
INTERVIEW : 成山剛(sleepy.ab)
演奏の繊細さとは裏腹の硬派な姿勢で楽曲制作と向き合うバンド。札幌を拠点とするsleepy.abへのそんな印象は、新作『neuron』でより確かなものになった。ドラマーの津波秀樹が脱退したこともあって、彼らからすればここはまさに転換期とも言えるタイミングだったはずだが、どうやらなにも案じることはなかったようだ。3人体制となったのを機に、バンドは前作『Mother Goose』の頃から徐々に始まったというSkype上での意見交換をさらに強化。結果的に本作は個々に強い作家性を備えている3人の創作アイデアをまた一歩押し進めることになった。もちろん、彼ら特有の幽玄なサウンドスケープも健在だ。形態は変われども揺るがないバンドの美学を堂々と示したsleepy.ab。フロントマンの成山剛に、バンドの状況と新作への手ごたえを語ってもらった。
インタビュー&文 : 渡辺裕也
sleepy.ab / neuron
【配信形態】
HQD(24bit/48kHzのwav)
【販売価格】
まとめ購入のみ 1,800円
【トラック・リスト】
01. prologue / 02. euphoria / 03. ハーメルン / 04. undo / 05. darkness / 06. earth / 07. パラベル / 08. cradle song / 09. lump / 10. around / 11. アンドロメダ / 12. torus / 13. Lost / 14. story book
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ざっくりとしたところだけを共有して、決まり事もそんなに設けない
——新作は現体制で作った初めてのアルバムということで、バンドを仕切り直さなければいけないところもあったと思うんですが、どうでしたか。
成山剛(以下、成山) : 気持ち的な部分ではありましたけど、曲づくりのプロセスに関してはあまり変わってないんです。僕らの場合は最初にアイデアを持ってきた人がだいたいの指示を出していくので。エンジニアの三好敏彦さんも、今の僕らが作っているサウンドの一端を担ってくれていますから。ただ、4人で10年くらいやってきたから、そこで足りなくなったものをどう埋めるかは考えました。だから、今回はマイナスからのスタートだったとも言えるんですけど、その分、以前より自由になったところもあって。
——余地が生まれた、ということ?
成山 : そう。これまでの僕らは4人でやることにこだわってきたんだけど、それがなくなったことで、たとえばバンドに関わるドラマーが何人いてもよくなったわけだし、鍵盤を入れてもOKになる。形態にとらわれない編成が組めるようになりました。

——このアルバムには一貫したテーマが与えられていますね。それを端的に表したのが、この『neuron』(ニューロン / 神経細胞)というタイトルだと思うんですが、これはどういう経緯で生まれた言葉なんでしょうか。
成山 : 「アンドロメダ」という曲が最初にできたときに、大きな意味での“宇宙”という言葉が浮かび上がってきて。この“宇宙”というのは、みんなでイメージを共有するための共通言語みたいなものですね。ちょうど図鑑かなにかで、宇宙の構造と脳神経の構造が酷似しているっていう内容の絵を見て、これはロマンがあるなと思ったんです。そこからイメージが膨らんでいって“宇宙→神経→脳内宇宙”みたいな感じに流れていって。なんというか、人間のなかに宇宙がある、みたいな感じですね。
——そもそも成山さんが宇宙に興味をひかれたきっかけはなんだったんでしょう。
成山 : ギターの山内からもらった「アンドロメダ」のオケに、仮の詞をつけてテキトーに歌っていたら〈アンドロメダみたい〉っていう言葉がスッとでてきて。それがきっかけですね。無意識に出てきた言葉だったし、すごく唐突だった。今でも、〈アンドロメダみたい〉ってなんだろうと思ってます(笑)。“宇宙”って、イメージとしてはちょっと大き過ぎるものだけど、そういうものがあるとバンドが先に進めるんですよね、いつも。
——確かに、“宇宙”という言葉は解釈のふり幅が大きすぎますよね。メンバー間のイメージを擦り合わせるのが大変そう。大きなテーマとしては、ある意味究極というか。
成山 : でも、“宇宙”ってけっこう都合のいい言葉でもあって(笑)。そこはけっこう共有しやすかったんですよ。ジャケットのイメージなんかも、各々がなんとなく浮かべているものがあったし、そのイメージをわざわざ絞る必要もなかった。
——アルバムをつくるときはいつもそういう感じなんですか。
成山 : そうですね。ホントざっくりとしたところだけを共有して、決まり事もそんなに設けない。たとえばこれが“宇宙”じゃなくて“深海”だとしてもそうで、対象がアブストラクトなのは1作目から変わってないと思います。
——共通言語をヒントにして、メンバーが個々で見つけてきたアイデアを折衷させていくなかで、面白いものを生み出したいということ?
