このバンドでは自分の好きなことを、歌いたいことを歌えている
──「たかが音楽」というのは、“No more ステートメント”の歌詞にも通じますね。この曲が先行配信された当時はコロナ禍ど真ん中で、なにかと表現に意味が求められていた時期に「いや、ただの音楽だが?」みたいな。痛快でした。
やっぱりそれはずっと思っていることで。『Tell Your Story』とか偉そうなことを言っているけど、たかが音楽なんですよね。たぶん、アルバム収録曲のなかで最初にできたのが“No more ステートメント”か“PICK A FIGHT”なんですよ、これが3回目の録音になる“Discommunication”はさておき。だからコロナ禍バリバリのなかで「たかが音楽」と思って、以降もそう思い続けながらも、そのなかで自分なりに足掻いてきたものが、そのあとにできた歌詞に入ってきているのかな。その結果『Tell Your Story』というタイトルにしたけれども、どこまで行っても「たかが音楽」でしかないというか。特にライヴにおいては、“R.I.P”は別かもしれへんけど、それ以外の曲ではなにも考えずに遊んでいてほしいんです。結局のところ「どっちやねん?」って話やけど。
──無責任なことを言いますけど、どっちもあっていいんじゃないですか。
意味を持たせたいような、持たせたくないような、なにが音楽なのかちょっとだけわからなくなってきてますけど、たかが音楽とたかが音楽じゃない音楽の両方があっていいんですかね。
──少し話が逸れましたが、“I don’t TRUST”は演奏もミニマルでかっこいいですね。飯田さんがリフを、もんでんやすのり(GROUNDCOVER./サラダマイカル富岡製糸場グループ etc.)さんがビートをひたすら刻むだけっていう。
“I don’t TRUST”もわたしが作った曲なんですけど、とにかくなにもしてほしくなくて。これはわたしがただ怒っている曲だし、自分の感情だけを乗せたかったから「いらんことはしないでください」って(笑)。でも、これが「いらんことはしない」の限界なんかな。
──ちなみに“WORLD’S END”と“I don’t TRUST”のほかに、Yukariさんが作った曲は?
“INVITATION”ですね。といっても、もともとわたしが持っていった原案とは全然変わっていますけど。

──“INVITATION”といえば、サックスのこまどり(schedars)さんも歌っているという。
そこ、大事ですよね。
──こまどりさんがリミエキに加入したのは2020年で、けっこう経ちましたが、どうですか?
こまどりくん、変わってるからなあ… でも、なんかいいバランスですよね。人としてパンチあるし。あの、別に頼りにはせえへんけど。
──頼りにはしない(笑)。
サックスも派手に吹いてくれるし、こまどりくんの音色はポップな感じではないけれども、彼がいることですごいポップさが出るんですよ。それって人柄とか人間性も関係してるから、いてくれてよかったなと。
──ライヴを観ていても、こまどりさんは常に100%ですよね。
本当に手を抜くことを知らんし、そういう人が横にいると「負けてたらいかんな」と思わされますね。こういう言いかたは失礼かもしれないけど、こまどりくんの生きていくことに不慣れな感じがわたしは好きだし、あの不器用さみたいなものが魅力というか。わたしはけっこう器用になんでもできてしまうので、こまどりくんのそういうところを見習いたい… っていうと違うけど、そういう不器用さとかひたむきさって、軽んじられたりすることも多いと思うんです。でも、彼はそれを全部プラスに変えてるように見えるし、尊敬してますね。そこにイライラすることもあるんですけど(笑)。
──ええー(笑)。
この間もそれで喧嘩して、わたしはめっちゃ怒ったんですけど、こまどりくんはわたしがめっちゃ怒っていることに気づかず終わるっていう。でも、それも含めて本当にまっすぐやし、絶対嘘ついたりしないじゃないですか。そういう尊さは、いままでのリミテッドの4人にはなかった要素なので、それは音にも表れていますよね。音楽って不思議と“人”が出るし、わたしも生きることとか人に対して怠けていたらそれが音に出そうやから、気を引き締めないと。
──また脱線してしまいましたが、“I don’t TRUST”と同じく“HATER”も怒っているというか、「怒るべきときにちゃんと怒っていくよ」というメッセージが込められていて。
わたしが怒っていると「まあまあ」とたしなめられることが多いんですよ。でも「まあまあ」なんて言われたくないし、「まあまあ」って言う人ほど口先だけやなと思っていて。わたしとわたしの家族のことを知っている人はわかるかもしれませんけど、〈口先だけは SHIT〉とか〈裏切り者はだぁれ? 信用したマイサイド〉って、谷ぐち(Yukariの夫)のことですからね。
──(笑)。
だからすごく個人的な、自分のマイサイドの話やけど、世の中にはそれ以外にも裏切り者のマイサイドがはびこっているじゃないですか。それに対して怒っていたんでしょうね。
──“HATER”は怒っているけど、曲はポップなんですよね。
すごい迷ったんですよ。ポップな曲にこういう歌詞を乗せていいのか、もっと荒ぶった曲のほうが合うんじゃないかって。でも、なんかうまく落ちましたよね。なんでかわかんないですけど… もう、あんまり覚えてないな。こんなんじゃ、聞き甲斐ないでしょ?
