藤井洋平 『Extasy』
前作『Banana Games』から10年ぶりとなる3作め。デビュー時から激推ししてきたceroの荒内祐が共同プロデューサーとして支えるシンセサイザー・オリエンテッドなグルーヴィ・サウンドに乗り、喉を詰めた低音とファルセットがナルシスティックな巻き舌で性愛と聖愛をド真剣に歌い上げる。「イマジネーション/メディテーション/マスターベーション/コンフュージョン/どれも似たような言葉だから/僕には区別つかない」( “意味不明な論理・方程式” )のテーゼを執拗に繰り返して丸め込む強引な説得力も、「Can't Stop the Music/暗黒時代を生き抜くために」(“Can't Stop the Music”)の純粋な音楽賛歌も、まさに「洋平ちゃん」の世界だ。プリンスと岡村靖幸(とロジャー・トラウトマン)の正嫡子と呼びたい。
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ユニコーン 『クロスロード』
メンバーの若き日の歌声を学習させたAIに5人それぞれが「あのころ作っていたような曲」を歌わせたEP『ええ愛のメモリ』をまずリリースし、その5曲を現在のユニコーンがカヴァー(?)した11曲入りのアルバムを翌月にドロップ。今なお盛んなアイデアに頭が下がる。 “OAW!” は “WAO!” 、 “ネイビーオレンジ” は “Maybe Blue” と、そもそもがパロディ曲だからひねりは二重に利いているわけだ。 “オラ後半戦いくだ” がEPでもアルバムでも真ん中にあるのが笑える。再結成以降のキャリアのほうがずっと長くなったが、得意技でお茶を濁さず愚直にクリエイティヴィティを磨き続ける姿は欧米の再結成バンドと比較しても破格で、端的に解散前よりもバンドとして向上していると思う。 “100年ぶる~す” のおっさん合唱には図らずもグッときた。
吉澤嘉代子 『若草』
青春をテーマにしたEP2連作の第1弾で、まとまった作品は『赤星青星』(2021年)以来。さほど長いブランクでもないのに不思議と久しぶりのような気分で聴いた。映画『アイスクリームフィーバー』に言寄せて「霜焼け」をキーワードにした “氷菓子” と「青春なんてすり抜けてから気づく」の一節が阿久悠のような “青春なんて” のウェルメイドなポップ・ソングで始まり、バンド一発録り(?)の “セブンティーン” を経て、楽しげに趣向を凝らした “ギャルになりたい” からパーソナルで率直な感触が強まっていく。ラストの “抱きしめたいの” では聴き手の心も主人公にシンクロし、せつなさの極みへ。歌詞にも旋律にもヴォーカルにも「嘉代子節」ともいうべき唯一無二の語り口を持っていることを再確認。次作も楽しみだ。