REVIEW #2 NEK!と“私達の今”を映し出すコンセプトEP

Text by 阿部美香
「リアル」とは何なのか? 「リアル」はどこにあるのか?
NEK!の2nd EP「TR!CK TAK!NG」は、そんなぼんやりした(しかし、油断すると頭にこびりついて離れなくなる)今を生きる我々の疑問そのものに、収録曲5曲の歌詞が紡ぐストーリーを通じて、痛烈なパンチをお見舞いしてくれる1枚だった。
荒々しいギター・アンプのノイズとKanadeのテクニカルでスラッピーなベース・ソロ。オルタナ感あふれるインパクト満点のイントロからスタートするオープニング・ナンバーは、先行配信されたMVも話題の“zero-sum”。ネット活動を通じて結成され、バンド名や歌詞にもネットスラングを折り込んで“スラングロック”を標榜するNEK!が、激しいサウンドにのせて《しょうもない しょうもない》と歌うのは、まさにネット上の日常! 《銘々取り合うポジショントーク》や《加工で満たす承認欲求》に満ち、《主語デカお気持ちブロ解絶交》が跋扈するSNSの世界だ。そんな本音のない言葉を奪い合う“ゼロサムゲーム”なネットの攻撃的な「リアル」を、ヴォーカルHikaは、怒りすら感じる超絶技巧が飛び交うハードなサウンドをすり抜けるように、むしろ淡々と、透き通った歌声で《指先の世界は素晴らしい》と皮肉る。
そんなイマドキの痛みの「リアル」の中に、より深く潜っていくのが2曲目の“Fool”。終始、野太いベースがリードするこの曲は、“和”を感じさせるメロと尖り輝くNatsuのギター、Cocoroのタイトなドラミングが冴えている。《裏垢じゃ相当言ってる》この世界では全てが誰かの視線に晒され、モラルもなく《もはや逃げ場所 NO》。ここでは誰もが《本能に抗えない 所詮、動物ですワン》とうそぶくが、《夢、希望 なにもかも 信じてたあの頃に 戻りたい戻れない もう泥まみれなの》と語り、《嗚呼 美しいものほど 醜く見える現状です》と本音も漏れる。Hikaの歌声も“zero-sum”より感情的に響き、オクターヴを跳躍するファルセットが醸し出す苦しみと諦めが迫ってくる。
ネットの世界に放り込まれた寂しさとやるせなさは、次の“Loner”で絶望度を上げる。ひとりの夜、顔の見えない言葉が飛び交うタイムラインは孤独をあおり、《あの子の叫びも泡と消えて 一瞬で埋もれる》。そこで繰り広げられる《おとぎ話は残酷なまま続いていくから》、《他人の不幸せに群がる害虫のよう》な《ここから抜け出したい》と吐露される。素早く刻まれるハイハット、歪んだギターは激しくアルペジオを刻む。加速度を増すバンドにHikaの歌声が乗り、透明感のあるコーラスが重なる。そんなマイナーな中にメジャーな響きも混じるポップ・ロック・チューンは、悲しい言葉を紡ぎながら、どこか光を感じさせる曲調なのが面白い。そして、あるフレーズに目と耳が止まる……《There is nothing real.》、《Everything is fiction.》。ここまで追ってきたネットの中の「リアル」は否定され、全てはフィクションだと自覚される――。
ここで「TR!CK TAK!NG」の物語はベクトルを変える。それを象徴するのが、アコースティック・ギターとヴォーカルのみのバラード・テイストで始まり、ゆっくりとバンドが合流するドラマティックな“moon”だ。《Where am I going? 加工だらけの世界で》と問いかけながら、流れる時間だけが「リアル」な、月だけが自分を見ている夜。《無理になって逃げ出して それももうなんか飽きたな》と振り返り、《怖くなって立ち止まって でもその先を見たい》と“彼女”は、絶望的な場所から一歩を踏み出そうとする……(ように見える)。温かなバンド・サウンド。Hikaの歌声は、優しく差し込んでくる木漏れ日のように柔らかく、“Loner”で見えたかすかな光を追い掛けるように、明るさを増していく。
