドとしての新機軸を見せた大作『13月』のリリースとその活動にさらに広がりを見せた2023年。
年月と共に着実にステージを上げてきた彼らが待望のフル・アルバム『Underlight & Aftertime』を2024年3月にリリース。
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