成山 : 今回は特にそう。毎回レコーディングは芸森スタジオというところでやっているんですけど、それまでにメンバーと集まる機会って、実はライヴのときくらいなんです。それ以外のやりとりはすべてSkype。“じゃあ、今日は夜の1時にね”とだけ決めて、あとはSkype上で収録曲を決めたり、プロデュースの山内に曲を集めていったり。そういう作業の繰り返しでしたね。前作くらいから徐々にそういう感じになって、今回はドラムが抜けたあとのタイミングというのもあって、さらにそのやり方を押し進めることになりました。
——ウェブ上での作業にはどんな利点があるんですか。
成山 : 僕らってもともとスタジオでも意見を言い合う方じゃなくて、だらだら何時間もひたすらループをやり続けるようなことがけっこう多いんです(笑)。そこで生まれるものもあるんですけど、なんかそのやり方が自分たちには向いてないような気がしてきて(笑)。
——ここまでけっこうな作品数を重ねてきているのに(笑)。
成山 : それよりも、各々が持ち込んできたモチーフに対峙していく方が、僕らには合っているんじゃないかなって。それで、今回はみんなでSkype上の画面を共有して、“この2小節は切っちゃおう”みたいな感じの話をしながら、その場で編集したりして、制作を進めていったんです。
——打ち合わせだけじゃなくて、リアルタイムで一緒に作業するんだ!
成山 : そうそう。プロトゥールスも開いたままの状態で、切り貼りをその場でやっちゃうんです。もともとベースの田中(秀幸)が、札幌から1時間くらい離れた岩見沢というところに住んでいるから、冬なんかは雪の影響で、集まろうと思っても集まれないときがあって。
——メンバー全員の生活環境とキャラクターを配慮すると、ウェブ上での制作が合っているんですね。そうなると、今回の制作方法が今後のベーシックなやり方になりそう?
成山 : どうなんだろうなぁ。たしかに作業のスピードは速くなったし、まとまりはよくなったと思います。でも、もしかすると今の時期に適したやり方がこれだったっていうことなのかもしれない。別のやり方を求め始めることもきっとあるだろうし、それこそアドリブで作りたくなるときもまたくるんじゃないかな。
バンドの新しい土台を作ったような手ごたえがあって
——これ、きっと何度も訊かれていることだと思うんですけど、成山さんはどんな音楽がきっかけになってバンドを組もうと思ったんですか。
成山 : まず、音楽をやるならバンドじゃなきゃっていう気持ちが僕にはあって。それは90年代のUKからの影響が大きかったかな。それこそオアシスやレディオヘッド、ブラーみたいなバンド。あの辺のバンドって、なんか大きな感じがしたというか…。
——夢があった、みたいな。
成山 : そうそう(笑)。現実的じゃない感じが面白くて。喧嘩とかのゴシップ的な部分も含めて、なんか派手だったから。
——音楽性においても影響は大きかった?
