15年かけたインスタレーション作品
──DISC2のスペシャル・トリビュート・プロジェクト「忘れらんねえよを歌ってみた」はちょっと予想外の人選でした。橋本さん以外のアーティストはどうやって決めたんですか?
柴田:これは、樋口健さんという忘れらんねえよの元マネージャーさんが俺らのライヴを観てくれたときに、「メロディがめちゃくちゃいいから、例えば女性のすごい歌い手に歌ってもらったらめちゃくちゃ世界が広がるんじゃない」っていうアイディアを出してくれたのをきっかけにやってみたんですよね。だから広いところに届く声を持ってる人っていう、ルールでお誘いさせてもらいました。
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──まず、安藤裕子さんの“知ってら”は、歌詞も変わってるし完全に世界が変わっていて驚きました。
柴田:一番やばいでしょ? 怖いでしょ、ヤバすぎて。これは、「アンサーソングにして良い?」って連絡が来て、「もう好きにやってください」って返したら、とんでもない曲が送られてきた(笑)。元の俺の曲はやっぱり独りよがりなんですよね。俺が思ったことを書くっていうルールでやってる以上、俺の歌詞は全て独りよがりなんですよ。俺は基本的に相手の気持ちが、特に女性の気持ちが全く考えられないらしいんです。
──それは誰かに言われたんですか?
柴田:この前、眉村ちあきさんと何人かで飲んだときに言われたんですよ。ちょっと話は逸れますけど、俺は「純粋性と狂気性がない」っていうことがずっとコンプレックスだったんです。結局俺は普通のやつで、酒を飲んだときにしか狂気になれないって思っていて、つい最近眉村さんと飲んだときにその話をしていたんです。眉村さんは狂気性と普通の人のハーフみたいなところがあって、俺はそこに憧れるって言ったんですよ。そしたら、眉村さんが「柴田さんは全然わかってない」って言うんです。確かに柴田さんは普通の人だけど、こと恋愛においてはあんた狂ってるぞって。なんでその年で中学生レベルなんだって。なんで一切成長してないんだって。毎回忘れらんねえよの曲を聴いているけど、本気で何もわかってないって。この間私に話してくれた恋愛相談も、全部間違ってるって(笑)。
──えらい言われようですね(笑)。
柴田:いやでも、それは誉め言葉で言ってくれてるんです。「柴田さんは女性の気持ちがわかってないし、きっと一生わからない。でも私はそこにすごく狂気があると思って、めちゃくちゃ尊敬してる」みたいなことを言われて、「ああ、俺にも狂気性があった」ってものすごく嬉しかったんですよ。「忘れらんねえよが好きな人はたぶんそこに共感してるし、変だな、面白いなと思ってるし、そこは誰にも似てないですよ」とも言ってくれて、本当にちょっとコンプレックスが消えたんですよね。その狂気の男が書いた“知ってら”を安藤裕子さんはアンサーソングとして狂気で返してきたんですよ(笑)。
──安藤さんは〈ツレ伝フェス2023〉にも出演していましたけど、元々どんなきっかけで交流が生まれたんですか。
柴田:3年前ぐらいに弾き語りイベントがあって、そのときに共演したのが最初です。そのとき、好きな子に彼氏ができたって知った3日後ぐらいだったんでめちゃくちゃ落ち込んでたんですよ。それで、初めて会ったのに安藤さんにその話をしたら、親身に相談に乗ってくれて。だから、“知ってら”のカバーも、「違うんだよ、あなたが〈消えてしまうんだ〉って言ってるのを見て、相手の女性は、〈また君は独り いじけてる 変わんないよね〉って思ってるんだよ」って歌ってくれてるんです。要は恋愛相談なんですよ、これ(笑)。

──なるほど(笑)。続いて声優・歌手の田所あずささんによる“アイラブ言う”。田所さんには、柴田さんから曲を提供していますよね。
柴田:田所さんも、すごく変わった人なんですけど、やっぱり本物なんですよね。特に、2曲目に提供した“ころあるこ。”って、田所さんにガッツリインタビューして思ってることをどんどん引き出して深層心理を聞いて歌詞にした曲なんです。見た感じはほんわかしてるんですけど、ファンから「みんなの田所あずさ」を押し付けられること、純粋でちょっと天然でドジッ子みたいなイメージを押し付けられてることが、〈ああうぜー、分かってねーなー〉ってほんわかした感じで怒ってるんですよ。そこがアニメや声優さんが好きな界隈でトガった存在としてめちゃくちゃ受けてるんだと思う。そこに届くキャラクターと声を持ってるんですよね。だから絶対田所さんにお願いしたいと思ってました。
──曲は田所さんが選んだんですか?
柴田:いや、こちらから“アイラブ言う”をやってもらいました。オタクたちを悶絶させようと思って。忘れらんねえよのメンバーで演奏して、自由にのびのびと歌ってもらいました。
──アーティスト側から、これをやりたいと言ってきた曲もあったんですか?
柴田:NakamuraEmiさんは以前から “犬にしてくれ” をライヴのサウンドチェックとかでやってくれていて、好きって言ってくれていたんです。だから途中の語りのところまでやってくれました。なんでこの曲がこうなるんだっていうぐらい、オシャレな曲になってます。そういえば、“犬にしてくれ”ってバンドマンもそうだし、なぜかモノを作ってる人たちに人気があるんですよ。この曲ってそれこそ「当てに行っていた」時期、左脳で書いてた時期に書いた曲だから不思議ですよね。でも俺、今までの曲を全部今の歌唱で録り直したいんですよ。
──そうなんですか? でもそれこそファーストアルバムのあの雰囲気って、ちょっと今は出せないのでは?
柴田:出せない、出せない。あれは奇跡だと思いますよ。それで言うとセカンドもサードもあの感じは出せないんだけど、特にファーストはいいですよね。一生懸命な棒歌いで、なのに感情が伝わってくるじゃないですか。あれは二度とできないですよ。でも一方で、今の歌唱で全部録り直してそれはそれで聴いてみたいって自分で思うんですけどね。
──“バンドやろうぜ” はネクライトーキーがカバーしています。
柴田:これも最初に聴いて鳥肌が立ちました。ギターの朝日くんとボーカルのもっさちゃんの才能がめちゃくちゃ出てるなと思って。あと単純に声がいいですよね。切実にサビを叫んでる感じがあって、なんて美しいんだろうって。
──“バンドやろうぜ” 自体、美しい曲ですよね。
柴田:うん、これこそフラカン先輩の “深夜高速” みたいに、15組ぐらいに全員 “バンドやろうぜ” をやって欲しいですね。THEラブ人間がやったらもっと泥臭くなるだろうし、竹原ピストルさんがやったらまた違う味わいになりそうだし。挨拶しかしたことないけど。

