リスナーとのコミュニケーションで感じた違和感をなくすべく
──それは “13月” で解決できましたか?
河合 : 俺はひとつの答えだと思えた。
富樫 : もともとは1分半くらいの曲でした。バンドに出す曲ではなく趣味で作っていたものだったので、1年ぐらい聴かせていなかったんですけど。なんかないのって言われて出したら、これいいじゃん、これやろうよって。
河合 : 富樫は「1サビで終わるからいいと思うんですよ」って最初に言っていて。ただ俺はそうは思っていなくて、後半の展開を長くしたくなって。さっき言った『SAKANA e.p.』のときに感じたリスナーとのコミュニケーションの違和感が残っていたので、それをなくすために細かい作業をずっとやって。消したり増やしたりを繰り返してた。
富樫 : すごいメロディアスな、キャッチーなメロディーを歌詞までつけてやってみては、全部バツにして消したり。
河合 : どんどん分からなくなっていって、自分で判断できなくなって、最後の最後、はじめて自分以外を聴き手に想定してみたらうまくいった。俺の友達だったらどっちがアガるかとか。
ロバート : 僕は仕事が終わった後によく深夜練にひとりで行ってました。マイクを立てて、録って、聴いて、メンバーに送って、違うってなってまた録っての繰り返しでした。制作をやっているので当たり前ですけど、すごく寝不足でしたね(笑)。
──“13月” が収録された『III』をリリースしてからは順調にいけたんですか?
富樫 : いや、それがまったくで。いけない期間はずっとその後も続いていました。
河合 : いけなかったね。“13月” は特殊すぎたので。
──“13月” みたいに曲を作ればいいんだ、とはならなかった
富樫 : 嫌ですね。
河合 : いやそんなことはないよ。そんなことないけど、“13月” みたいな曲だけのアルバムは俺も聴きたくないし。もっとラフにやりたいなというのがすごいあって。シリアスなのは背景だけでよくて、実際の制作や作品はもっとラフにしたいと思ってた。
──それができたのはいつ頃ですか?
河合 : 去年の10月、11月くらい。“Whale” のメロディとアレンジが固まったのと “煉獄ex” ができたタイミングが一緒くらいで、そのときかな。
富樫 : あれ、こういうこと? みたいになったね。
河合 : それで “Yda027” もすんなりできた。
──具体的にどういう変化がありましたか?
河合 : メロディのゴリ押しじゃなくなったという点が俺にとっては大きい。バンド全体の表現としておもしろいことができるって、ようやく思えた。
──前2作はどうしても富樫さんのギターと歌メロが前面に出ている印象がありますが、今回の『Underlight & Aftertime』は三本足でガシッと立っていて、かつ、その重心が低いアルバムだと思います。このアルバムに再録曲を入れようと思った理由は?
河合 : 前の音源はいまライヴでやっている表現と遠い感じがしていたので、再録したかった。レコーディングをした〈ツバメスタジオ〉での音像やライヴでの表現をもっと落とし込めると思ったし、“AM4:50” と “mizu ni naru” の2曲は録りたい表現やサウンドのイメージが明確にあった。
──同じく再録の “111511” は?
河合 : 再録はしたけど、最終的には俺がイメージしていたものと違う感じになった。
富樫 : これもひとつの経験ですね。「絶対に今日のこの時間までに録り終わらなきゃ」「もうすべてが間に合わない」みたいな焦りがすごくあって。わたし時間に追われるのが大嫌いなんですけど、そんな感じのレコーディングになってしまって。でもこれが結果です、っていうお話ですね。

──それでも今作に収録したのはなぜでしょう?
富樫 : 歌は変わったと思うんですよ。
河合 : そうだね。名盤を作ろうみたいな気持ちで今作を作っていたらこの曲は入れなかったけど、とにかく発信することを優先した結果。この先もすごく良いものを作りたい気持ちがあるので、発信することが大事だから。
──なるほど。再録の “111511” のヴォーカルはラフな印象がありました
富樫 : そうですね。機械的にはなりたくないとはいつも思っていて。
──ファースト・アルバムのヴォーカルは “よそゆき” な感じがしていました。でも今作のヴォーカルは一転して生々しさがあります
富樫 : 『downt』はカラオケで歌っている感じ。ライヴをやっていくうちに変わったんでしょうね。
──富樫さんはそもそも歌うことが好きなんですか?
富樫 : 好きです。けど昔は恥ずかしくて歌えなかった。「もっと上手い方はいっぱいいるし」って、歌を上手い下手で判断していたんです。でもそういう問題ではないじゃないですか。自分で曲を作ってみたときに、やっぱり自分で歌いたいと思って、ヴォーカルをやろうと決めました。
──歌おうと決めたのはdowntを結成した頃ですよね。歌への気持ちはいま強くなっていますか?
富樫 : はい、もっとあります。ずっと歌っていたいです。歌はすごい力を持っていると私は思うので、大事にしていきたいです。技術の問題ではなく、歌から溢れ出るエネルギーってすごいと思うんです。
──“underdrive” や “Whale” などライヴで声を張って歌う曲がでてきた点も変わりました
富樫 : そうですね。私は歌のメロディがすごく好きなんです。でもこのアルバム作っていくうちに、私自身、ヴォーカルとオケとの遠さを感じるようになりました。メロディだけ独り歩きしている場面が多かったりしたかな。そういうことを一歩引いて考えるように、歌も音としてバンドのサウンドにどれだけ馴染ませるかを考えるようになりました。
──その変化を受けてベースとドラムはどう変わりましたか?
河合 : そこはいまも俺らの課題です。富樫からいい歌メロがたくさん出てくるけど、それに対して俺らが表現できるものが少ない。いまのままではバンドを続けられないので、そこをもっと増やしていかないとまずいと思っている。“紆余” も後半は別のメロディーを想定していたけどうまく昇華できていないし、AメロやBメロもあまりハマっている気がしないので。譜割りではなくて、俺たちの表現の問題なんだろうなって思ってる。
ロバート : 僕も試行錯誤している感じが強いですね。スタジオで鳴った音に対して、どうドラムを当て込んでいったらいいかはやっぱりまだ甘いところが多くて。まだ3人で合わせるよりも前の段階で悩んでいる感覚ですね。ドラムをやる上での先入観がまだ残っている気がしていて。
富樫 : いやでも “紆余” に関しては、できたオケに対して言うと、もっとハマるメロは確かにあるよ。
河合 : いや、もっとハマるオケがあるんだよ。
富樫 : それも然り。でもそのチグハグさもいいんじゃないかな。
