フロントマンは大爆発するポジションにいる
──音楽的にもそうなんでしょうけど、お互いのセンスのどういうところに信用があるんだと思いますか?
大内:どうだろう? でもみんな自由な心を持ってると思います。まあ演奏してもわりと本当に自由に演奏するタイプの4人なんで。30分なら30分の演奏にいい意味で気合を入れて集中して、それもなんかこうがっつり「こうやっていく」ってよりはもっと大きい方へ向かっていくみたいなエネルギーがあるところがめっちゃいいと思います。
TeeDee:塚田が中学生の時にベースをお年玉で買ったんですけど、当時なんか塚田と一緒にやりたかったので、じゃあ俺もギター買うつってギター買ったんですね。そのときの信頼関係が大事っていうのと、あとは藤本がもうすごい人間だってずっと思ってるんで、その信頼と。あと岳は藤沢でも見た時に、藤沢にもロックンロールのドラマーっているんだって思った最初の人だから、それがたまたまずっと続いていまになって4人集まれてるっていう。なんか音楽がどうこう以外の信用はそこかなと思います。
──じゃあ、それぞれ音楽をはじめたときからいままで影響を受けているとか、こういうことが好きだったからバンドをやってるっていうのはありますか?
塚田:こういう質問はね、やっぱり考えるじゃないですか。
大内:確かに。考える。
──最初の頃から変わってることも、もちろんあるとは思いますけど。
塚田:でもやっぱり僕は演奏する喜びがすごい大きいです。あとはここ2~3年ぐらいで思うようになったことは、何年続けられるのかっていうのを考えた時にベースを弾くことがすごい好きなんだなって。指ではじく感覚とかが身体的な喜びになっているんですよ。それがベースアンプのキャビネットからバーン! って鳴ってる時に地面が震える──そういうのが楽しいです。あとはやっぱりみんなで合奏すること。それのグルーヴをかみしめる感じで、そういうのが楽しいです。
──プリミティブなところですね。
大内:俺はちょうど昨日話してたんですけど、なんか小学校3年ぐらいまでめっちゃ泣いてキレる子供だったらしいんです。でも小4ぐらいから「もうそれは良くない」ってすごい怒られたのかなんなのか忘れちゃったけど、全然怒ったりしないタイプの人間になって。感情を表に出すことをしなくなったんです。だけどドラムになるとわりと爆発的に演奏しちゃうんですけど、それは“本来持ってるけど出してない自分の要素“みたいなのを出す場として音楽がすっぽりはまっちゃっているからだと思うんですよね。だからやめようみたいな話が出てこない。結構大変なことも多いんですけど、ドラムは自分の重要な一要素だからやっているというか、これがあれば誰も傷つけずにいられるな、みたいなものだから演奏してるような気がします。

──確かにそういう感情のアウトプットとして演奏が存在しているのはあるかもしれないですね。
大内:もうなんならセラピーぐらいの感じ。ドラムを叩くと健康になれるというか。
──TeeDeeさんは?
TeeDee:いちばん最初にロックンロールを目の当たりにしたというか、「こういうものなんだな」って見たのが多分小6か中1の時で。親戚のおじさんが1969年の〈ウッドストック・フェスティバル〉のDVDを見せてくれたんですけど、たぶんジミヘンのライブDVDみたいなやつだったかな。そっからずっとあれがやりたくてしょうがないっていうのは変わってない。ライヴだけじゃなくて、あのお祭りを生きて行きたいしっていうか、「あれもう1回やろうよ」みたいな、それだけの気がします。あの映像を観てぞわぞわってした感じ感じがこの4人でバンドをやることでいま感じられてて、ずっと続けたいというか。ウッドストック出たい!(笑)。
──(笑)。混沌としてるけど楽しそうだと?
TeeDee:まあ良くも悪くも自由というか。そうですね。難しいですね、なんか自由になれる瞬間があるとしたら多分ロックバンドだろうしって言う選択をしてしまったので、それをずっと続けている感じです。
──藤本さんはそういう変わらない部分ありますか?
藤本:単純に歌を歌うのが好きだから。フロントマンでありたい。
──「フロントマンでありたい」っていうのはなんなんですかね?
藤本:いちばん爆発的に表現できるっていう感じ。各々パートごとの表現の仕方っていうのはあると思うんですけど、フロントマンっていうのは大爆発する。
──誰かの人生を変えてしまいそうな?
藤本:そういうポジションなのかな? と。
──人に影響を与えたいとか?
塚田:それはあるの? 慎平がさ、この歌を聴いてこう思ってほしいとかそういうことも別にないでしょう?
藤本:影響……そうですね。伝えたいみたいなことはなくて。
塚田:誰かの為にやるわけじゃないよね。あくまで自分の爆発的な表現のためにフロントマン……。
大内:なんか誘導してね?(笑)
TeeDee:インタビュアーふたりいる(笑)。
藤本:そうですね。ま、自分を表現したいっていうのはあって、それはお客さんがいて成り立つことなんですけど。なんだろうな? 空気が好きなんですかね。そこで感動してくれたら嬉しいし、人生変わってくれたら嬉しいですけど、まあそこは別に目的としてない。最高の空気を作れたらいいかな。
塚田:いや、全く同じで、もう聴く人が勝手に聴いてくれてればいいです。僕らは自分たちが信じてきたいいものをこの4人で考えうる最高の形の演奏だったりとかをやるだけで、好きなようにしてくださいって感じで。
大内:たしかにこう思ってほしいとか思ったことないかもしれない。
塚田:僕は誰かの為にやってるとか目の前のお客さんのためにやってるとかは正直なくて、結構自分の喜びのためにやってる感じがまだありますけどね。

