その場限りでもいいから「それ、めっちゃ嫌やな」と言ってあげることが大事
──“PICK A FIGHT”と同様に、K-POP的な“WORLD’S END”も新鮮でした。Yukariさんのボーカルもめちゃくちゃかっこよくて。
あ、それはうれしいです。“WORLD’S END”はけっこうアルバム制作の後半にできた曲であり、完全に最近のわたしの趣味に偏った曲ですね。これはわたしが作ったやつです、たぶん。
──たぶん?
リミテッドの曲は飯田か谷ぐちかわたしが持ってきた原案みたいなものから作っていくんですけど、どんどん変わっていくから。この曲はちょっと、いつものわたしらしくない感じではありますよね。
──先ほどボーカルがかっこいいと言いましたが、セクシーでもあります。
やっぱり腹から声を出すほうが楽しいから、この曲でもその方向でいきたかったんですけど、いろいろ録っているうちにそうじゃないほうがハマりがいい気がして。このノリをライヴで表現できるのかわからないですけど(笑)。
──そういうボーカルの実験というかトライアルは、どの曲でもやっているんですか?
めっちゃやってますね。たぶん『The Sound of Silence』あたりまでは1フレーズで5、6パターンは試していたんですよ。ここはワイルドにいくか、逆にウィスパーでやってみようとか、シャウトの仕方も甲高くいくのかそうじゃないのかとか。そういうニュアンスの付けかたも含めて、1曲のなかで何回もやっていくなかから選んでいたんですけど、今回はその回数が減ってはいます。以前よりは、曲を作っている段階でその曲にハマりそうな声の出しかたとかトーンが少しわかってきたんでしょうね。アルバム『Perfect Me』(2019年)ぐらいから歌いかたのパターンをいろいろ試して、ちょっとずつできることも増えてきて。だから回数を重ねた結果、最小限のトライアルで済むようになってきたのかも。

──バンドの演奏も、どの曲でも相変わらずタイトですね。
楽器に関していえば、何回も録って、いい演奏になったテイクを選ぶじゃないですか。そのなかでどうしてもうちのバンドは、簡単に言うとBPMが速くなる、つんのめったビートになるときのほうがグルーヴが出ることが多いんですよね。それがいいテイクだと判断されて採用されるんですけど、あとで「もうちょっとテンポを抑えて演奏すればよかったな」と思う曲は何曲かあって。例えば“ラーメンライス”とか“EDUCATION”は「せっかくの録音なのに、こんなバタバタした曲でよかったんかな?」みたいな気持ちはあります。
──つんのめった感じはリミエキらしさのひとつだと思いますけど。
それでいいと思い始めてる部分もいまはあって。なんでかっていうと、秋にワンマンをしようというのでひさびさに昔の曲を聴き直してみたら、だいたいの曲が「やっぱテンポ遅かったな」みたいな。もちろん、ライヴで繰り返しやっていくうちに5人の体感とか曲の解釈が変わっていったからというのもあるけど、「もっと遅い感じで録音すればよかったな」「速すぎたな」と思う曲ってないんですよ。時間が経てば経つほど。やっぱりこのバンドは、つい乱暴さに頼ってしまうというか(笑)。
──乱暴さに頼る(笑)。
勢い任せみたいなところがあるから。いや、わたしはそれでいいと思ってるんですよ、アホみたいで。だけど飯田と谷ぐちはちょっと嫌みたいで、ちゃんと演奏はしたいらしい。だから勢いを出そうとしてバッタバタになるのがリミテッドのいいところであり悪いところでもあって、そこをいかにクリアにできるか、もうちょっと大人になれるかみたいな課題はあるんですけど… まあ、いいんです。わたしは演奏を聴いていないんで(笑)。年甲斐もなくバタバタしているのがわたしは好きやし、心のなかでは「もっとやれ」と。
──ちなみにいま曲名が出た“ラーメンライス”って、Yukariさんの好物なんですか?
