2022/09/24 20:00

INTERVIEW : 青い(葵)

「まだインタビューに慣れていないので、言葉が足りないかもしれません」と担当者から事前に説明を受け、葵に会った。ソロ・デビュー直前のインタビューなので、当然のことである。しかし彼女は、これまでのドラマー活動と、これからスタートするソロ・プロジェクトについて、とても真摯に話してくれた。言葉に詰まった時は、事前に準備してくれたのであろう自作の取材メモを確認しながら、常に自分なりの言葉で想いを伝えてくれた。ドラマーの葵とドラム・ヴォーカルの"青い"、どちらも本当の彼女だ。それぞれの魅力が存分に伝わってくれることを願う。

インタヴュー・文:梶野有希

ドラマーとしての自分を知ってもらうために、世の中に自分を発信していこう

──ドラマーとしての生い立ちを教えてください。まず目指したきっかけは、自分も天才キッズになりたかったから...?

:そうなんです(笑)。私が小学生の頃、テレビで天才キッズがよく特集されていて。それを観て、「私もなりたい!」と思ったんです。姉の影響もあり、最初はピアノに挑戦したんですけど、自分にはあまりあっていなくて...。ドラマーの天才キッズ特集もあったので、「ドラムならできるかも」という好奇心だけで、まずレッスンに通いはじめたんです。最初は段ボールを叩いていたんですけど、その時からすごく楽しくて。

──そこから高校生になるまで、ずっとひとりでドラムを叩かれていたんですよね。

:ただ黙々と技術を高めようと、本当にドラムだけをずっとやっていましたね。当時は憧れのアーティストがいたわけでもなく、自分対自分の戦いでした。

──やめたいという気持ちはなかった?

:小学4年生のころ、ドラムの先生に怒られた時は「うわ、やめようかな」って一瞬思いましたけど、本当それくらいで。「有名なプロドラマーになる」という目標があっただけで、学生の頃は将来について深く考えていなかったんだと思いますね。でも専門学生になってから、「プロドラマーってどうやってなるんだろう」と少し悩みはじめたんです。

──自分の将来や、他のドラマーを意識しはじめたんですね。

:焦りましたね。専門学校に入るまでは、スクールから出される課題とひたすら向き合っていたので、流行りの曲とかも知らなくて。そんな自分が恥ずかしくなって、専門学生になってからは幅広く色々な曲を聴きはじめました。

──専門学校に入ってからはライヴにも出演しはじめたそうですね。視野が一気に広がったかと思いますが、どんなことを感じました?

:高校の文化祭にでた時に、誰も私を観てくれなかったんです。どうしてだろうと思ったんですけど、あとで映像をチェックしたら、すごくつまらなそうに叩いていて。当然誰も見てくれないよなって...(笑)。そこから技術だけではなく、パフォーマンス面も意識しはじめたんですけど、そこからもっとドラムが楽しくなりましたね。

──それでSNSでの活動もスタートされたのでしょうか?

:パフォーマンスというよりも、流行りに乗ってみようというニュアンスの方が近いです。ドラマーとしての自分を知ってもらうために、世の中に自分を発信していこうという気持ちだったので、手段のひとつでした。SiM「killing me」の叩いてみた動画は、いまもすごく多くの方に観てもらっていますけど、当時はまさか自分がバズるとは思っていなくて。この投稿をきっかけに、どうやったら投稿が伸びるのか考えるようになりました。

SiM「killing me」叩いてみた

──投稿を拝見すると、プレイだけではなく、表情も豊かですよね。

:前提として素直に楽しい気持ちもありつつ、歌詞にあわせて表情を作ることもありますね。ひとりで撮影しているのにずっと笑っているのはちょっと...気持ち悪いじゃないですか?(笑)でもこれが貫いてきた自分なりのスタイルなので、視覚的なところも大事にしていきたいです。

──お話を聞かせていただいていると順風満帆のように思えてしまいますが、これまでの活動で苦労したことはありますか?

:そう言ってもらえることも多いのですが、自分に対するイメージが崩れてしまうのが怖くて、ネガティヴなことは発信しないようにしているだけなんです。だから、SNS上の私とありのままの私とのギャップが難しいなと思うことは少なからずありますね。ひたすらずっとドラムだけと向き合ってきたり、SNSの発信にもたくさんの時間をかけているからこそ、自分で自分にプレッシャーをかけてしまって悩むことはいまでもあります。

──そういった葛藤を抱えながらも、活動を続けたことで、老舗ドラムメーカー「pearl」とエンドースメント契約へと繋がったんですね。

:目標のひとつだったので、叶ったときは本当に嬉しかったです。ドラマーとして認めてもらえたのかなという自信にも繋がりました。SNSに収まらない活動は、具体的な目標をたくさん持てるきっかけになるし、自分の色々な気持ちに気づけるので、すごくありがたいんです。SNSも大切な場所ですけど、「SNSの人」と思われている自分から抜け出したいというのは、いまの目標のひとつですね。

この記事の筆者
梶野 有希

1998年生まれ。誕生日は徳川家康と一緒です。カルチャーメディア『DIGLE MAGAZINE』でライター・編集を担当し、2021年1月よりOTOTOYに入社しました。インディーからメジャーまで邦ロックばかり聴いています。

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