成山 : 受けたと思います。ああいう音楽を日本語でも響くようにしたいっていう気持ちが、ひとつのきっかけにはなりましたね。
——でも、さっきのSkypeの話なんかを聞いていると、その結成当時に抱いていたバンド幻想みたいなものが、今となってはかなり形が変わってきた感じがしますね。
成山 : そうですね。やっぱりドラムが脱退して3人になった時点で、バンドっていう形態にこだわらずに作りたいと思ったから、その変化は大きいと思う。
——では、その活動初期から最新作に至るまで、sleepy.abというバンドに通底しているものがなにかあれば教えてほしいです。
成山 : 精神的なものはあります。夜に聴きながら眠れるような音楽を作りたいっていうこと。ひとりになれる音楽ですね。

——じゃあ、ちょっと話を脱線させてしまいますが、いま、成山さんが音楽以外で関心を持っていることはなにかありますか。
成山 : 登山かな。そういう答えでいいですか(笑)。
——ばっちり(笑)。実際に登っているんですか。
成山 : ここ2、3年のことなんですけどね。山登りってわかりやすくて。登ったときの達成感がものすごいんですよね。
——ちなみに最近はどんな山に登ったんですか。
成山 : 札幌の手稲山という、標高1200メートルくらいの山です。それを6時間くらいで。ホンットにきつかった(笑)。実は3回目の挑戦でやっと成功したんです。崖で引き返すことになったり、普通に熊の糞が落ちてて“あ、今日はここまでにしましょう”みたいなことになったり(笑)。
——登山かぁ。偏見かもしれないけど、山登りに惹かれる人の心境って、なにかしらの鬱屈した思いを抱えている場合が多いような気がするんですけど(笑)。
成山 : まさにそうです(笑)。山に向かいたくなる精神状態はあると思う。僕の場合は、曲の締切が設定されている日に、よく登りに行くんです(笑)。だから、逃避みたいなところがあるんでしょうね。あるいは願掛けとか修行とか、そんな感じなんだろうな。どう表現したらいいかわからないけど、あんなに気分が解放されることって、あんまりないと思いますよ。それは300メートルくらいの山でも感じることはできると思う。僕もまだ経験が浅いから、わかったようなことは言えませんけど。
——山登りはちょっと慣れてきた人ほど事故に遭いやすいから、難易度を上げ過ぎないようにしてもらわないと(笑)。
成山 : 最近、登山用のアイテムが揃ってきてるから、たしかに危ないかもしれない(笑)。
——でも、山登りって明確なゴールがあるからいいですよね。もしかするとそれはsleepy.abの制作に対する姿勢にも言えることなのかなと思いました。つまり、いつもなにかしらのテーマや到達点をきっちりと設定して、そこに向かって作品を形にしていくっていう。たとえば「torus」(トーラス / 円環)という曲がありますけど、あれは幾何学で使われる言葉ですよね。そういうボキャブラリーにも、物事を解き明かしたいっていう欲求が表れているのかなって。
成山 : そんなに頭がよさそうな感じではないです(笑)。あれは、日常がドーナツみたいに繰り返されていくイメージと、土星の輪っかみたいなイメージをつなげたもので。物事の繰り返しって、ルーティーンとかマンネリみたいな言葉で悪く捉えられる風潮があるけど、僕はそうは思っていなくて。そういう日常的なこともそうだし、宇宙についてもまさにそういうイメージがあった。でも、こういう大きなテーマに向かっていく作り方は、確かに1作目の頃から変わってないとは思います。ただ、今回のアルバムではバンドの新しい土台を作ったような手ごたえがあって。
僕は音楽にロマンみたいなものを大事にしていて
——メンバーの脱退もあったし、今回は制作がもっと難航してもおかしくなかったと思うんですけど、結果的には1作目から現在まで、みなさんは一定の制作ペースを保っていますよね。これまでにバンドが大きくバランスを崩したことはなかったんですか。
成山 : そこはむしろ、間隔を空けずに作品を形にしていくことでバランスを保っているんだと思います。みんなでこのアルバムを作りながら、バンドの新しいバランスをつくっていったところはあると思う。(脱退は)けっこうな大事件でしたからね。ショック療法みたいな感じもあったのかもしれない。
——じゃあ、新作ができたばかりで気が早い話ですけど、もうこの先の展望も見えてきている?
