OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.327 追悼 : ジュニア・バイルズ、マックス・ロメオ
OTOTOY編集者の週替わりプレイリスト&コラム(毎週金曜日更新)
追悼 : ジュニア・バイルズ、マックス・ロメオ
少し前に、1ヶ月ほどであいついで1970年代から活躍する2人の偉大なルーツ・レゲエのシンガーが亡くなった。マックス・ロメオ (1944~2025) とジュニア・バイルズ (1948~2025) のふたりだ。どちらもそのキャリアを1960年代末からスタートさせ、1970年代初頭のレゲエからルーツ・レゲエへと移り変わる時期に活躍を活発化させたアーティスト。ルーツ・レゲエの隆盛の重要な背景となるラスタファリアニズムに傾倒し、ジャマイカの社会不正や暴力への異議申し立てや、反植民地主義的なアフリカ回帰を歌ったシンガーでもある。また当時の敏腕プロデューサーのリー・ペリーが、世界へと羽ばたったボブ・マーリーに続いてもっとも力を入れていたのが、ジュニア・バイルズで、彼が精神的な病で一時的に音楽業界から去った後 (数年で復活)、リーのプロデューサとしての絶頂期に手がけたのがマックス・ロメオと言えるだろう。今回は5曲づつ、1970年代のリー・ペリー・ワークスを中心にそれぞれ選んでみた。
ジュニア・バイルズの代表作といえばルーツ・レゲエ初期の名作でもあり、リー・ペリーが自身のスタジオ〈Black Ark〉を立ち上げる直前の代表作でもある1972年の『Beat Down Babylon』。“Beat Down Babylon” や “A Place Called Africa” などを収録している。また〈Black Ark〉設立直後の1974年のヒット作「Curley Locks」もある。またこうしたシングルにはインストやヴォーカルを差し替え、そしてミックスを変えたさまざまなヴァージョンがあり、リー・ペリーがダブの音響感覚を革新的に拡張していった実験がそこではなされていた。昨年リリースの『Curley Locks: The Upsetter Singles 1973-1975』、それこそタイトル曲だけでも3ヴァージョンが収録されるなど、リーの執拗なヴァージョニングの実験が楽しめる。1974年には、ラスタの生き神として崇められていたエチオピアの皇帝、ハイレ・セラシエ1世が逝去すると、その信仰心から自殺を試むほど弱り、音楽業界から離れていた。1970年代後半にはマイペースながら復活、〈Channel One〉にて「Fade Away」を発表。こちらはご存知のようにポストパンク期のUKダブを象徴する、〈ON-U〉のニュー・エイジ・ステッパーズにてスリッツのアリ・アップがカヴァーしている。
そして、マックス・ロメオと言えばやばり〈Black Ark〉スタジオの全盛期、ジュニア・マーヴィン『Police & Thieves』(1977年) とともにリー・ペリーのプロデューサーとしての代表作ともいえる『War Ina Babylon』(1976年)。1970年代中ごろのジャマイカでは、政治情況が悪化、政権を担う二大政党のどちらもその手先となるギャングたちをキングストンの街に放ち、銃を持たせて抗争させていた。暴力が跋扈する、もはや内戦のようなこの情況を歌ったのが表題曲だ。マックス・ロメオは1980年代以降も比較的亡くなる直前までリリース、ライヴともに精力的に活躍し、数多くの作品を残している。前述のアルバム『War Ina Babylon』収録の “Chase The Devil” は、UKのレイヴ・バンド、ザ・プロディジーに、1992年にヒット曲 “Out Of Space” のなかで大胆にサンプリングされ、その声がレイヴに轟いた。
