音が大事で、詞の意味は読んでくれって感じです
──THEティバは曲ごとにわりと明確なリファレンスがあるそうですが、今回は?
マヤ : けっこう曲ごとに違うんですけど、“fade” はフォキシングとか。
サチ : フォキシングの曲を聴いて「これっぽいの作りたい」からはじまった曲です。すごくおもしろいライヴ映像があって。
マヤ : お客さんが歌って、出演者誰も弾いてないみたいな。最後、ドラムだけで終わる曲なんですけど、カメラが寄っていって、ドラムの人がスティックを捨ててフロア・タムを拳で叩くっていうのがあって(筆者註:“Rory” かな?)。それを真似したかったんです。いつかやってみたい(笑)。
──なるほどね。
マヤ : “After the midnight” はさっき言った通りフィービー・ブリジャーズで。
サチ : “Mother bear” もわりと最初からイメージがはっきりしてました。
マヤ : ナンシーっていうアーティストが大好きなんですけど、その人の曲をわりと意識してますね(筆者註:“7 Foot Tall Post-Suicidal Feel Good Blues” がシャッフルのリズムでちょっと通じる雰囲気があるような)。
サチ : あと “I'm sure” はCMの音源からもう1回アレンジを考え直そうって話になって、ウィドウスピークをたくさん聴きました。
マヤ : そうそう。ウィドウスピークの西部劇感を出したいなと思って。そのときハマってた曲がよくモチーフになりますね。わたしの曲の作り方が、シャッフルで音楽を聴いてて「ん?これやばい。作ろ」みたいになるパターンが多いので。
──ナンシーとウィドウスピークは初めて聞きました。
マヤ : ナンシーはあんまり誰も聴いてないですね。すっごくいいのに。日本人みんな聴いてライヴで呼んでほしい(笑)。
──聴いていて思ったんですが、マヤさんは歌いたい雰囲気みたいなものがメロディや口の形であって、それに合う言葉を選んでいるのかな?って。
マヤ : あー、それはあるかもしれないです。意識して韻を踏んでるわけではないんですけど、メロディと歌詞が一緒にポンと出てくることが多くて、そこから前後に膨らませていく感じで曲を作るので、「このフレーズに合う他の言葉はなんだろうな」みたいに考えるんです。メロディに合う言葉と合わない言葉があると思ってて、その区別にはめちゃめちゃ気をつけてます。
──「ここ、なんて歌ってるんだろうな」と思って歌詞を見ると、意外な言葉を当てている箇所がけっこうあって。
マヤ : そこはあんまりなにも考えてなくて、聴き心地のいい言葉をはめてますね。音が大事で、詞の意味は読んでくれって感じです(笑)。
── “me” の発音が “マイ” だったりとか、“same” が “サイム” だったりとか。
マヤ : クセになっちゃってるんですよね。お母さんに「なんで?」って言われます。オーストラリアに行ったからかな? 1週間ですけど(笑)。
──あと3拍子系のリズムをよく使っていますね。
マヤ : それは好みですね。前のバンドから3拍子好きだったもんね。
サチ : そうだね。歌いやすいのかな? 例えば “Through the dark” は9/8拍子と6/8が(マヤが)弾き語りで持ってきた段階ではごちゃごちゃになっちゃってて。
マヤ : あ、そうだ。わたしがリズムがわからないまま作ってたんです(笑)。
サチ : その9になってるのところがいいなって思ったから、最初はバラバラだったのを歌があるところは9/8、歌がないところは6/8にしようって提案したんです。マヤが持ってきた段階ではそういうことを意識してないからこそおもしろい感じの曲になるんだと思います。
マヤ : そうなっちゃうみたいなのが多いんですよね。スタジオに入って……。
サチ : お披露目みたいなのをしてもらって、スタジオで練って「できた」って。
マヤ : そこで「ラフなイメージはこうなんだけど、やってみるか」みたいな感じですかね。リズムはわからないからお任せです(笑)。
──さっき宅録にハマったとおっしゃっていましたけど、それまでは弾き語りのデモが多かったんですね。
マヤ : 全部そうでした。携帯のボイスメモで録音したのを送ったり、スタジオでお披露目したりですね。
──ライヴを拝見したことがないんですが、どんなふうにやっているんですか?