──でもそれは人の為になるかもしれないっていう予感は?
塚田:それはあるけど、勝手に感動してくれればいいなと。
──こういう4人だからこういう音楽になってるんでしょうね。
TeeDee:だと嬉しいです。
──作詞作曲は藤本さんがやっていらっしゃるけどそれを形にしていくときのプロセスはどんな感じなんですか?
藤本:弾き語りのデモ的なものをバンドに送って、で、そこからスタジオに入ってみんなで構成とか組み立てて行くっていうのがベーシックなやり方です。
大内:僕はいくつかバンドやってるんですけど、このバンドで特殊なのはなんかスタジオ入ってそうしようと決めてるわけじゃなくて、あんまり「この曲やろう」みたいな会話がなくて。もう部屋入って音出るようになったら自然と演奏がスタートするみたいな。それが実はなんか新曲の欠片だった、みたいなこともあったり。
TeeDee:あるね。なんか「いまのなに?」って(笑)きくと、実は(藤本が)新しいやつ用意してて、「早く送れよ、じゃあ」みたいな感じになることもあります。
大内:ライヴのときもだいたい会場リハとかスケジュール的にできないことが多いバンドなんで、会場でサウンドチェックする時とか自然に演奏して、呼吸が合ったらスタートみたいな感じですね。
──セットリストはあるんですか?
TeeDee:セットリストは、はじまる10分前ぐらいに決まりますね。
──一応あるんですね。でも究極、セットリストなくてもできるようになるのかもしれないですね。
大内:あぁ、多分できると思います。
──それはおもしろい。ジャムバンドではないけれど曲順は決まってないみたいな。
大内:なんか曲のなかにジャム要素があるものとないものがあったりして。でもジャム要素全くないライヴとかしたことないかもしれない。

──2020年のシングル「See What's There」から今回のEPまでの間に作り方って変わってきましたか?
大内:今回が結構転機で。まさにずっとその自由さというか、気持ち良い方へ向かうみたいなのが自分らの最大の持ち味だと思ってやってきて。前回のEP『Her Waves』を作ってから今作を作るにあたって、プロデューサーにいわもとたけし(編注)さんが入ってくださっているんですけど、打ち合わせ中に自分らのその強みを活かしつつ、ちょっとレコーディングを通じて新しいことにチャレンジしようっていうのがあって。具体的に言うと録り方を変えたり、はじめてクリック聴いてみたりとか。完全な一発演奏じゃなくてそのベーシックを録り重ねるような形でやってみようとか。だからちょっと客観的というか、自分らで意識してこの音を聴かすとか、構築するような感じで作った曲もあって。結構バンドが変化した気がするんです。
編注:いわもとたけしーQUATTROのVo / Gtを経て、現在はプロデューサー。FRONTIER BACKYARD、YOUR ROMANCE、Laura day romance、No Busesなどの作品を手がける。
TeeDee:けど多分いま、岳が言ってることって、他のバンドが普通にやってることで(笑)。けどそんな特殊なことはできない、切るハンドルが少ないバンドなんですよね。高校生のうちにやっとけよっていうことをいまになってようやくやりはじめたぐらいの感じなんで、別に特別なことをしたなっていうことは全然ないんですけど。でもプロデューサーのたけしさんとエンジニアの瀧澤(大介)さんがいてくれたっていうのは最初は正直どうなんだろうとは思っていましたけど、やってみたらすごい熱量を持って一緒にいてくれるし、単純にバンドメンバーが増えたぐらいの感じでやらせてもらえたんです。しんどい部分もありましたけど、アメとムチで大事にシゴいてくれたから、それはそれで嬉しかったですね。
──今回のEPは曲ごとの方向性みたいなものに対しての録り方があるのかなと思ったんですよ。
大内:まさにそうですね。
TeeDee:プロデューサーのたけしさんもレコーディングがはじまる前にライヴを観に来てくれたんです。そのライヴが多分数珠つなぎの30分でありつつ、結構曲ごとに空気がガラッと変わっていくものだったんですけど、そういうところを感じ取ってくれたのかな。「あの曲だったらこういう空気にしよう」っていう、その空気を作るために使う楽器を変えてみたりスタジオを変えてみたりしてくれたんじゃないかなっていう気がします。
大内:ライヴを観てもらった後に「まあどこまで行ってもライヴの方が良いってところもあるよね」みたいなすり合わせが音源を作る時にあったんですよ。そういう「ライヴが良さそう」なことをパッケージすることはできるけど、でもライヴの方が良くなっちゃうから、音源を作る場合は別の閉じ込め方をしなきゃいけないと。
TeeDee:具体的には長々演奏してるものも潔く切って短くまとめてる曲があったりして。その辺の意見は多分たけしさんがいないと出てこなかったところで。僕らも気持ちいいから意見がないとどんどんやっちゃうので。