──そんなことないですよ(笑)。まあでも、ミュージシャンのインタヴューをしていると「聴き手が考えているほど、作り手は考えていないんだな」と思うことはたまにあります。僕は、例えば“EDUCATION”ならYukariさんが母親であることも考えてしまいますし、あるいは“BET ON ME”では歌詞に〈プリンセスカグヤ〉〈スノーホワイト〉〈マーメイド〉と、物語の女性主人公が出てくる意味を深読みしてしまうんですけど。
“EDUCATION”はなんだっかなあ… なんか、「つまんないな」って思ったんじゃないですかね。
──つまんないというのは、生活とかですか?
そうそうそう。でも、この“EDUCATION”の歌詞の感じって、自分のなかで永遠のテーマみたいになっているというか、わたしが歌詞を書くようになったときから脈々と歌い続けているラインのような気はしていて。雑に言うと「ちっちゃくまとまっていたくないよね!」みたいな。40代になってもまだそんなこと言ってるけど、これからもずっとそうなんでしょうね。“BET ON ME”は、たぶん「女の子は待たされてばっかりやな」と思ったり、「女の子らしく」みたいな言いかたに対して「まだそれか!」みたいな。
──そういうの、いつなくなるんですかね。
ね。なにを見てそう思ったのかは忘れちゃいましたけど。ともあれ、このバンドでは自分の好きなことを、歌いたいことを歌えているというか。いままで1回も、メンバーから「その歌詞はやめてくれ」とか「ここは変えてくれ」とか言われたことがないんですよ。興味ないんかな? でも、やっぱり歌詞によってバンドの世界観が作られていく部分って大きいじゃないですか。その部分を一任されているのはすごくありがたいですよね。あと、わたしはメンバーの顔を見ながら歌詞を書かないから。
──ああー(笑)。
逆にニーハオ!!!!では、めっちゃメンバーの顔を思い受かべるんです。「ここは誰々っぽくしよう」とか「こうしたら誰々っぽくなるかな?」って。でもリミテッドでは、残りの4人のことはこれっぽっちも考えない。だからこそ、ライヴでもレコーディングでも勝手に、自分らしく歌えているんですけどね。

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編集 : 高木理太
DISCOGRAPHY
LIVE SCHEDULE
アルバムリリース・ワンマン・ライブ 『Tell Your Story』 release party!
2023年10月9日(月)@新代田LIVE HOUSE FEVER
OPEN 12:00 START 12:30
チケット:
一般 adv. 3000円 / DOOR 3500円
U22 adv. 1500円 / DOOR 1750円
2023年9月15日(金)@渋谷LUSH
2023年9月17日(日)@鹿児島SR HALL
2023年9月18日(月・祝)@福岡UTERO
2023年10月21日(土)@大阪南堀江SOCORE FACTORY
2023年10月22日(日)@名古屋HUCK FINN
PROFILE
Limited Express (has gone?)
2003年、US、ジョン・ゾーンのTZADIKから1st albumをリリースし、世界15カ国以上を飛び回る。その後、memory labより2nd album、best albumをリリース。DEERHOOF、WHY?、MY DISCOなどの海外バンドともツアーを回るなど、名実共に日本オルタナ・パンク・シーンで活躍するバンドへ。ステージ狭しと駆け回るボーカルYUKARIの存在感と、それぞれ他のフィールドでも活躍する各メンバーによる激しいパフォーマンスは常にフェスやライブハウスの着火剤。Have a Nice Day!、2MUCH CREW、ロベルト吉野などとコラボを重ね、2020年ミニ・アルバム『The Sound of Silence』を発売し、ニュー・アルバム『Tell Your Story』を2023年8月にアンダーグラウンド・パンク・レーベル、LessThanTVよりリリース。
【Official HP】
http://www.limited-ex.com