日々が流れていってしまうのが怖かったからこそ、毎日毎日曲を作った

──ライヴに手応えを感じつつ、アルバムや配信シングル、EPとかなりハイペースに音源をリリースしていますよね。去年の4月にはmekakushe名義で初のフルアルバム『光みたいにすすみたい』をリリースしましたが、幅広い曲調でmekakusheらしさが詰まった完成度の高い作品ですよね。
mekakusheで初のシングル「箱庭宇宙」を出してちょうど1年後くらいにできたフル・アルバムです。もちろん以前から作ってきた曲もあるんですけど、コロナ禍になって、学校を卒業して1人で生活するようになって、「音楽でがんばっていこう」と決めてからのすべてを詰め込んだ作品ですね。そこで完全燃焼しなくてよかったなと思います。
──というのは?
コロナ禍になってからアルバムとシングル6曲とEPを2枚も出したんですけど、その事実を考えたら、なんかすごく悲しくて。自分にとって作曲は日記みたいなものだと思っているので、ちゃんと記録して作品を出すことで「私、生きてたんだ」って感じられる安心感があるんですけど、そうしなきゃいけない状況だったのが悲しいんです。この2年間、リリースがたくさんあった裏には、膨大な時間の損失があるような気がしてて。生活しているだけで、日々がただただ流れていってしまうのが怖かったからこそ、毎日毎日曲を作って、2~3ヶ月に1回のスパンで新曲を出している。そうしないと生きられなかったくらい虚しさを感じていたと思うと、自分がかわいそうになってくるんです。
──できた作品そのものではなく、そこに至った状況を憂いていると。
コロナ禍がいまもなお続いているのが悲しいんですよ。ある意味、前回のインタヴューのときからもなにも変わってないような気がして。どこか喪失感を感じているのも、やっぱりコロナの影響があるんだろうなとは思います。
──ファンとしては曲が多くリリースされるのは嬉しいことでもあると思うので、複雑ですよね。
そうですね。わたしも充実感があるのでたくさんリリースできるのは幸せなことです。ただちょっと虚しいだけ。
──うまく折り合い付けられると良いのですが。
そういう意味でも、作家の仕事をさせていただけることが有り難くて。自分のことだけにならなかったから、内向的になりすぎずに済んだのだと思います。
──そんな状況下で作られたシングル3曲に新曲を加えたEP『はためき』が11月にリリースされました。1曲目が“泣いてしまう”というのは、mekakusheらしい構成ですよね。
なにを見ても悲しいときがあるんです。急いで家を出てやっと帰ってきたら朝飲んだコップがそのまま置いてあって、なかに入ってるジュースだかカフェラテだかが氷の部分と分離してて、それを見てふと「なにやってんだろう…」みたいな気持ちになっちゃったりとか。ほかにも赤信号とかポストとか、見てるだけで泣いてしまうものについてたくさん書いたんです。なんでもいいんですよ。だってそういうときって、全部泣けるから。
──そういう気分になるのは、前からなんですか?
むかしの日記や非公開のブログを読み返してみても、髪の毛の先だけ自分で染めてシャワーしたときに「排水口にマニパニのピンクが流れていくのが悲しい」って書いてあって、「わかる!」ってむかしの自分に共感したりするので。いまもその気持ちは全然あります。
──「○○が泣いてしまう」とリズミカルに歌詞を繰り返しているのも印象的ですよね。
同じ言葉を繰り返すことは、とても詩的だと思います。例えば私の尊敬している谷川俊太郎さんや川上未映子さんの詩にも「○○○、○を試す、○○○、○を試す、そして最後に別れを試す」みたいに、同じ言葉を繰り返している詩があるんですよ。これを歌でもやってみたいと思ったところが着想です。
──2曲目の“Nostalgia”もEPで新たに収録された楽曲です。
“Nostalgia”は10代の頃に書いた曲です。以前SoundCloudに載せていたことがあったのですが随分前に非公開にしてしまったので、今回、約5-6年越しのリリースだったのですが、「懐かしいです」「もう一度聴きたいと思っていたので嬉しいです」といった声を頂けて嬉しかったです。 ずっとお気に入りの楽曲だったのでどこかのタイミングでリメイクしたいなって思っていて、今回、EPのコンセプトにもすごく合いそうだと思ったのでリアレンジして収録しました。