そして、“「TR!CK TAK!NG」の彼女”の物語は、EPのラストを飾る“Dreams!!!!”へと昇華する。《思考的ロックばかりじゃ 飽きちゃうでしょう?》という、悪戯めいたフレーズもご愛敬。《アタシをアタシたらしめるもの 疑う余地もないわ》と高らかに宣言し、《Don't think, feel! これ言いたかった》と笑顔を見せる。爽やかでキャッチーなポップネスに満ちたこの曲は、それまで紡がれてきた、沈み込んだ“夜”を振り切り(=リアルな自分を取り戻して)、リスナーの目の前をパッと開いていく。
ネットに呑み込まれそうになり、闇に捕らえられてしまうのも「リアル」なら、《吸いも甘いも music music 奏でろ アタシのイノセンス》と音楽を武器に、輝く「リアル」な今を駆け抜けていくのもきっと、NEK!にとっては「リアル」なノンフィクションに違いない。そして、それは今を生きる誰にでも起こりうることだ。そんなコンセプチュアルな楽曲を詰め込んだ「TR!CK TAK!NG」は、メンバーのテクニカルな歌と演奏をストレートに伝えながら、スラングロックを掲げる彼女達にしか創り出せなかった作品となった。
そしておそらく、この収録曲がライヴで放たれると、また新たな印象と想いを受けることができるだろう。なぜなら、NEK!のエネルギーはライヴ・ステージでこそ、より大きく膨らむからだ。本作を引っさげて3月8日の大阪公演からスタートし、3月16日に東京・Spotify O-WESTでファイナルを迎える初のワンマンツアー〈TR!CK TAK!NG〉で、これらの曲はいったいどんな景色を見せるのだろうか──。
ネット社会へのアイロニーから明るい未来へ横断するNEK!
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ライヴ情報
1st ONE MAN TOUR 〈TR!CK TAK!NG〉
2025年3月8日(土) 大阪 アメリカ村DROP
開場 18:30 / 開演 19:00
2025年3月9日(日) 愛知 R.A.D
開場 17:00 / 開演 17:30
2025年3月16日(日) 東京 Spotify O-WEST
開場 16:30 / 開演 17:00
PROFILE : NEK!
2024年2月10日結成。Vo/Gt.Hika、Gt.Natsu、Ba.Kanade、Dr.Cocoroから成る4人組ガールズバンドNEK!(読み方:ネキ)。
それぞれ自身のYouTubeやSNSを中心に音楽を発信してきた4人が、お互いのパフォーマンスに惚れ込み結成。
ネットから誕生したガールズバンドということで、ネットスラングで“頼れる存在のアネキ”を意味する“ネキ”がバンド名の由来。ロックをベースとしながら、ネット発の印象的な歌詞を特徴とする彼女達の愛称は“スラングロックバンド”
Vo/Gt.Hikaは、TikTokのフォロワー6万人を超え、その可愛らしいルックスとは裏腹に力強いボーカリゼーションで聴き手を魅了する。
また、演奏陣もネット界隈で一目を置かれるメンバーが揃い踏み。 Gt.NatsuとBa.Kanadeの超絶技巧ツインズによってNEK!の楽曲を 激しく彩り、Dr.cocoroの力強いドラムワークでNEK!の楽曲を支えている。
2024年7月に1st EP「EXCLAMAT!ON」をリリース。
さらに同月、結成約半年で1stワンマンライブを下北沢SHELTERにて開催しソールドアウトしたのち、11月には渋谷eggmanにて開催した2nd ワンマンライブと、12月には下北沢シャングリラにて開催した3rdワンマンライブも次々とソールドアウトにて大成功を収めた。
国内だけでなく、海外リスナーの注目も集めており、早くもガールズバンド界隈に旋風を巻き起こしている。
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