彼のヴォーカルとしての素質はすごいものがある
──EPを聴くと、バンド名の「どういう意味なんだろう?」っていう印象が、音にも表れている気がします。リード曲 “Ultra Aventure” は、途中で沖縄音階、エジプト音階が出てきたりして展開がおもしろいですし、それこそ、先ほどニシカタさんがおっしゃった「パッチワークのような」曲作りが感じられます。
ニシカタ : “Ultra Aventure” は、僕が好きな小川美潮の曲が使われていた映画『老人Z』のEDテーマ「走れ自転車」という曲があって、それとピチカート・ファイヴを合体させて、強烈なリフをつけたら絶対これはええわ、と思って作ったのが最初からサビの部分なんです。そこから先の沖縄音階、エジプト音階の部分は、「こういうの入ってたらギャグだよね」っていう感じで、メンバーとアレンジしていった結果こうなりました。だから、この曲のいちばん最初のコンセプトは、「小川美潮、ピチカート・ファイヴ、合体!」っていうところからはじまってます。
──トム・ブラウンの発想ですね(笑)。
ニシカタ : そうです(笑)。
イコマ: 「ダメ~!」って言われちゃうやつです(笑)。
──でもふたりは、「ダメ~!」って言わないわけですよね?「こうじゃなきゃいけない」ということがない?
ニシカタ : 最初はありました。いまも残ってますけど。それは、言葉だったり、情景描写の仕方だったりとか。普遍性を持つ言葉と、自分がずっと残しておきたい言葉は全然違うと思っていて。愛情表現とか、「マジでおまえのことをどうにかしてやりたい」という表現って、いくつも道筋があると思いますし、時代によってそのパッケージングも変わっちゃうと思うんです。でも、「これなら自分の表現として残しておいてもいいかな」っていう部分はたぶんずっと変わらないです。サウンドの方はむしろ、別にメインストリームに対するアンチテーゼも考えていないですし、そこは柔軟な考えでやっていった方が、3人の可能性、資質を無駄なく使えてカッコイイんじゃないかなと思いますし、あんまり縛りはないです。
──リード曲 “Ultra Aventure”のMVにファズペダルの「BIGMUFF」が出てきますね。ファズはギターのエフェクターですが、続きはらいせのサウンドを語る上で大きいものですか?
ニシカタ : ファズは、「趣味」ですね。あれがないとバンドでギターを弾けないかというと、100そうではないですけど、ライヴハウスでちょっと際どい感じのファズペダルとかが足元に入ってると、「えっそれなんすか⁉」って話すきっかけができたりとかすることがあったので。マジでそれの延長でしかないですね。もちろん、音色としては好きなんですけど、もしかしたら今後リリースする作品ではファズを使わなくなってるかもしれないですし。こだわってる要素としてはありますけど、「これがないとバンドがやれん!」ということはないです。
──なるほど。MVに出てくるBIGMUFFって、真ん中にダイヤルのようなものが付いてますよね。あれって改造しているんですか?
ニシカタ : そうです。ビッグマフの改造を専門でやっている方がいて、その方に依頼してフットスイッチとか、ノイズゲートとか諸々追加していただいた改造品です。あれきっかけで、たくさん友だちができました(笑)。
──曲を聴いたときに、ファズ以上に印象に残ったのが、ニシカタさんの歌声でした。ニシカタさんはヴォーカリストとしてどんなことを考えて歌っているのでしょうか。
ニシカタ : ギター・ヴォーカルというポジションって、なめられがちな気がするんですよ(笑)。
──そうですか?(笑)。
ニシカタ : ギター・ヴォーカルってバッキング的なリズムギターが求められているパートで、且つ3ピースだと違った働きを求められる場合もあったりすると思うんですけど、「ギター・ヴォーカルだからここまでしか弾けません」というのは避けたいと思っていて。それで、アンサンブル優先で歌をいちばん最後に考えるので、「こんなのギター弾きながら歌えなくない⁉」みたいなものがデモで出てくるんですけど、それができたら「おおっ!」っていう感じにはなるので、そこは妥協せずに作っています。
──イコマさんはニシカタさんの歌をどう思っていて、それを演奏のなかでどう生かそうと考えていますか。
イコマ : ニシカタの声は、やっぱり特徴的ですよね。僕自身は、あんまりいろんな音楽を聴いてディグることをしないので、「このバンドのこの曲とあのバンドのこの曲って一緒じゃない?」とか「この曲って同じ人が歌ってるんじゃない?」って思ってしまうことがたまにあるんです。そういう意味では、ニシカタの声って絶対的な個性を持っていると思うので、それはバンドとしては絶対に強い武器になりますよね。彼のヴォーカルとしての素質はすごいものがあると思っています。ドラマーとして考えていることは、ニシカタの声を前に出さなきゃいけないときは意識的に後ろに下がるようにしていて。でも、性格上ずっと下がりっぱなしなのは嫌なので(笑)、ドラムが責任を持たないといけないというセクションがきたら思いきって前に出るようにしています。それは音楽理論的なことではなくて、感覚的なことだと思います。
──マサキさんは、ニシカタさんの歌をどう感じていて、どんなことを考えてベースを弾いていますか。
マサキ : 歌に関しては、「ああ、こういうメロディがあるんだ」っていう、自分のバックグラウンドにないものが出てくるので、じゃあ自分が持っているベースのフレーズでどんなものを合わせようかなって、着せ替えみたいな感覚でベースを入れています。ただ、メロディを立てたいところはルート弾きにしたり、差し引きは結構しますね。あとは、ちゃんとぶつからないところで、ベースでも耳につくフレーズを残したいという意識でやってます。「プラスアルファになればいいな」っていう感覚で弾いてます。