マヤ : ギターをギター・アンプとベース・アンプの両方につないで、ベース・アンプのほうはオクターヴァーで下を出して、全部同時に鳴らす感じでやってます。

──同期を使わないで、その場ですべての音を鳴らすんですね。サウンドはどの段階で固めていくんですか?
マヤ : 今回はちょっと特殊だったんですけど、だいたいいつもライヴでやることをイメージしながら曲を作っていきます。どっちかっていうとレコーディングのことを考えてないよね(笑)。
サチ : そうだね。でも今回は時間がなかったこともあって、最初からマヤにとりあえず全パートを入れてきてもらうみたいな形をとった曲が多かったんです。いままではスタジオで「もしこれをライヴでやって、ここでみんなが沸いたら最高に気持ちいい」みたいな作り方をしてるかな。ライヴありきが基本です。
──ライヴをイメージしなかったわけではないでしょうが、まず完成度の高い音源を作るというアプローチですね。どっちがやりやすいですか?
サチ : これまでやってきたスタイルのほうが慣れてますけど、今回のも楽しかったです。このあとツアーをやるので、これからライヴ・アレンジするんです。
マヤ : この曲たちがどうなるか楽しみにしてほしいですね。
──けっこう化ける曲もあるかもしれませんね。宅録に凝ってデモがかなり変わったでしょう。
マヤ : (アプリに)すっごくいろんな音が入ってるじゃないですか。オーケストラとかも入ってるから、「楽しい!止まらない!」とか思って(笑)。しかもちょうどコロナで2週間家にいなきゃいけなかったので、「いまだ!」と思って。
サチ : ギターと声以外の音もすでに入ってるから、わたしもイメージがわかりやすかったですね。前だと「これできた」って持ってきて、わたしがそれを聴いて「こういうイメージが湧いた」って言ったら「それはそれでいいけど、全然違う」みたいな。
マヤ : だいたいそうだったよね。
サチ そこでズレが少なくなりました。

──逆にリズム面できることが減ったりしませんでしたか?
サチ : それもありましたね。ドラムはGarageBandの……。
マヤ : (アプリ内に)人がいるんですよ(笑)。ロックを叩く人、ポップを叩く人、R&Bを叩く人とかいて、選択すると拍子に合わせて自動で叩いてくれる。
サチ : そこで先に聴いちゃうから、一度頭から外して考えるのがけっこう大変でした。
── “Through the dark” はちょっとブルージーな雰囲気ですね。
マヤ : ケルトみたいなのをやりたくて。『メリダとおそろしの森』っていう映画で、マムフォード&サンズが楽曲提供してるんですよ。その曲(“Learn Me Right”)がめちゃくちゃよくて、「いいなー、これも歌ってくれないかなー」みたいな気持ちで(笑)。
──映画からインスピレーションをもらうことも多いんですね。
マヤ : そうですね。わたしはなにかしてないと、なにも考えられなくなっちゃうので。
──インプットとアウトプットの距離が近いタイプ?
マヤ : そうかも。飽き性なんですよ、めちゃくちゃ。すぐ飽きちゃうからすぐ出さないと。ハマった曲があると一週間1日中聴いてるみたいなことが多くて。で、飽きたら一生聴かないみたいな(笑)。
──自分たちの曲でそうならないといいですね。
マヤ : (笑)。ときどき(飽きる曲も)いるよね。
サチ : いるね。
マヤ : 飽きることもあるんですけど、ライヴでやりづらくてやらなくなることが多いかも。
サチ : 例えば “Leave Me Alone” とか、わたしは好きだし、たぶんみんなも聴きたいだろうと思うんだけど、(マヤが)歌詞的にやりたくないのかな、とちょっと思ったりする。
マヤ : (笑)。デッド・ゴースツに飽きたのかもしれない。
サチ : そういうことにしましょう。