いや全然。なんか、この曲を配信するとき飯田がプレス用にリリース資料を作ってくれたんですけど、そこに「Yukariのラーメンライスへの思いを綴った曲」と書いてあって。
──それヤバいですね(笑)。
いやいや、そんなわけないし、そんな歌おかしいやん? だから「それは誤解を生むし、そもそもそんなこと歌ってない」と言って直してもらったんですけど、この曲はどうしてもタイトルに引っ張られますよね。ラーメンライスに意味があるとしたら、ただハイカロリーな、炭水化物のモンスターというだけ。
──ラーメンライスへの思いを曲にするなら、谷ぐちさんのほうが向いてそう。
そうそう。FUCKERの曲だよね。
──歌詞に関して「個人的な感情も出していい」というお話がありましたが、それがいまの社会と重なっている、あるいはプロテストになっているパターンもありますね。“I don’t TRUST”や“HATER”がその好例だと思いますが。
いまのところ、わたしがなにか発信できるとしたら音楽活動を通してのみというか、ここが自分のフィールドなので定期的にそういうことを歌いたくなるし、歌っておきたい。特に“I don’t TRUST”はたぶん、このアルバムに『Tell Your Story』というタイトルをつけるに至るキーポイントになった曲で。言ってしまえば、この歌詞は自分の身に起こった実話なんですよ。本当に納得いかないことがあって、それを歌詞に落とし込んで消化しようとして、完全に消化できてはいないけど、とりあえずひとつ外に出したみたいな。ほかの曲にしても、背景には自分に関係する事件とか出来事がそれぞれあったりして、1個1個が自分の物語になっていたんですよ。それを誰かに話したいというか、自分だけで持っておきたくなくて。
──はい。
その物語って、必ずしもうれしいことばかりではないし、むしろつらいこととか社会に対する憤りとか所在なさとか、そういうものもあったりするんです。だけど、それって程度の差こそあれ、誰にでも当てはまるんじゃないかと思って。まずはわたしの物語を12個出すから、13個目は「あなたの物語を聞かせてね」という意味を込めて真っ白なジャケットにしたんですよ。「ここはあなたの物語のためのスペースです」みたいな、余白を設けるイメージで。そのときに「ああ、そのために配信シングルも1曲ごとに違うジャケにしてたんや」って。いや、絶対違うんですけど、後付けでそう考えたら自分のなかでしっくりきたんですよね。
──いま「誰にでも当てはまる」とおっしゃいましたが、Yukariさんの物語でありながら自分の物語を代弁してもらっているような感覚もあって。「ですよね。ムカつきますよね」みたいな。
別に、誰かになにか特別なことをしてほしいわけじゃないときって、いっぱいあるじゃないですか。ただ話を聞いてもらうだけでいいとか。そういうとき、その場限りでもいいから「それ、めっちゃ嫌やな」「かわいそうに、よくがんばったね」「わたしの大事なあなたが傷つけられて、あなた以上にわたしは怒ってる」「わたしはその人のことを許さない」と言ってあげることが大事だなって。簡単に言えば聞き上手ってことなんですけど、もう少し重く受け止めたいというか、寄り添いたいなとちょっとだけ思うようになってきたんですよね、最近。
──なるほど。
もちろん、わたしの作っている音楽なんかで、たかが音楽でそこまでできるとは思わないですけど、そういうスタンスではいたいんです。だから「あなたにも話せるところがきっとある」「まだ話せなくても、わたしには聞く用意があるよ」みたいな感じのモノ作りとかライヴをしたいんですよね。まあ、無理ですけど。
──そんなことないですよ。
無理ですよ。こんなギャーギャー歌っているだけじゃ。ただ、音源を聴いたりライヴを観てくれたりする人の1000人にひとりぐらいになんとなく響いたらラッキーというか。「わたし、生きててよかったかな」とか自分で思えるかもなって。
──Yukariさんは嫌がるかもしれませんが、僕はYukariさんのことをエンパワメントの擬人化みたいに思っていますよ。
本当ですか? いや、実は昨日もそういうふうに言ってくれた人がいて、それはめちゃくちゃありがたいし、素直にうれしいです。だから、めっちゃハードル高いけど、そう思ってくれている人に対して恥ずかしくないような存在でいたい。偉そうに言うと、そういう存在でないと意味ないなと思っている部分もあります。もちろんステージに立つ人はそれぞれいろんな意味とか価値を持ってるから、みんながみんなそうじゃなくていいんですけど、自分がステージに上がる場合はそうじゃないとやる意味がない。でも同時に「いや、たかが音楽でそれやる意味ないやろ?」という気持ちも… なんなんですかね?
──天邪鬼?
うん、そうですね(笑)。