──“CからはじまるABC” についてふと思った疑問なんですけど、〈拝啓、俺のエレキギター いつか聴いてくれませんか〉って歌ってるところ、なんでこれ「歌を聴いてくれませんか」じゃなくてエレキギターなんですか?元々バンドのギタリストだから?
柴田:(しばし沈黙)なんでなんだろう?でもあそこは〈エレキギター〉以外ないんですよね。あのときは「俺の歌を聴いてくれ」じゃなかったんだよなあ。なんでだろう?わかりません(笑)。
──ライヴでは毎回盛り上がる曲ですけど、特に橋本さんと共演した〈ツレ伝フェス2023〉ではものすごかったですね。
柴田:エモかったですねえ。でも〈ツレ伝フェス2023〉の本番中はずっと「しっかりやらなきゃ」っていう意識があったので、「ウォォ~!」っていう感じじゃなくて、むしろゲネプロのときにスタジオでえっちゃんと一緒に合わせたときに泣きそうになりました。〈ツレ伝フェス2023〉は一大行事だったし、出演バンドが最初から大切に繋いできてた感じがあったから、トリの忘れらんねえよが一番良いライヴをやらなきゃダメじゃないですか?そのことをずっと考えてたから、そこにドラマはあんまり入り込まなかったんですよね。
──でも本当、あのときは曲中に入るお客さんのコールとか、狂ったよう盛り上がってました。それぐらい、デビュー曲から忘れらんねえよをずっと聴いてきたファンにとって、橋本さんと歌う “CからはじまるABC” は特別で大切な瞬間だったんですよ。
柴田:それはとっても幸せなことです。すげえ表現だと思う。15年前に曲を書いて、その曲に書いたことが15年後に現実に起きるのを鑑賞するっていう、なんかもう現代アートですよね。15年かけたインスタレーション作品。
──『いまも忘れらんねえよ。』は記念すべき作品になったと思いますけど、今の忘れらんねえよの夢って何ですか?
柴田:やっぱり、武道館には行きたいです。簡単じゃないとは思うけど。あとはもっと見つかりたいです。「なんで気づいてもらえないんだ」っていう悔しさやもどかしさもありますから。そのために自分はとにかく「歌がすげえヤバいやつ」になるのが、今の夢というか目標ですね。そしたらいつか打席に立ったときに、でっかいホームランを打てるんじゃないかなって。一番やるべきことは、「すごい歌手になる」っていうことだし、それは楽しくやれているので、これからも歌と向き合っていきたいと思っています。

編集 : 藤田琴音
ディスコグラフィー
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LIVE INFORMATION
〈15周年集大成ワンマン 忘れらんねえよのすべて〉
2023/12/21(木)名古屋CLUB QUATTRO
OPEN18:00 / START19:00
スタンディング¥4,500 (税込/整理番号付)ドリンク別
問合せ: ジェイルハウス 052-936-6041
2023/12/22(金)梅田CLUB QUATTRO
OPEN18:00 / START19:00
スタンディング¥4,500 (税込/整理番号付)ドリンク別
問合せ: GREENS 06-6882-1224
2024/1/10(水)Zepp Shinjuku (TOKYO)
OPEN18:00 / START19:00
スタンディング¥4,500 (税込/整理番号付)ドリンク別
問合せ: エイティーフィールド 03-5712-5227
PROFILE
“2008 年結成。メンバーはVo&Gt 柴田隆浩のみ(他のメンバーは全員脱退)。
2011年TVアニメ『カイジ』のENDテーマとなった「CからはじまるABC」でメジャーデビュー。 2020 年12 月には中野サンプラザで自身初のホールワンマンライブを開催し、成功を収めた。
「ROCK IN JAPAN FES」「COUNTDOWN JAPAN」など大型フェスにも多数出演中。 また、中山美穂、菅田将暉、のんをはじめとするアーティストへの楽曲提供も行っている。
オフィシャル・ウェブサイト
https://www.office-augusta.com/wasureranneyo/
公式YouTube
https://bit.ly/3CjRpQf
公式Twitter
https://twitter.com/wasureranneyo