成山 : 新しい曲はいくつかあります。ただ、今はそういうことよりも曲づくりのアプローチがもっと自由になっていく予感があるので。リズムに関しては特にそう。
——新作は過去に増してビートがアグレッシヴですよね。
成山 : そうですね。サポートの鈴木浩之くん(ex.ART-SCHOOL)にしても、けっこうわかりやすく前のドラムと真逆な人をチョイスしたところがあって。それは刺激になりました。今回は鈴木くんのエモーショナルなドラムを想定したところもあったから。

——こうして現体制でうまく仕切り直せたということは、またコンスタントにリリースを重ねていけそうですね。
成山 : 気持ちとしてはそうですね。ただ、身体がどうなるかな(笑)。札幌に帰ると、どうしても怠け癖がでちゃうから(笑)。
——でも、その拠点を変えないことがバンドのバランスを保つ上ではかなり大きいんじゃないですか。
成山 : 単純に札幌の街が好きっていうのもあるんですけど、こっち(東京)にくると、どうしてもスピードが上がるんですよね。歩く速度から思考回路まで、すべてが上がる感じがして、それが怖い(笑)。それってどこかで無理しているところが絶対にあると思うから。こっちのスピード感に身体を慣らして、賢く音楽を作るようにはなりたくないのかもしれない。単純に言うと、自分のペースでやりたいんです。そこを守ろうとしているんだと思う。
——では、このバンドが守らなければいけないものは、その他にもなにかありますか。
成山 : 歌詞に関していうと、自分のなかでルールがあって。それは、社会的なものを取り入れない、ということ。それもまた大きな括りですけど(笑)。ひとりになれる音楽っていう話にもつながるんですけど、やっぱりファンタジーが大切なんです。それは書き始めた頃からずっとそうで。日常性はOKなんですけどね。青臭いのかもしれないけど、僕は音楽にロマンみたいなものを大事にしていて。
——なるほど。ロマンかぁ。
成山 : 自分で言っておきながら、なんか恥ずかしいですね(笑)。
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LIVE SCHEDULE
2013年3月2日(土)@タワーレコード渋谷店 B1F「CUTUP STUDIO」
2013年3月5日(火)@新宿LOFT /w THE NOVEMBERS
「neuron tour」
2013年4月11日(木)@金沢 vanvan V4
2013年4月13日(土)@名古屋 APOLLO THEATER
2013年4月14日(日)@大阪 JANUS
2013年4月16日(火)@福岡 VIVRE HALL
2013年4月17日(水)@岡山 Crazymama 2nd Room
2013年4月20日(土)@東京 キネマ倶楽部
2013年4月21日(日)@東京 キネマ倶楽部
2013年5月6日(祝)@札幌 PENNY LANE 24
2013年5月10日(金)@仙台 HooK
PROFILE
sleepy.ab
札幌在住の3ピース・バンド。接尾語の"ab"が示す通りabstract=抽象的で曖昧な世界がトラック、リリックに浮遊している。シンプルに美しいメロディ、声、内に向かったリリック、空間を飛び交うサウンド・スケープが3人の"absolute" な音世界をすでに確立している。FUJI ROCK FES.、SUMMER SONIC、ROCK IN JAPAN、ARABAKI ROCK FES、RISING SUN ROCK FES、RUSH BALL、JOIN ALIVEなどの大型フェスにも出演。
(member)
成山 剛 : Tsuyoshi Nariyama / Vocal, Guitar
山内 憲介 : Kensuke Yamauchi / Guitar
田中 秀幸 : Hideyuki Tanaka / Bass